第二十八話:希少な魔石と、雷火の閃光
ドワーフの国『赤鉄の城塞』を離れ、俺たちはガルドさんに教えられた鉱山地帯の激熱エリア「焔鉄の洞窟」へと足を踏み入れていた。
「うっ……すごい熱気……! 洞窟全体がまるで巨大な炉の中みたいですね」
シオリさんが額の汗を拭いながら呟く。
足元には真っ赤な熱を帯びた岩肌が広がり、洞窟のあちこちから吹き出す蒸気が視界を揺らしている。いつもなら背中にあるはずの三味線の重みがないことに、俺はどうしても落ち着かない気分になっていた。
「……トウマ、三味線がないからといって、間合いや構えが少し浮ついているぞ。集中しろ」
重厚な二胡を背負ったアーサーさんが、鋭い眼光で俺の足元を指摘する。
「あ、すみません……。わかってはいるんですけど、長年背中に背負ってきた相棒がないと、なんだか手持ち無沙汰というか……間合いがズレる気がしちゃって」
苦笑いする俺の肩の上で、三本尾をフサフサと揺らした師匠が呆れたように鼻を鳴らした。
『戯けめ! 三味線は心を豊かにする大切な相棒ではあるが、霊技の媒体そのものではないわ! おぬしが刀を振るう時に一番大切なものは何じゃ? 技を繰り出す拍子……そう、「リズム」じゃ! 体に刻まれた演奏のリズムを思い出せ!』
「リズム……!」
師匠の言葉が、すとんと胸に落ちた。
そうだ。三味線を弾く時も、霊刀を振るう時も、俺の中には常に一定のテンポとリズムがあった。道具があろうとなかろうと、自分の体に染みついた拍子を刻めばいいんだ。
その時——洞窟の奥から、ズズズ……と地響きが巻き起こった。
「グオオオオオオオッ!!」
前方にある巨大なマグマの池が爆発するように跳ね上がり、そこから岩石と煮えたぎるマグマを全身に纏った巨大な魔獣が姿を現した。
全身を分厚い鉱石の装甲で固めた『溶岩甲殻巨獣』だ。そして、その胸の中央には、ガルドさんが言っていた通り、ギラギラと眩い光を放つ『希少な魔石』が核として埋め込まれていた。
「出たな……! 一気に決めるぞ!」
「トウマさん、サポートします!」
シオリさんが竹笛を唇に当て、清らかな音色を奏でる。その音が周囲の熱気を和らげ、俺の身体に軽い疾風のような加護を与えてくる。
「師匠、いくぞ!」
『うむ! リズムを刻め、弟子よ!』
師匠がポンッと軽い衝撃とともに俺の身体へと憑依する。絶大な霊気が全身を駆け巡り、右手に収束して眩い黄金の霊刀が形作られる。
「ガアアアッ!」
溶岩甲殻巨獣が太い腕を振り上げ、大量の灼熱の岩塊を弾丸のように飛ばしてきた!
「1・2・3……よし、乗ってきたぞ!」
俺は頭の中で三味線のテンポを刻みながら、踏み込んだ。
「ハッ! ——狐火・炎閃ッ!」
霊刀から解き放たれた黄金の炎の一閃が、迫り来る岩塊を一瞬で焼き払い、両断する!
間髪入れずに、今度は鋭い拍子で間合いを詰める。
「間髪入れずに……雷の雷閃ッ!!」
バリバリッと激しい紫電が刃を駆け巡り、超高速の突きが巨獣の膝の関節を撃ち抜いた!
「グオアッ!?」
炎で威力を高め、雷で速度と貫通力を叩き込む。技を単体で素早く切り替えるテンポの良い連続攻撃に、巨獣は巨大な巨体をグラつかせ、攻撃についてこられなくなっていく。
(いける……! 三味線がなくても、俺の体の中に拍子は刻まれているんだ!)
「トウマ! 今だ、胸の核を狙え!」
アーサーさんの叫びが洞窟に響く。
巨獣が苦し紛れに、胸の魔石から極太の熱線ビームを放とうと霊気を溜め始めた。胸の装甲が開き、輝く魔石が剥き出しになる。
「これで終わりだ……ッ!!」
俺は全身の霊力を最高潮まで高め、刀を上段へと構えた。
「燃えろ……旋風と共に駆け抜けろ! ——火炎竜巻ッ!!」
振り下ろした刃から解き放たれたのは、黄金の狐火と吹き荒れる疾風が一体となった巨大な炎の竜巻だ!
ゴーッという爆音とともに炎の渦が巨獣を正面から飲み込み、灼熱の装甲をバリバリと砕き破っていく!
「グオオオオアアアアッ……!?」
絶叫とともに溶岩甲殻巨獣は崩れ落ち、そのまま真っ赤な炭となって砕け散った。
どすん……ッ!
静寂が戻った洞窟の中に、コロン……と転がったのは、拳ほどもある大きな透明な結晶——熱気の中でもひんやりと冷たい霊気を放つ、見事な『希少な魔石』だった。
「やった……! 魔石を手に入れたぞ!」
俺は倒れそうになる身体を支えながら、魔石を拾い上げて掲げた。憑依が解け、肩の上に着地した師匠が満足そうにヒゲを撫でる。
『クッカッカ! 見事な手際じゃったぞトウマ。リズムを掴んだおぬしの刃、なかなか冴えておったわい』
「トウマさん! すごいです、無事でよかった……!」
シオリさんが駆け寄ってきて、安堵の表情で俺の無事を確認する。
「ふぅ……これで第一段階はクリアだな。一つ目の素材『希少な魔石』は確保したぞ!」
「ああ。次はもう一つの素材、幻の神木『霊響木』だな」
アーサーさんが洞窟のさらに奥……静かに澄んだ空気が漂う深部へと視線を向けた。
三味線を取り戻すための試練は、まだ半分。
俺たちは手に入れた魔石を大切に懐にしまい、さらなる奥地へと向かって足を進めるのだった——!
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