第四十二話:西の大陸の危機と、禁断の闇
光と闇の聖獣グラディウスとノックスの背に乗り、大空を疾走すること数時間。俺とアーサーさん、そして師匠は、ついに西の大陸——竜人の国、アーサーさんの故郷へと到着した。
しかし、眼下に広がっていたのは、豊かな緑と誇り高き竜人の城下町ではなく、不気味な紫黒色の瘴気と、街を埋め尽くさんばかりの魔物の大軍勢だった。
「そんな……! 王都が、ここまで追い詰められているなんて……!」
アーサーさんが青龍刀の柄を握り締め、悔しさに唇を噛みしめる。北の大陸から海を渡って押し寄せた魔物の群れは、すでに王国の外郭を破り、市民が身を寄せる城門の前まで迫っていた。
『トウマよ、着空する前にこれだけは固く言い渡しておくぞ』
俺の肩の上で、六本の尾をフサフサと揺らしていた師匠が、今までにない真剣な眼差しで俺を見つめてきた。
「え……? なんだよ、師匠」
『我が尾を取り戻したことで、お前も四重霊気に加え【闇の能力】の一端に触れられるようになった。じゃがな……闇の能力だけは、絶対に使うてはならん』
「闇の能力を……使っちゃダメ?」
『さようじゃ。お前はまだ、闇の力の本質に耐え得る魂の鍛錬ができておらん。安易にその力に頼れば、たちまち闇の意思に精神を侵食され、己を見失って暴走してしまう。良いな、光や氷、炎や雷の霊気のみで戦うのだぞ』
「わかった……約束するよ、師匠!」
俺が深く頷くと、聖獣たちは爆音とともに城門前の広場へと降り立った。
「「「ギャアアアアアッ!!」」」
突如として舞い降りた俺たちに対し、無数の魔物が牙を剥いて襲いかかってくる。
「トウマ! この数は一人で裁ききれるものではない! 陣形を二つに分けるぞ!」
アーサーさんが青龍刀を閃かせ、迫り来る魔物の首を何体も跳ね飛ばしながら叫んだ。
「俺は東門の前線へ向かい、傷ついた防衛軍をまとめて敵の主力を食い止める! ロイ国王様をお守りするんだ! トウマは天狐様と共に西門の市民の避難路を防衛してくれ!」
「了解! アーサーさん、無事でいてくれよ!」
「ああ! 互いの背を信じよう!」
アーサーさんは強烈な闘気を全身から噴出させると、東門の激戦区を目指して一直線に疾走していった。
「よし……俺たちも行くぞ、師匠!」
俺は右腕に黄金の霊刀を形成し、西門へと群がる魔物の群れに向かって飛び込んだ!
「響け……炎雷閃ッ!」
炎と雷を同時に纏わせた刃を振り抜くと、眩い閃光とともに数十体の魔物が一瞬で焼き払われる。だが、倒しても倒しても、路地裏や城壁の向こうから無限のように魔物が湧き出してくる。
「くそっ……! なんだよこの数は! きりがないぞ!」
「助けて……! 誰か助けて!」
背後から悲鳴が聞こえた。振り向くと、避難が遅れた竜人の母親と幼い子供が、巨木のような腕を持つ大型の魔物『ギガントエイプ』数体に追い詰められていた。
「しまっ……! 距離が遠い……氷閃じゃ間に合わない!」
俺の足元にも大量の小型魔物が群がり、動きを封じようとしてくる。このままではあの親子が犠牲になってしまう!
(ダメだ……届かない! 炎も雷も、この距離と数じゃ防ぎきれない……!)
焦りと絶望が胸を締め付けたその瞬間、俺の身体の奥底——六本目を取り戻した師匠の霊気を通じて、禍々しくも圧倒的な『漆黒の力』がドクンと脈動した。
(この力なら……この深淵の闇の力なら、一瞬で全ての魔物を消し去れる……!)
『ぬ!? トウマ、いかん! その力を解放しては——!』
肩の上で師匠が叫んだ。だが、目の前で迫る幼い子の悲鳴に、俺の理性が吹き飛んだ。
「うあああああッ!! 出てこい……闇の力ぁぁぁッ!!」
師匠との約束を破り、俺は身体の奥底に眠る禁断の闇を、力任せに解放してしまったのだった——!
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