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第十九話:龍鳴渓谷と、二胡を背負いし大剣士

 カミラさんの絶品海鮮ポトフで腹ごしらえを終えた俺たちは、港町ポルトを後にし、目的地である『龍鳴渓谷』へと足を踏み入れる。


「うわぁ……凄い景色だな……」


 目の前に広がるのは、天を突くような赤茶色の断崖絶壁。その峡谷の間を、ゴォォォ……と不気味な強風が吹き抜け、街道の木々はなぎ倒され、周囲には怪しい緑色の霊気が渦巻いていた。


『む……風の霊気がどんどん強くなっておるぞ。間違いなく、この奥に我が三本目の尾【疾風(はやて)の霊核】がある』


 俺の肩の上で、師匠が二本のフサフサな尾をピシッと立てる。


「気を引き締めていきましょう、トウマさん。いつ嵐の魔物や刺客が現れるかわかりません」

「うん、シオリさんも俺の後ろから離れないでね」


 俺が右手に霊刀を構え、三味線の胴を抱え直したその時だった。


 ギャアアアアッ——!!


 渓谷の突風に乗って、怪鳥の群れ(風の魔獣)が一斉に空から飛来し、俺たちへと襲いかかってきた!


「っ! 魔獣か!」


 俺が踏み出そうとした、まさにその瞬間——


 ゴォッ!!


 上空からドスンッと地響きを立てて舞い降りてきた「巨大な影」が、俺たちの前に立ちはだかる。


「そこまでだ、空の羽虫ども! 俺の街の街道で暴れるんじゃねえ!」


 轟くような重低音の声。

 煙の中から現れたのは、身長2メートルを軽々超える巨体を持った男だ。

 頭部からは見事な龍の角が生え、背中には力強い青い鱗の尾。そしてその右手には、大人の身の丈ほどもある巨大な『青龍刀』が握られている。


「ハァッ!!」


 男が青龍刀を横一文字に一閃させると、真空波のような凄まじい衝撃波が放たれ、襲いかかってきた怪鳥の群れが一瞬で吹き飛ばされる! 一撃粉砕……なんという腕前だ!


「す、すげぇ力……! 竜人族か!?」


 俺が圧倒されていると、その大柄な男はゆっくりと振り向いた。

 鋭い眼光の強面(こわもて)な顔立ちだが、どこか義理堅く誠実そうな雰囲気を纏っている。


「ほう……見慣れぬ旅人だな。怪我はないか、お二人さん?」


「あ、はい! 助けてくれてありがとうございます!」


「礼には及ばん。俺の名はアーサー・ドラグニル。この先にある龍人の街の防衛を引き受けている剣士だ。25歳の若輩だがな」


「アーサーさん……! 俺はトウマで、こっちがシオリさん。それと師匠です」


「トウマにシオリ、それに……ほう、神聖なお犬様か?」


『我は犬ではないわ!』


「師匠はこう見えて狐なんだよ」


 トウマがニヤニヤしながら答える 

 

「天狐様は九尾の狐様です」


「あなた様があの… これは失礼しました天狐様」


 アーサーは師匠に頭を下げた。その時、彼の背中に背負われた布袋から、木製の繊細な弦楽器——『二胡(ニコ)』の先端が覗いているのに気づいた。


「あれ? アーサーさん、背中に背負ってるのって……二胡?」


「ん? おお、目の付け所が良いなトウマ! そうだ、二胡だ!」


 厳めしい巨体のアーサーだが、楽器の話になった途端、破顔して嬉しそうに目を細めた。


「俺は剣を振るうのも好きだが、演奏するのも大好きなのだ。戦いの合間にこの二胡を弾くのが至高の癒やしでね。……む? トウマ、お前さんが背負っているのは……東の大陸の『三味線』か!?」


「へへっ、そうだよ! 俺はただの三味線弾きだからね!」


「なんと! 三味線弾きか! 素晴らしい! この異国の地で、同じ『弦を愛する者』に出会えるとは!」


 アーサーはガハハと豪快に笑うと、俺の肩をポンポンと叩いた。大柄なだけあって手がデカい!


「アーサーさん、実は俺たち、この渓谷の奥で暴れてる『緑の嵐』を鎮めに来たんだ。あの嵐のせいで、街道が通れなくて困ってるんだろ?」


 俺の言葉に、アーサーの表情がスッと引き締まった。


「……やはりお前たちもあの嵐を追いかけていたか。実はあの嵐……渓谷の最奥に巣食う『暴風龍(クラックス)』という魔獣が巻き起こしているのだ」


『暴風龍……! 間違いない、我が『尾』の力を取り込んで暴走しておるな!』


 師匠が怒りを露わにする。アーサーは俺たちを力強い瞳で見つめた。


「あの暴風龍は、龍人の街にとっても脅威だ。俺も奴を討伐するためにここへ来た。……トウマ、シオリ殿、天狐様! 音楽を愛する者同士、そして街を守る者同士、俺も同行させてくれ! 一緒にあの暴風龍を叩き潰そう!」


「もちろんだよ! 頼りにしてるよ、アーサーさん!」


「ふふ、力強い味方ができて心強いです!」


読んでいただきありがとうございました!


少しでも楽しんでいただけたら、ぜひブクマや評価(★)で応援してもらえると嬉しいです!

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