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第三話:森の熊さんと、まさかの『外れ』

いつも読んでいただきありがとうございます!

第3話、更新しました。


 風切の町の外れ、鬱蒼とした木々に覆われた『迷い森のダンジョン』。

 薄暗い洞窟の入り口に足を踏み入れると、ひんやりとした湿気と、猛獣の臭いが鼻をついた。


「ハぁ……最悪だ。せっかく稼いだお金ですき焼き食べるはずだったのに……」

『ブツブツ言うな。おぬしの剣術はまだまだ素人に毛が生えた程度。今のうちに実戦で叩き込んでおかねば、本物の妖魔に出会った瞬間肉塊になるぞ』

「縁起でもないこと言うなよ……」


 洞窟の奥へ進むと、開けた空間(巨岩の広場)に出た。

 そこには——家一軒ぶんほどもある、圧倒的な巨躯を誇る黒熊が横たわっていた。全身が金属のような硬質化した毛皮に覆われ、こちらに気づくとゆっくりと起き上がる。


 その胸元には、酒場で聞いた通り、黄金色に眩しく輝く大きな鉱石が埋まり込んでいた。


 グォォォォォォォォォン……ッ!!


 洞窟全体が激しく揺動するほどの咆哮。衝撃波だけで俺の髪が逆立つ。


「で、でけええええ!? ていうか胸の石、めちゃくちゃ光ってるじゃん! 本当に師匠の尾なの!?」

『うむ……この異様な霊気の高まり、間違いなく我が力の一部……のはずじゃ! トウマ、身構えよ!』


 暴れ熊が巨体に似合わぬ神速で踏み込んできた。丸太のような前脚が振り下ろされる!


「うわあっ!?」


 間一髪、横に転がって回避する。俺がさっきまでいた場所の岩盤が、粉々に砕け散った。


『逃げるな、前を見よ! 敵の攻撃の『リズム』を感じ取るのじゃ!』

「言い方は簡単だけどよぉ!」

『三味線と同じじゃと言ったであろう! 敵が腕を上げる間合い、振り下ろすテンポ……すべては音律リズムなのじゃ!』


 肩に乗った師匠から、温かい霊気が体に流れてくる。

 右手に宿る霊刀が黄金の狐火を散らした。俺は深く息を吐き出し、熊の動作を三味線の楽譜のように脳内でなぞる。


(イチ……ニの……サンっ!)


 ドオン! と叩きつけられた熊の拳。その直前、俺は三味線の曲調を変えるように、すっと踏み込みを変えて懐へと滑り込んだ。

 紙一重で爪をかわす。熊の懐、ガラ空きの胸元。


『そこじゃ、弟子よ! 力を抜け、撥を弾くように一閃!!』


「はぁぁぁぁぁっ!!」


 俺の右腕が、しなやかに描いた円。

 刀身に纏った狐火が、三味線の弦を切るような「シャリーン」という澄んだ音を立てて、熊の胸元を駆け抜けた。


 ズバァァァンッ!


 鉄のように硬かった毛皮が切り裂かれ、胸に埋まっていた黄金の石がコロンと地面に転がり落ちる。


「グォ……!?」


 狂暴化の解けた大熊は、そのままドスンと崩れ落ち、すーすーと気持ちよさそうに寝息を立て始めた。気絶しただけらしい。


「はぁ……はぁ……倒した……! 頼むから光となって吸い込まれてくれよ、俺の平和のために!」


 俺と師匠は、固唾を飲んで地面に転がる黄金の石を見つめた。

 ……しかし。

 石は黄金の光を放つのをやめ、ただの『ちょっと綺麗で霊気が微量に含まれた魔鉱石』となってコロンと転がっているだけだった。


 沈黙が流れる。


「……ねえ、師匠。吸い込まれないんだけど」

『ぬ……? ぬぬぬ……!?』


 師匠が慌てて短い足でトコトコと駆け寄り、前足で石をペシペシと叩いた。


『おかしい……! 我が尾の霊核ではないのか!?』

「嘘だろ!? あんなに眩しく光ってたじゃん!」

『う、うむ……どうやらこの熊、たまたま霊力を溜め込みやすい『希少な魔鉱石』を呑み込んでしまい、そのエネルギーで狂暴化していただけらしい……。わしの尾の力と波長が似ておったのじゃな……』


 ぽりぽりと頭をかく師匠。


「……つまり?」

『……外れじゃな! カッカッカ、まあこういうこともある!』

「カッカッカ、じゃねえよ!!!」


 俺の怒りの大絶叫がダンジョン内にこだました。


「俺のすき焼きを返せ! 死ぬ思いして戦ったのに外れってなんだよ!!」

『戯け! だが命懸けで戦ったおかげで、おぬしの剣筋は確実に上達したぞ! 無駄ではなかったではないか!』

「無駄だよ! 大外れだよ!!」


 激怒する俺と、気まずそうに「まあまあ」となだめる師匠。

 結局、その魔鉱石を街の素材屋で高く買い取ってもらえたため、高級すき焼きと特大の油揚げにはありつけたのだが……。


「師匠、次から『絶対に本物』って確信が持てるまで俺を巻き込むなよな……」

『ふ、無茶を言うな。旅とはそういうものじゃ、弟子よ!』


 夕空の下、胃袋だけは満たされた俺たちの、徒労に終わった最初のダンジョンアタックはこうして幕を閉じた。


ここまで読んでいただきありがとうございました!


まさかの『大外れ』でした……!

すき焼きのために命懸けで戦ったトウマ、本当にお疲れ様……(笑)。


でも無事に美味しいお肉と特大の油揚げにはありつけたみたいで良かったです。


次回は野宿の夜。トウマの秘密と、世界の運命が動き出します……! 8月18日7時予定


引き続き応援よろしくお願いします!

少しでも楽しんでいただけたら、ぜひブクマや評価(★)で応援してもらえると嬉しいです!


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