第三十六話:軍師の采配と、初めての共同戦線
大聖堂をあとにした俺たちは、ソフィアさんに案内されて軍の駐屯施設にある作戦会議室へとやってきた。
壁一面に南の大陸の精密な地図が掲げられたその部屋で、ソフィアさんはデスクに両手を突き、俺たちに向き直った。
「改めまして。南の大陸全軍の軍師を務めております、賢者のソフィアです」
凛とした声で自己紹介をした彼女は、真剣な眼差しで俺たちを見つめる。
「鳳凰様からもお話があった通り、現在出現している魔物は非常に危険で強力です。立ち向かうにあたり、まずは皆さんの戦力と得意な戦闘スタイルを把握しておきたいと考えています」
「分かりました」
アーサーさんが頷き、背中の巨大な青龍刀に手を置いた。
「俺は見ての通り大刀を扱う。刃に強靭な『闘気』を纏わせて突進し、敵の前衛を粉砕するのが得意だ」
続いてシオリさんが胸元に竹笛を抱え、柔らかく微笑む。
「私は竹笛の演奏を通して『風の術』を扱います。味方のサポートや、遠距離からの風の刃で後方支援ができます」
「なるほど……」
ソフィアさんは顎に手を当て、次に俺へ視線を向けた。俺は右腕に黄金の霊刀を形成してみせる。
「俺は……普段は三味線を弾いてただけだったんですけど、東の大陸で師匠に憑依されてから刀が使えるようになりまして。今は心の中でリズムを刻むことで、この刀に『火・雷・風・氷』の四つの属性霊気を載せて戦えます」
「東の伝承に聞く『霊刀』と多重属性ですか……素晴らしい」
ソフィアさんは感心したように頷くと、素早く頭の中で陣形を組み立て始めた。
「前衛にアーサーさんとトウマさん。後衛にシオリさんと、賢者として攻撃・補助魔術を扱う私。バランスは悪くありません。ですが……トウマさん、あなたが前衛に立つとなると、より柔軟な戦術が必要ですね」
「えっ……俺が前衛? 俺、元々はただの演奏家なんだけど……」
俺が困惑していると、ソフィアさんは真面目な顔で首を振った。
「闘うための戦術を考えているのです。限られた人数で効率よく、かつ安全に撃破するための配置ですよ」
『くっくっく! ソフィアとやらの言う通りじゃ! トウマの実戦経験を積ませるのに丁度良い!』
肩の上で師匠(天狐)が楽しそうに四本尾を揺らすと、俺は思わず頭を抱えた。
「えぇ〜……俺は本当に、昔はただ三味線を弾いてただけなのに……」
すると、シオリさんがそっと俺の隣に歩み寄り、真っ直ぐな瞳で見つめてきた。
「トウマさん、行きましょう! フウマ様……ご先祖様のためにも、南の大陸を一緒に救いましょう!」
「シ、シオリさんがそこまで言うなら……よし、頑張るよ!」
シオリさんに言われたら断れるはずもない。俺が腹を括ると、ソフィアさんはニヤリと知的な笑みを浮かべた。
「では、皆さんの連携を実戦で確かめるとしましょう。ちょうど近くのダンジョンに、軍の防衛線で必要な『火薬の魔石』が眠っています。それの採取任務を兼ねて、出撃します!」
◇
街の近郊にある湿地帯のダンジョン『赤結晶の洞窟』。
洞窟内には怪しく光る赤塗りの鉱石が点在し、不気味な湿気が立ち込めていた。俺たちが奥へと進むと、岩陰から巨大な甲殻を持つ魔獣『岩鎧ガニ』の群れが一斉に這い出てきた。
「敵影多数! 迎撃を開始します!」
ソフィアさんがタクトを構え、間髪入れずに指令を飛ばす。
「アーサーさんは正面から闘気で敵の意識を引きつけてください! トウマさんはアーサーさんの右斜め後方に位置し、氷の霊気で敵の脚を凍らせて関節の動きを止める!」
「了解ッ!」
アーサーさんが青龍刀に眩い闘気を纏わせて地を蹴り、敵の注意を一身に集める。その隙に俺は心の中で拍子を刻み、踏み込んだ。
「響け……氷閃ッ!」
放たれた冷気の斬撃がカニたちの足元を正確に凍りつかせ、巨体を固まらせる!
「見事です! シオリさんは私の風魔術と同調し、湿気を吹き飛ばして視界を確保! 後方から支援攻撃を!」
「はいっ!」
シオリさんの竹笛から奏でられる軽快な風の音色と、ソフィアさんのタクトが描く幾何学的な魔導陣が完璧にシンクロする。吹き荒れる嵐が洞窟内の湿気を一瞬で払いのけ、敵の体制を完全に崩した。
「仕上げです! トウマさん、雷の霊気で凍りついた敵を一網打尽に!」
「任せてくれ! ……ハッ!!」
冷気で凍りついたカニたちの装甲へ、雷光を纏わせた霊刀を振り下ろす! 水分と氷を伝って強烈な電撃が全体へと伝播し、魔物たちは一瞬で崩れ落ちた。
「ふぅ……すごい……!」
俺は息を整えながら、手応えに目を見張った。
ソフィアさんの指揮はとにかく的確で無駄がない。お互いの長所を100%引き出し、短所を完璧にカバーしてくれるため、今まで以上に戦いがスムーズかつ安全に進むのだ。
「無事に『火薬の魔石』も回収できましたね。皆さん、想像以上の素晴らしい動きでした」
無傷で魔石を手にしたソフィアさんが、満足そうに微笑む。
頼もしい軍師の加入により、俺たちのパーティは確かな進化を遂げようとしていたのだった。
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