第四十三話:孤立するトウマと、陰陽師の覚醒
「うあああああッ!!」
俺の絶叫とともに、右手からドス黒い闇の波動が爆発的に解き放たれた。
暗黒の奔流は一瞬にして親子へ迫っていた大型の魔物『ギガントエイプ』たちを呑み込み、その存在を影すら残さず消滅させた。しかし——その代償はあまりにも大きかった。
「ガハッ……!? あ、頭が……割れる……!」
解き放たれた極大の闇の霊気が、怒涛の勢いで俺の精神へとなだれ込んできたのだ。激しい頭痛と、世界全てを破壊したくなるような邪悪な衝動が頭の中を狂わせていく。
『トウマ! しっかりせい! 闇の意思に魂を呑まれるな!!』
肩の上で師匠が必死に叫び、清らかな狐火を放って俺の精神を繋ぎ止めようとする。だが、俺の体から噴き出す禍々しい漆黒の瘴気は嵐のように巻き起こり、師匠の霊気すらも強烈に弾き返してしまった。
「う……あぁぁぁっ!!」
吹き荒れる瘴気の波によって、師匠の体が大きく吹き飛ばされる。
『しまっ……トウマぁぁぁッ!!』
「師匠……ッ!?」
暴走する瘴気の壁が俺と師匠の間を完全に引き裂いた。師匠の声が遠ざかり、互いの霊気の繋がりがプツリと途絶えてしまう。
天狐の力を失い、黄金の霊刀は霧のように消失した。そればかりか、漆黒の瘴気は俺の身体を内側から蝕み、一歩も動くことができない。そこへ、闇の匂いを嗅ぎつけた数百匹もの魔物の群れが、ニヤニヤと歪んだ笑みを浮かべて俺を取り囲んだ。
(くそっ……師匠の言う通りだった……! 俺には……この力を扱う資格なんてなかったんだ……!)
動かない身体。遠のく意識。群がる魔物の牙が首元に届こうとした、まさにその時——。
俺の胸元に下がっていた、天神一族に代々伝わる古い『勾玉』が、眩い純白の光を放ち始めた!
「な、なんだ……!? 勾玉が……?」
白光が周囲の漆黒の瘴気を一瞬で浄化し、時間の流れすら停止したかのような静寂が訪れる。光の中から、優しくも威厳に満ちた男の姿が幻影となって浮き上がった。
『——我が末裔、トウマよ』
「え……? あなたは……まさか、ご先祖様の……天神フウマ様!?」
『そうだ。我が魂の一片はこの勾玉に宿り、お前を見守ってきた。……トウマよ、闇の力とは力任せに振るうものではない。光と闇、万物の理を統べ、調和させることこそが、我ら一族の真の力……【陰陽の道】なのだ』
フウマ様の幻影が、そっと俺の額に手を触れる。その瞬間、途方もない古の知識と術式が、一気に脳内へ流れ込んできた。
『我が血を受け継ぐ者よ。覚醒しなさい。光と闇の理を紡ぎ、正しき式神を喚び起こすのだ』
「陰陽の……力……!」
溢れ出す新たな温かな力により、闇の侵食は完全に消え去った。俺はカッと目を力強く見開くと、地面を疾風のように踏みしめた。
知識が自然と指先を動かす。俺は二本の指を立て、九字の印を結びながら空中へと鮮烈な光の陣を描き出した!
「天に満ちる光と地を満たす闇、我の呼び声に応えよ! 臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前——!!」
空間が裂け、黄金と漆黒が交差する二つの極大の魔法陣が展開される。
「現れよ! 式神『玄武』! 式神『朱雀』!!」
——ゴォォォォォォンッ!!
重厚な地鳴りとともに、絶対の防御を誇る巨岩と霊水の甲羅を纏った巨大な大亀『玄武』が降臨! 玄武が放つ神聖な結界が、西門の広場全体と竜人の市民たちを一瞬で包み込み、群がる魔物の攻撃を完璧にシャットアウトした。
そして同時に——!
「「キィィィアアアアアッ!!」」
天地を揺るがす美しくも猛烈な鳴き声とともに、全身に神々しい紅蓮の炎を纏った巨大な霊鳥『朱雀』が空へと舞い上がった!
「すごい……これが、俺の……陰陽師の力……!」
覚醒した式神たちの圧倒的な威光の前に、群がっていた魔物たちは恐怖に慄いて後退していく。
「玄武! 避難路と街の市民たちを死守しろ! 朱雀、俺を乗せろ!」
朱雀が滑空し、俺をその背へと乗せる。
「行くぞ朱雀! 東門へ……アーサーさんのところへ急ぐんだ!」
炎の翼を羽ばたかせ、俺を乗せた朱雀は疾風のごとく、アーサーさんが戦う激戦の東門へと飛び立つのだった!
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