第二十九話:氷の世界の決戦と、疾風雷閃
『希少な魔石』を手に入れた俺たちは、「焔鉄の洞窟」のさらに奥を目指して通路を進んでいた。
すると突然、空気がガラリと一変した。つい先ほどまでの汗が噴き出るような灼熱が嘘のように消え去り、肌を刺すような極寒の冷気が吹き抜けてくる。
「……ッ!? なんて寒さだ……! さっきまでのマグマ地帯が幻だったみたいだな」
アーサーさんが息を白く吐きながら周囲を見渡す。
通路を抜けた先に広がっていたのは、洞窟の中とは思えないほど広大な「氷の世界」だった。天井からは巨大な氷柱が下がり、壁も床も一面が青白く凍りついている。そしてその中央——透き通る氷の巨木のようにそびえ立っていたのが、目指す幻の神木『霊響木』だ。
「すごい……綺麗……! あれが霊響木ですね!」
シオリさんが感嘆の声を上げる。
『ぬ……!? トウマ、油断するな! 霊響木の根元を見るのじゃ!』
肩の上の師匠(天狐)が急に身を乗り出し、鋭い声を上げた。
見れば、凍りついた霊響木の根元に、黄金の霊力を放つ「宝珠」のようなものが封印されるように埋まっていた。間違いない、師匠の『四本目の尾』だ!
「師匠の尾だ! こんなところに……!」
俺が駆け寄ろうとした瞬間、頭上から猛烈な吹雪が吹き荒れ、巨大な影が舞い降りた!
「グルルルルッ……!!」
現れたのは、全身が氷の鎧と鋭い氷の結晶で覆われた巨大な氷狼——『凍獄の氷狼』!
霊響木と師匠の尾を守るように立たたずむ魔獣は、咆哮とともに鋭い氷の棘を無数に放ち、俺たちを襲ってきた!
「くっ……弾幕が凄すぎる!?」
「させません! ——風の結ッ!」
シオリさんが素早く前に出ると、竹笛を吹き鳴らす。
澄んだ音色とともに俺たちの前に美しい風の結界が展開され、襲い来る氷の棘をことごとく弾き返していく!
「ナイス、シオリさん!」
「よし、次は俺の番だ! 援護するぞ、トウマ!」
アーサーさんが背中の二胡を構え、弓を力強く引いた。重厚で力強い弦の音が洞窟内に響き渡る。その音波が地響きとなって氷狼の足元を爆砕し、勢いを激しく削ぎ落とした!
さらにアーサーさんは素早く二胡を背に担ぎ直すと、背中に背負った大刀——青龍刀を豪快に引き抜いた!
「ハァッ!!」
龍の彫刻が施された青龍刀が青い闘気を纏って閃く! アーサーさんは鋭い踏み込みから大ぶりな一閃を放ち、氷狼の頑丈な氷の爪を正面から叩き割ってみせる!
「グオッ!?」
「トウマ! 奴の態勢が崩れたぞ、合わせろ!」
「はいっ!!」
「トウマさん、こちらも届かせます! ——疾風の刃ッ!」
シオリさんが竹笛から鋭い風の刃を連続で放ち、アーサーさんの青龍刀が切り開いた隙を突いて氷狼の側面の装甲を削り落としていく。
二胡の音波で足止めし、青龍刀の力強い一撃で装甲を破り、シオリさんの風の刃で追い詰める。仲間たちが作ってくれた最高のビートとテンポが、俺の体の中に刻まれたリズムと完全に重なった。
(風のサポート、アーサーさんの二胡と青龍刀の重攻撃、シオリさんのカマイタチ……全員のリズムが噛み合ってる! 今なら、あの技がいける……!)
『トウマ、我の霊気を極限まで解き放つぞ! 風と雷を融合させよ!』
「おうッ!!」
師匠が俺の身体へ憑依し、絶大な霊気が爆発する。
右手の霊刀に、吹き荒れる「風の霊気」と、バリバリと狂おしく爆ぜる「紫電の雷」が同時に巻き付いていく。反発し合う二つの属性が、俺の刻むリズムによって綺麗に一つに合体していく。
「切り裂け……音速を超えて!! ——新複合技・疾風雷閃ッ!!」
解き放たれたのは、紫電を纏った疾風の閃光!
音速を置き去りにした一瞬の踏み込みとともに、俺は氷狼の懐へとすれ違いざまに駆け抜けた。
スパァァァンッ!!
吹雪さえも一瞬で切り裂く刃が、氷狼の巨体を真っ二つに両断する。
「グオオオオオオアアアッ……!!」
絶叫を残し、氷狼は光の粒子となって氷の世界に溶けて消え去った。
「やった……! 勝ったぞ!!」
「ふぅ、見事な一閃だったぞ、トウマ!」
青龍刀を鞘に納めながら、アーサーさんが爽やかに笑う。
「トウマさん! 無事でよかったです!」
シオリさんも駆け寄ってきて、みんなで顔を見合わせて達成感の笑みを浮かべた。全員の力を合わせたからこそ掴み取れた勝利だった。
◇
戦闘が終わり、俺たちは霊響木の根元へと向かった。
『クッカッカ! よくぞやってくれた弟子たちよ!』
憑依を解いた師匠が霊響木の根元へ歩み寄り、封印されていた黄金の宝珠に触れる。
眩い光とともに宝珠が師匠の体へと吸い込まれ、お尻からふわりと「四本目の尾」が生え揃った!
『うむ! 霊力がさらに戻ってきたぞい! これで三味線の弦にする髭も、少しは出しやすくなったわい』
「本当!? 助かるよ師匠!」
俺は慎重に霊響木の太く頑丈な枝を切り出し、先に手に入れていた『希少な魔石』と一緒にしっかりと袋に収めた。
「よし! 素材も揃ったし、師匠の尾も回収できた! ガルドさんの工房へ戻ろう!」
「はい! 三味線がどんな風に生まれ変わるか、すごく楽しみですね、トウマさん!」
シオリさんが嬉しそうに微笑む。
仲間たちの絆と新しい力、そして三味線の完全修復へのすべての準備が整った。俺たちは晴れやかな足取りで、ドワーフの国へと帰還するのだった——!
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