第三十話:神奏具の誕生と、約束のデート
「……よし! 全体の組み上げが完了したぞ!」
神職人ガルドの豪快な声が、熱気の立ち込める工房内に響き渡った。
作業台の上には、俺たちが死闘の末に持ち帰った『霊響木』の美しい木肌と、澄んだ光を放つ『希少な魔石』が置かれている。そして——
『痛たたたっ……! 我の貴重な髭が……!』
涙目になった師匠(天狐)が、自分の頬をさすりながら自ら引き抜いた髭。それらがガルドさんの神業のような鎚裁きと繊細な霊工術によって、三味線、竹笛、二胡へと丁寧に組み込まれていった。
「よし、形にはなった! だがな、神木と魔石、それにお前さん方の霊気を完全に馴染ませる最終調整が必要だ。数刻ほどかかるからな、お前さん方、その辺の街でも一回りして時間を潰して来い!」
ガルドさんにそう背中を押され、俺たちは「ありがとうございます!」とお礼を言って工房をあとにした。
◇
工房の外に出ると、夕暮れ時のドワーフの街『赤鉄の城塞』が広がっていた。
赤茶色の岩山をくり抜いて作られた要塞都市は、傾いた太陽の光を受けて美しく茜色に染まっている。行き交うドワーフたちの活気ある声や、あちこちの鍛冶場から聞こえる鎚の音が心地よく響いていた。
武具屋や鉱石屋ばかりが並ぶ無骨な街並みだったが、隣を歩くシオリさんはどこか楽しそうに周囲を見渡している。
「ふふ、やっぱり大和の街や、竜人の国とは雰囲気が全然違いますね」
「そうだね。なんだか男臭くて無骨だけど、職人さんたちの活気がすごくて歩いてるだけでワクワクするよ」
「ねえ、トウマさん」
シオリさんがふと足を止め、俺の顔を覗き込んできた。夕日に照らされた綺麗な瞳が、少し悪戯っぽく揺れている。
「三味線が新しくなって……これからは背中に担いで持ち運ばなくてもよくなるんですよね?」
「うん! 体内に光として収納できるようになるってガルドさんが言ってたし、これからは背中が軽くなって移動も戦闘もすごく楽になるよ」
俺が笑顔で答えると、シオリさんは少し照れくさそうに視線を泳がせ、頬をほんのり朱色に染めた。そして、そっと俺の右手に自分の指先を重ねてきた。
「じゃあ……これからは歩く時、こうして空いた方の手で、私と手を繋いで歩いてくれますか?」
「っ!? ///」
さらりと重ねられた細くて温かい指先。不意打ちの言葉と触れ合いに、俺の顔が一瞬でカッと熱くなる。
「あ……あの、シオリさん……! ///」
「ダメ……ですか?」
少し首を傾げて、潤んだ上目遣いで見つめられる。そんなの、嫌なわけがない!
「ダ、ダメなわけないだろ! 行こう! 手、繋いで歩こう!」
俺が真っ赤になりながらも少し照れくさく手を握り返すと、シオリさんは嬉しそうに「はい!」と満面の笑みを咲かせたのだった。
それから二人で、ドワーフの街の名物である香ばしく焼き上げられた巨獣の串焼き肉を分け合って食べたり、珍しい鉱石のアクセサリーショップを覗いたりした。手をつないだまま過ごす時間は、照れくさくも胸が温かくなるような、まるで夢のようなひとときだった。
◇
「おう、戻ったか! ちょうど最終調整もバッチリ終わったところだぞ!」
約束の時間になり工房に戻ると、ガルドが手ぬぐいで汗を拭いながらニヤリと笑って出迎えてくれた。
作業台の上に置かれていたのは、神秘的な光沢と力強い重厚感を纏った、全く新しい三味線だった。シオリさんとアーサーさんにも、それぞれ霊響木の美しい木目が浮かぶ竹笛と二胡が手渡される。
「ほら小僧、弾いてみな!」
「はい……!」
俺は息を飲み、緊張しながら新しい三味線を手に取った。
指先から撥へと霊気を注ぎ込み、力強く弦を弾く。
——ベベンッ……!!
一音鳴らした瞬間、ズドキュンと工房全体の空気が激しく震えた!
重厚で腹に響く太い低音から、天を突き抜けるような澄み渡った高音まで、今までとは比べものにならないほど鮮烈な音が響き渡る。俺の霊気と完璧に同調し、三味線自体が生きているかのように歓喜の鳴動を返してきたのだ。
「うわあぁ……ッ!? すごい……! 音の響きも、霊気の通りやすさも段違いだ……! 最高だよ、ガルドさん!」
「ふふ、私の竹笛も……吹き込まなくても霊気が優しく巡っていくのがわかります!」
「俺の二胡もだ。龍の霊気が共鳴して、まるで意志を持ったように震えているぞ」
シオリさんとアーサーさんも、新しく生まれ変わった相棒の感触に目を輝かせている。
さらに、ガルドに教えられた通り意識を集中して『引け』と念じてみると、手にしていた三味線がスッと眩い光の粒子となって俺の体内に吸い込まれるように消えた。そしてもう一度念じれば、一瞬で手元に寸分違わず呼び出すことができたのだ。
「出し入れも完璧だ……! これでいつでも背中を空けておける!」
最高に仕上がった相棒を手に、胸いっぱいの感動と感謝が込み上げてくる。俺たちはガルドに向かって深く頭を下げた。
「本当にありがとうございました、ガルドさん! 俺たちの大切な道具をこんなに凄く直してくれて……! それじゃあ、俺たちそろそろ失礼して……」
感謝の言葉を述べ、晴れやかな気持ちで工房の扉を開けて外に出ようとした。
その時だった。
「……おい、ちょっと待て」
背後から、ガルドの低く重い声が投げかけられた——。
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