第二話:酒場の演奏と、スパルタ師匠
いつも読んでいただきありがとうございます!
第2話、更新しました。
冒険者の朝は早い。だが俺の朝は、もっと早く、そして最悪の形で始まった。
「起きぬか戯けが!! いつまで貪り眠っておるのだ!」
「うわっ!?」
頭上にズシリとした重みが降ってきた。目を開けると、毛並みの綺麗なモフモフの老狐——もとい「師匠」が、俺の顔面を踏みつけながら威厳たっぷりに見下ろしていた。
「朝の鍛錬じゃ! 早く起きぬか!」
「……まだ暗いぞ師匠。俺は三味線弾きだ、剣士じゃないんだよ……」
俺は布団をかぶり直そうとしたが、容赦なく耳元で「キィィィ!」と叫ばれて撃沈した。
田舎の村を飛び出し、徒歩で数日。俺と師匠がたどり着いたのは、東方交易の拠点となっている賑やかな宿場町『風切の町』だった。
村とは比べものにならない人の数と活気。だが、旅をするにも飯を喰うにも、何をするにも必要なものがある。——そう、お金(金貨)だ。
◇
「よし、稼ぐぞ」
昼下がり、俺は町で一番賑わっている酒場の隅に陣取ると、愛用の三味線を構えた。
三の糸には、第一話でちゃっかり拝借した「師匠の髭」が固く結ばれている。撥を静かに振り下ろすと、ベベン——と、酒場全体を包み込むような、深く澄み切った霊響が響き渡った。
ざわついていた酒場が一瞬で静まり返る。
「……ほう」
カウンターの荒くれ冒険者たちが振り返る。俺は心の中でニヤリと笑いながら、曲を走らせた。
軽快でテンポの良い和の旋律。師匠の髭から漏れ出るかすかな霊力が、音色に極上の透明感と心地よい揺らぎを与えている。曲が盛り上がるにつれて、酒場のお客たちが手拍子を打ち始め、杯を掲げて歓声を上げ始めた。
「いいぞお兄さん! 最高の音だ!」
「酒が進むぜ、もう一杯持ってこい!」
演奏が終わると、割れんばかりの拍手とともに、俺の前に置いた木箱へチャリンチャリンと銀貨や銅貨が投げ込まれていく。
(ふふふ……これだよこれ! これぞ俺の目指す人生!)
「ヘヘッ、まいどあり!」と銭をかき集めていると、俺の肩に乗っていた師匠が、呆れたように脳内で話しかけてきた。
『フン……たしかに良い音じゃが、調子に乗るなよ弟子よ。わしの髭の力に助けられておることを忘れるな』
「結果オーライだろ。これで今夜の豪華なメシと宿代は確保できた」
俺が鼻歌交じりに酒代を払ってカウンターに座ると、気さくなマスターが杯を傾けながら話しかけてきた。
「兄ちゃん、いい腕だな。ところで、こんな腕立つ三味線弾きがこの町に何の用だ? 冒険者ってわけじゃなさそうだが」
「あー、ちょっと探し物でして。この辺りで『奇妙な光る石』とか『怪しい霊気』みたいな話、聞いてませんか?」
師匠の尾の手がかりを探すため、自然な風装で情報を探る。マスターはウーンと首をひねった。
「光る石なぁ……うーん、直接関係あるかは分からんが、町外れの『迷い森のダンジョン』なら最近異変が起きてるぞ」
「異変?」
「ああ。元々は浅い階層なら新米でも入れる静かなダンジョンだったんだが、数日前から巨大な『暴れ熊』が居座りやがってな。全身が鉄のように固くて、胸のあたりに眩しく光る石が埋まってるらしい。腕利きの冒険者も返り討ちに遭って、誰も近づけねえんだ」
(胸に光る石……! 間違いない、尾の霊核だ!)
俺の肩の上で、師匠の尻尾がピンと跳ね上がった。
だが俺は、スーッと視線をそらすと、他人事のようにお茶を啜った。
「へえ、大変ですねぇ。まあ俺には関係ないか! 冒険者さんたちが頑張って倒してくれるのを祈ってます!」
その瞬間。
パクッ。
「あ痛っ!?」
肩の上の師匠が、俺の耳たぶを力いっぱい噛みちぎらんばかりに噛みついてきた。
『行くぞトウマ!!』
「痛い痛い痛い! どこに行くんだよ放せ!」
『決まっておろう! そのダンジョンじゃ! 暴れ熊退治と尾の回収、ついでに修行を一粒で三度味わうのじゃ!』
「嫌だよ! 俺は今夜美味しいメシ食って寝るんだよ! 本物の冒険者に行かせろよ!」
『だんまりい! 弱き者を助け、力を取り戻すのがわしの……いや、弟子の道じゃ! ほれ、行くぞ!』
「俺は三味線弾きだぁぁぁっ!?」
読んでいただきありがとうございました!
トウマはただ美味しいものを食べて寝たいだけなのに、師匠のスパルタが容赦ないですね(笑)。
次回投稿8月17日19時予定です。
少しでも楽しんでいただけたら、ぜひブクマや評価(★)で応援してもらえると嬉しいです!
「老狐(師匠)のモフモフ感が好き」「トウマ頑張れ」など、感想やいいねをいただけるとめちゃくちゃ喜びます!




