第五十話:トウマの実家と秘めたる誓い
トウマとシオリが予備の撥を取りに実家へ向かった後。
鳳凰の村の大聖堂に残ったソフィア、アーサー、そして三聖獣たちは、静かに休憩の時間を過ごしていた。
大聖堂のベンチに腰掛け、温かいお茶を口に含んだソフィアが、ふと思い立ったように隣のアーサーへと視線を向けた。
「ねえ、アーサー。前々から気になっていたのだけれど……トウマとシオリって、やっぱりそういう関係なのかしら?」
「は? ……そういう関係って、どういうことだ?」
ソフィアの唐突な質問に、青龍刀の手入れをしていたアーサーは素で首をかしげ、ポカンとした顔を浮かべた。
それを見かねた、机の上で毛づくろいをしていた天狐(師匠)が、呆れたように長いくしゃみをもらす。
『ハックション! ……まったく、お前は龍人の血を引いておるくせに、そういう機微にはさっぱりじゃな。トウマのやつには勿体ないくらいじゃが、互いの欠点を補い合っておる、なかなか良いお似合いの二人じゃよ』
天狐はニヤニヤと目元を緩ませ、フサフサの尾を揺らしながら満足そうに頷く。
「えぇ〜……!? トウマとシオリが……!? 嘘だろ、ただの旅の仲間じゃなかったのか!?」
目を丸くして驚愕するアーサーに、天狐は肩をすくめて追撃を浴びせた。
『まったく、ずっと一緒に旅をしておきながら全く気づかんとはな。トウマに負けず劣らず、お前も大概鈍感じゃの〜! クッカッカ!』
『ふむ、我もアーサーの鈍さには同感だな』
空中を泳ぐミニ青龍まで一緒になって頷き、アーサーは「うぐっ……」と言葉を詰まらせる。
そんな男たちのやり取りを目の当たりにして、ソフィアはくすりと可愛らしく苦笑いを浮かべるのだった。
◇
一方、鳳凰の村から少し離れた静寂に包まれる竹林の奥。
トウマとシオリは、昔懐かしい木造の家に到着していた。トウマが育った家である。
「ここが、トウマさんのおうち……」
シオリが目を輝かせて周囲を見渡す。庭には古い練習用の三味線や、工具や道具が大切に整えられてあった。
「はは、そんな大層な家じゃないよ。ただの古い木こり小屋みたいなもんだから」
トウマが照れくさそうに鍵を開け、二人で中へと足を踏み入れる。
「そんなことないです! 全然素敵ですよ……温かくて、トウマさんの匂いがします」
シオリが嬉しそうに微笑むのを見て、トウマは少し顔を赤くしながら奥の棚を探し、丁寧に保管されていた漆塗りの予備の『撥』を取り出した。手にしっくりと馴染む感触に、ほっと息をつく。
「よし、これでバッチリだ。やっぱり演奏できないのは嫌だからね」
トウマは撥を大切に懐へしまうと、懐かしそうに柱のキズを見つめた。
「ほんとはね……俺、ここで大好きな三味線だけを弾いて、穏やかに暮らしていたかったんだ。……まさか、祠で封印されていた師匠(天狐)をドジで解いちゃって、こんな世界を巡る大冒険に出ることになるなんて思ってもみなかったよ」
ぽつりと漏らしたトウマの本音に、シオリは静かに耳を傾ける。トウマは振り向き、シオリの目を真っ直ぐに見つめた。
「でも……旅に出て、本当によかったと思ってる。だって……シオリさんと出会えたことが、本当に嬉しかったから」
「トウマさん……」
シオリの胸がキュッと熱くなる。彼女はトウマの元へ一歩歩み寄ると、愛おしそうにその手をつつんだ。
「……私も、そうですよ。トウマさんと出会えて、一緒に旅が出来て……本当に嬉しいです。トウマさんが私を外の世界へ連れ出してくれたから、私は自分の力を見つけることができたんです」
見つめ合う二人。
夕暮れの優しい光が窓から差し込み、二人の影を一つに重ね合わせる。
吸い寄せられるように、トウマはシオリの肩を抱き寄せ、シオリも静かに目を閉じた。
二人はそっと、唇を重ね合わせた。
甘く、温かな誓いの口づけ。
唇が離れると、シオリの頬は真っ赤に染まり、トウマも胸の高鳴りを抑えきれない様子でシオリの小さな手を強く握り締め直した。
「シオリさん……絶対に、俺がシオリさんを守るからね」
「はい……。私も、トウマさんを守ります……ずっと、一緒に」
二人は互いの温もりを確かめ合うように、もう一度、深く愛おしい口づけを交わしたのだった。
「……よし! そろそろみんなのところに戻ろうか」
「はいっ!」
赤くなった顔を互いに見合わせ、恥ずかしそうに微笑み合いながら、二人はしっかりと手を繋いで大聖堂へと向かって歩き出した。
◇
トウマとシオリが鳳凰の村の大聖堂へ戻ると、すでにソフィア、アーサー、そして三聖獣たちが円卓を囲んで待っていた。
「お帰りなさい、二人とも。無事に予備の撥は見つかったかしら?」
ソフィアが優しく迎え入れる。アーサーはどこかギクシャクとした様子で「お、おかえり……」と二人を交互に見つめ、天狐はニヤニヤと意味深な笑みを浮かべていた。
「うん、バッチリ取ってきたよ! 待たせてごめん、ソフィアさん」
トウマが元気に頷き、シオリも神楽巫女の衣装を整えて凛とした表情でソフィアの前に立った。
「全員揃ったわね。……それでは、北の大陸への進撃に向けた『作戦会議』を始めましょう」
ソフィアが愛用のタクト(指揮棒)を台の上に置き、引き締まった表情で地図を広げた。
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