第四十九話:三聖獣の誓いと、故郷への束の間の休息
東の大陸・鳳凰の村の大聖堂。
広々とした聖堂の奥で、無事に激闘を終えたトウマたちは旅の疲労を癒やしていた。
その中央では、天狐(師匠)、ミニ青龍、そして優雅に佇むミニ鳳凰の三聖獣が輪になり、静かに語り合っている。
「……こうして改めて三聖獣様が並んでいるのを見ると、やっぱりすごいなぁ」
トウマがしみじみと呟き、肩の上から跳び下りた天狐をまじまじと見つめた。
「こうして見てると……師匠って、ただの生意気な犬じゃなくて、ホントに伝説の九尾の狐なんだな」
『……ぬおっ!? たわけが! 我を犬などと一緒に敷くなと言っておろうが! どこをどう見れば犬に見えるのだ!!』
怒りで柴犬のような丸っこい姿をぷくーっと膨らませ、フサフサの尾をピンと立てる天狐。シオリがクスクスと笑いながら、トウマの耳元でそっと囁く。
「トウマさん……天狐様、地獄耳ですからしっかり聞こえてますよ」
「あはは……ごめんごめん、冗談だってば!」
トウマが苦笑いしながら謝ると、青龍がフッと鼻を鳴らし、天狐をチラリと見下ろした。
『くく……だが天狐よ、力を失い尾を奪われた今の姿は、狐というよりは毛玉の柴犬に見えなくもないぞ』
『黙れ青龍! お前とて体長三十センチの青ヘビのようになっておるではないか!』
『なに……!? 戯けが、我が姿は誇り高き霊竜だ!』
ギャーギャーと不毛な口喧嘩を始める天狐と青龍。その微笑ましいやり取りを、鳳凰が温かな眼差しで見つめながら言った。
「ふふ、相変わらず賑やかだな。……天狐よ、南の大陸で二つの尾を取り戻し、これで計六本まで集まったのだったな。残る尾もあと三本か」
天狐はコホンと一つ咳払いをすると、誇らしげに自身の尾を振り返った。
『うむ! 南での戦いを経て六本まで戻ったからの。残り三本も必ず探し出してみせるぞ』
すると、静かに話を聞いていた青龍が表情を曇らせ、重々しい声で呟いた。
『千年前……北の大陸から突如として押し寄せてきたあの闇の軍団。我が龍神の山で眠りにつくこととなったのも、あの凄まじい邪気の所為だ。やはり……北の大陸で何かが起きておる』
『左様……』
鳳凰も深く頷き、翼を静かに揺らした。
『かつて我らと共にこの世界を統べ、北の大陸を護っていた四大聖獣が最後の一柱——『麒麟』。千年前の戦い以降、麒麟の気配が異様な闇に塗れ、完全に途絶えておるのだ。北の大陸で何が起きているのか……麒麟に何かが起こっているとしか思えぬ』
三聖獣の重厚な会話に、トウマ、アーサー、ソフィアも息を呑む。
やはり北の大陸には、世界の存亡に関わる恐ろしい謎が秘められているのだ。
◇
その時、大聖堂の重厚な扉が開かれ、東の大陸の防衛兵が慌ただしく駆け込んできた。
「失礼いたします! 報告……いや、先ほどシオリ様が風雷神楽で退けた魔物の残骸から、このような光る怪しげな物体が回収されました!」
兵士が恭しく差し出した布の上には、眩い黄土色の光を放つ、フサフサとした毛の塊が乗っていた。
「ん……? これって……」
トウマが目を丸くしてそれを見つめ、思わず声を上げた。
「これって……師匠の尻尾じゃないの!?」
『ぬぬっ!? 我が霊気の尾ではないか!!』
天狐が勢いよく飛びつき、その光を吸い込む!
すると、光は天狐の腰元へと収まり、フサフサとした尾がポンッと新たに一本増えた!
『おおお……!! 力が満ちてくる……! 間違いなく我が七本目の尾じゃ!』
「すごい……! 先ほどの戦いでシオリさんが倒した魔物の中に、尾の力を奪って取り込んでいたやつが混ざっていたんだ!」
トウマが目を輝かせてシオリを振り返る。
「シオリさん、すごいよ! 意識しないうちに、師匠の尻尾まで取り戻しちゃったんだから!」
「ええっ……!? わ、私はみんなを守るのに必死で、無我夢中だったから全然わかりませんでした……!」
シオリは両手を振ってパニックになりながら照れまくる。
「くっくっく、見事だ九十九の巫女よ。この七本目の尾に宿る能力は【土】。大地の霊気を操り、防壁を築く力じゃ! 礼を言うぞ、シオリ!」
天狐が満足そうに尾をなびかせ、これで残る尾はあと二本となった。
◇
少し場が和んだところで、トウマがふと思い立ったように頭をかいた。
「ねえ、ソフィアさん、アーサーさん。せっかく東の大陸に来たんだし……作戦会議の前に、一回俺の家に戻ってもいいかな?」
「トウマの実家に? 何か忘れ物でも?」
「うん、先の戦いで三味線の『撥』を無くしちゃってさ。演奏できないのがすごく嫌なんだよ。実家に予備があるから、それを取りに行きたくて」
「ふふ、演奏家らしい理由ね。構わないわ、作戦の準備にはまだ時間がかかるもの。行っておいで」
ソフィアが優しく微笑むと、シオリがすっと一歩前に出た。
「あの……! なら、私もお供します! トウマさんの生まれ育ったおうち、見てみたいです……!」
少し頬を赤らめながら見つめてくるシオリに、トウマは照れくさそうに笑った。
「ありがとう、シオリさん! じゃあ、二人で行ってこようか!」
◇
防衛戦の喧騒が嘘のように消え去った、鳳凰の村の静かな小道。
夕暮れ時の優しい橙色の光線が、二人の足元に長い影を落としている。
トウマとシオリは並んで歩いていた。
言葉は多くない。けれど、風が揺らす木の葉の音と、二人の静かな足音が心地よく重なり合う。
「シオリさん……さっきは格好良かったよ。『風雷神楽』、すごく綺麗で……本当に凄かった」
「ふふ……ありがとうございます。でもね、トウマさん。私が強くなれたのは……『トウマさんの力になりたい』って、そう強く願ったからなんですよ」
シオリが立ち止まり、照れくさそうに、けれど真っ直ぐな瞳でトウマを見つめる。
「え……あ、そ、そうなんだ……」
思わずドキッとして赤面するトウマ。シオリも自分の言った言葉の甘さに気づいたのか、慌ててぽっと顔を赤く染めて俯いた。
これまで怒涛のように駆け抜けてきた過酷な戦い。
だが今、この瞬間だけは、二人を包む時間はとても穏やかで、温かく、ゆっくりと流れていたのだった。
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