第二十七話:ドワーフ王と、神職人ガルドの工房
「カン、カン、カン!」と高らかに響くハンマーの音と、立ち上る黒煙。
荒々しい赤茶色の岩山をくり抜いて作られた要塞都市『赤鉄の城塞』は、活気に満ち溢れていた。通りを行き交うのは、背は低いが丸太のように太い腕と立派な髭を持ったドワーフたちだ。
俺たちは重厚な鉄門を抜け、まずはドワーフの国を治める王が待つ城塞の中央部へと向かう。
竜人の国の国王ロイ様があらかじめ文を送ってくれていたおかげで、俺たちは滞りなく王の間へと案内された。
玉座にどっしりと腰掛けていたのは、金色の豪華な髭をたくわえ、全身に豪奢な鎧を纏った小柄な男——ドワーフ王、ゴルドー・バランであった。
「ワハハハ! よくぞ参った、東の大陸の客人に天狐様! ロイの奴から文は届いておるぞ! 街を恐ろしい魔物から救ってくれたそうだな、礼を言うぞ!」
ゴルドー王は豪快に笑いながら、玉座から降りて俺たちを歓迎してくれた。
「ゴルドー様、お目にかかれて光栄です。実は、俺の壊れてしまったこの三味線を修理したくて……」
俺が背中の布包みを見せると、ゴルドー王は深く頷いた。
「うむ! 話は聞いておる。繊細かつ絶大な霊力を通す楽器の修復……我が国でもそれができるのはただ一人しかおらん。街一番の頑固者だが、腕は間違いなく世界一の神職人『ガルド』の工房へ案内させよう!」
こうして俺たちは、ゴルドー王の手配によって街の職人街の奥深くにあるガルドの工房へと向かうことになったのだった。
◇
「……なんじゃあ? オレ様にノコノコ用があるって奴らは」
案内された工房の奥から現れたのは、頭に頑丈な手ぬぐいを巻き、酒臭い息を吐きながら太い腕を組んだ頑固そうなドワーフの男——神職人ガルドだった。
「ガルドさん、俺の三味線を直してほしいんです!」
俺が差し出した布包みを開くと、ガルドは当初、退屈そうに鼻を鳴らした。
「ハッ! 三味線だと? なんだこの細っこい枠と皮の玩具は。買い換えた方が早ぇだろ、オレ様は伝説の剣や防具を叩く神鍛冶だぞ、こんなおままごとの道具なんか……」
ガルドの言葉が途切れた。
二つに折れた棹と引き裂かれた胴の破片を、太い指先でそっと触れた瞬間、ガルドの目つきが一変したのだ。
「……ぬ!? なんだこの破砕跡は……! 内部に凄まじく強烈で、使い手と楽器が紡いできた純粋な霊気がしっかりと残り続けていやがる……」
ガルドは破片を撫で回しながら、感心したように太い息を吐いた。
「道具ってのはな、使い手が注いだ愛着と魂が宿る。新しいものに買い換えるのは簡単だが、ここまで使い手の霊気と意思が染み付いた道具は、そう作れるもんじゃねえ。……おい小僧、お前さん、この道具を心から大切にしてきたんだな?」
「はい! 故郷を出てからずっと一緒で、俺にとって命の次に大切な相棒なんです!」
「……ガハハハ! 気に入ったぞ小僧! 道具を使い捨てにせず、魂ごと愛でる奴をオレ様は放っておけねえ! このガルド、燃えてきたぞ! お前さんの想いに応えて、神級の楽器として完全修復してやる!」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
俺が思わず大声を上げると、ガルドは顎をさすりながら三味線の細部を観察し始めた。
「よし、まずは『弦』だが……む? この折れ残った弦、ただの糸じゃねえな。何の素材を使ってやがる?」
「あ、弦はいつも師匠(天狐様)の抜け落ちた髭を勝手に使ってるんです」
「なに? 勝手に使っておるじゃと!?」
ガルドが驚いて肩の上の師匠を見つめる。師匠は自慢げに三本に増えた尾をフサフサと揺らしつつ、ジト目で俺を睨んだ。
『むっ! そうじゃ、この弟子めが我の落ちた抜け髭を勝手に集めて弦にしておったのじゃ! 霊気が一番通るからと知恵を使いおって……まあ、すでに抜けた後じゃし、三味線の音色も悪くないでのう。我も渋々許してやっておるのじゃ』
「がはは! 勝手に拝借しておったのか! だが聖獣の抜け髭とは贅沢な弦だな! 弦の素材は申し分ねえ。だがな小僧、本体を元通り以上の強度にし、お前さんの霊気をさらに循環させるには、あと二つ……特別な素材が必要だ」
ガルドは指を二本立てた。
「一つ目は、鉱山地帯の最深部にしか生息しない、霊力を極限まで通し、音色を何倍にも増幅させる幻の神木『霊響木』だ。これで折れた部分を補強し、新たな枠組みを作る」
「霊響木……!」
「そして二つ目が、最深部の魔物が宿す『希少な魔石』だ。この魔石をコアとして組み込めば……なんと、三味線を光の霊気としてお前の体内に自由に収納し、必要な時に一瞬で手元に召喚できるようになる!」
「えっ!? 体内に収納!? じゃあ……わざわざ背中に担いで持ち運ばなくても良くなるってことですか!?」
「その通りだ! 出し入れ自在の『霊奏具』へと進化させるのさ!」
ガルドの言葉に、俺の胸は高鳴った。背中に担ぐ必要がなくなれば、旅の移動も戦闘の構えも劇的に楽になる!
「やります! 霊響木も魔石も、俺が絶対に取ってきます!」
俺が力強く宣言すると、ガルドは満足そうに頷き、今度はシオリさんとアーサーさんに視線を向けた。
「おい、そっちのねえちゃんと竜人の旦那。お前さんたちも演奏家だろう? ついでだ、その竹笛と二胡も貸してみろ! 霊響木の端材と魔石の欠片を使って、お前さんたちの楽器も一緒に神級の強化を施してやる!」
「本当ですか……! ありがとうございます、ガルドさん!」
「フッ、ありがたい。感謝するぞ、職人殿!」
シオリさんとアーサーさんも顔をほころばせた。
◇
「よし! 素材の採取は明日、鉱山の最深部へ向かうとしよう。今夜はしっかり休んでおけ!」
ガルドの工房を出た頃には、すっかり空は綺麗な茜色に染まっていた。
宿屋へと向かう道中、俺の隣を歩くシオリさんが柔らかく微笑みかけた。
「トウマさん、素材が無事に採れて三味線を修理してもらっている間、街を散策するのが楽しみですね」
「ああ! 素材を無事に持ち帰って、ガルドさんに預けたらゆっくり街を見て回ろう!」
「はい、絶対に素材を集めましょう」
「おう!」
三味線の修復と進化、仲間たちの楽器の強化。
胸に大きな希望と決意を抱き、俺たちは明日始まる鉱山最深部での試練へと立ち向かうのだった——!




