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第四十六話:鳳凰の炎と軍師の指揮、そしてシオリの葛藤

 空を覆うほどの巨大な翼を広げ、真の聖獣として神々しい輝きを放つ『鳳凰』。

 その力強い背に乗ったソフィア、シオリは、雲海を激風とともに突き抜け、東の大陸へと降り立った。


 しかし、眼下に広がっていたのは、豊かな風光ではなく、黒煙と怒号が渦巻く惨状だった。


 東の大陸の北——『鳳凰の村』の防衛ラインには、北の大陸から侵攻してきた魔物の大軍勢が押し寄せ、駐屯する鳳凰の国の兵士たちが必死の防衛戦を展開していたのだ。


「各員、動揺するな! 隊列を整え、陣形を維持せよ!」


 鳳凰の背から戦況をひと目で見抜いたソフィアが、その澄んだ声を戦場全体へと響かせる。彼女の瞳には、一切の迷いも焦りもなかった。


「シオリ、鳳凰様! 着空と同時に中央の最前線を押し返します! 鳳凰様は右翼の敵群へ火炎を、私は左翼の部隊へ弓兵の集中砲火を指示します!」


「は、はいっ!」


「任せるが良い、ソフィア!」


 鳳凰が旋回し、爆風とともに地上へと降り立つ。


「全軍、私の指示に従いなさい! 前衛は楯を構えて敵の突撃を受け止め、後衛の術者隊は三秒後に一斉詠唱! ターゲットは前線より五十メートルの密集地帯!」


 ソフィアの響き渡る指揮に、混乱していた防衛軍の兵士たちの動きが劇的に変わる。長年の軍略の知識と冷静沈着な状況判断により、散り散りだった防衛線が一瞬にして強固な要塞へと変貌を遂げた。


「行け……天の炎よ!」


 さらに鳳凰が巨大な翼を羽ばたかせると、眩い灼熱の業火が解き放たれ、右翼から押し寄せていた数千の魔物の軍勢が一瞬にして焼き払われていく!


「すごい……! ソフィアさんの指揮と、鳳凰様の火力が完璧に噛み合ってる……!」


 シオリも前線の少し後ろで竹笛を構え、果敢に援護攻撃を仕掛けた。


「私も……みんなを助けなきゃ! 疾風よ、切り裂け……『疾風の刃(カマイタチ)』っ!」


 シオリが竹笛から放った鋭い風の刃が地表を走り、迫り来る中型魔獣の足足を切り裂いて足止めし、傷ついた兵士には『清霊の旋律』で微かな回復の風を送る。


 だが——あまりにも巨大なスケールの戦場において、自分の解き放つ『疾風の刃』は、せいぜい敵数体を怯ませる程度にしかならなかった。


「よし……! 魔物の第一波、後退していきます!」


 ソフィアの完璧な陣形指示と鳳凰の圧倒的な火炎により、押し寄せていた魔物の大軍勢は一旦勢いを失い、退却を開始した。


「勝ったぞーっ!」「軍師様万歳! 鳳凰様万歳!」


 勝利に歓喜し、勝ち鬨をあげる兵士たち。ソフィアは胸を撫で下ろし、兵士たちへ指示出しに向かった。


「第一波は退けましたが、敵の本隊はまだ引いていません。今のうちに負傷者の救護と陣形の再構築を!」


 テキパキと動き回り、凄まじい存在感を放つソフィアの背中を、シオリはぽつんと立ち尽くしたまま見つめていた。その表情には、勝利の喜びは一切なかった。


(すごいな……ソフィアさんは軍師だからあたり前だけど、あんなに大勢の兵士さんたちを的確に指揮して、戦況を一瞬で変えちゃうんだ……)


 シオリは、自分の手の中にある小さな竹笛を見つめる。


(私の『疾風の刃』じゃ、数体の魔物を傷つけるのが精一杯……。癒やしの風だって、この激戦じゃ気休めににしかならない……)


 頭に浮かぶのは、別れて戦っている仲間の姿だった。

 黄金の霊刀を振るい、炎と雷の霊気を操って前線で爆発的な火力を叩き出すトウマ。

 絶体絶命の状況でも仲間を守るため、誇り高く刃を振るう竜人の戦士アーサー。

 そして今、目の前で圧倒的な軍略と聖獣の炎で見事に敵を散らしたソフィアと鳳凰。


(トウマさんも、アーサーさんも、ソフィアさんも……みんな自分の力で敵を倒して、世界を救おうとしてる。なのに……私だけ……)


 一撃で大軍を払うこともできなければ、戦況をひっくり返す指揮も執れない。自分の『疾風の刃』や支援術の小ささに、激しい無力感が襲いかかる。


(私……トウマさんたちの足を引っ張ってるだけなんじゃ……。このままじゃ、本当の意味でみんなの隣に立つことなんてできない……)


 胸を突く焦燥感と悔しさ。

 シオリはぎゅっと唇を噛み締め、溢れそうになる涙を必死にこらえながら、静かにうつむくのだった。



読んでいただきありがとうございました!


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