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第三十三話:波乱のトリス港と、美しき指揮官

 南の大陸の玄関口——トリスの港町。

 船を下りた俺たちを待っていたのは、青い海と鮮やかな南国の街並み、そして突き抜けるような太陽の眩しさだった。


「ふぅ……無事に着きましたね、トウマさん!」

「ああ。だが……旅を続けるにも、まずは路資金の補充が必要だな」


 アーサーさんが財布を軽く振りながら苦笑いする。西の大陸からの長旅で、俺たちの路資金はかなり寂しくなっていたのだ。


「よし! ならばやることは一つだな!」


 俺は腕を鳴らすと、体内に収納していた三味線を光とともに呼び出した。シオリさんとアーサーさんも頷き、それぞれの竹笛と二胡を手元に呼び出す。


 俺たちは港のすぐ近くにある活気あふれる広場へ向かうと、さっそく準備を整えて演奏を始めた。


 ——ベベンッ……!!


 俺が三味線を力強くかき鳴らすと、シオリさんの透き通る竹笛と、アーサーさんの重厚な二胡が重なる。

 ドワーフの国でさらに磨かれた神奏具の音色は、港を行き交う人々を一瞬で惹きつけた。


「おお、なんだあの素晴らしい音色は!?」

「東の大陸の楽器か? すごい響きだぞ!」


 あっという間に広場には大勢の人集りができ、歓声とともに投げ銭が次々と投げ込まれていく。順調にお金も集まり、これならしばらくの滞在費は安心だと胸を撫で下ろした——その時だった。


 空が急に暗く陰り、不気味な羽音が街中に響き渡った。


「ギャアアアアアッ!!」


「ひ、ひぇぇっ!? 魔物の群れだーッ!!」


 港の悲鳴とともに見上げると、上空から巨大な口と鋭い爪を持つ飛行魔獣『黒翼の怪鳥』の群れが、大挙して街へと襲いかかってきたのだ!


「くっ……広場の人たちを避難させないと!」


 俺は三味線を体内に送り返し、右手に霊刀を形成して構えた。アーサーさんも素早く武器を構え、戦闘態勢に入る。


 だが、俺たちが飛び出そうとしたまさにその瞬間——。


 ザッザッザッ……!!


 整然とした足音とともに、港の通りから鎧を纏った兵士たちの集団が疾風のごとく現れた。


「落ち着け! 民を避難させつつ、迎撃陣形を組め!」


 響き渡ったのは、凛とした澄んだ女性の声だった。


 俺たちが目を見張る中、軍勢の先頭に一人の女性が立っていた。

 軍服のような凛々しい衣装に身を包み、その手には武器ではなく、銀色に輝く一本の「タクト(指揮棒)」が握られている。


「弓兵隊、三時の方角! 旋風の陣——放て!」


 彼女が鮮やかにタクトを振り下ろすと、兵士たちは寸分の狂いもなく一斉に弓を射た。放たれた矢は風の魔力を纏い、上空の魔物たちを正確に撃ち落としていく!


「続いて重騎士隊、前衛を固定! 魔導隊、火炎の輪奏を重なるように展開せよ!」


 再び彼女のタクトが空を舞う。

 まるでオーケストラの指揮者のような優雅かつ無駄のない動作に合わせて、軍隊全体が一つの生き物のように完璧な連携を見せる。炎の魔法と鉄壁の防陣が完璧に噛み合い、あんなに猛威を振るっていた魔物の群れが、あっという間に掃討されてしまったのだ。


「すごい……なんだあの統率力は……!」


 俺は呆然とその光景に見入っていた。個々の強さではなく、集団の力を極限まで高める見事な指揮だった。


 あっという間に事態を収めると、隊を率いていた女性指揮官はタクトを収め、ゆっくりと俺たちの方へと歩み寄ってきた。

 近くで見ると、凛とした美しい目元と、知性を感じさせる佇まいが印象的な女性だった。


「見慣れぬ顔ですね。西の大陸からの旅人ですか?」


 女性は俺たちの姿を一度サッと観察すると、静かに口を開いた。


「この南の大陸は今、魔物の活性化により各地で乱が頻発しています。港街だからと油断せず、旅人の方々は十分に気をつけるようにしてください」


 彼女は過度な深入りはせず、淡々とそれだけ忠告すると、兵士たちに撤収の指示を出して整然と立ち去っていった。


「……すごい人だったな。武器も持たずに、指揮棒一本で軍隊をあんな風に動かすなんて」


「ええ……まるで音楽の指揮者みたいでしたね」


 去っていく彼女の背中を見送りながら、シオリさんが呟く。

 師匠の尾の手がかりを探すため踏み入れた南の大陸。だが、どうやらこの土地には一筋縄ではいかない波乱の空気が漂っているようだった。


読んでいただきありがとうございました!


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