第十八話:港町ポルトと、豪快な女将カミラ
第2章 西の大陸編
「おお……! ここが西の大陸の港町、ポルトか!」
船のタラップを降り、俺は目の前に広がる景色に息をのむ。
東の大陸の木造建築とはガラリと変わり、赤茶色の石造りの建物が立ち並び、巨大な風車がいくつも回っている。異国情緒が溢れる港街だ。
「凄い熱気ですね、トウマさん。露店には見たこともない果物や魚がたくさん並んでいます」
「うん、三味線の弦に使えるような面白い素材もあるかもな!」
シオリさんと並んで歩きながら、活気ある大通りを進む。新しい街への好奇心で胸が高鳴っていた。
『ふむ……潮風の中に、ほんのりと異国の霊気を感じるのう。おいトウマ、まずは影丸に教わった宿屋へ向かうぞ。旅の疲れを癒やすのが先決じゃ』
頭の上でフサフサの二本の尾を揺らし、師匠(天狐様)が顎で街の奥を指さした。
「分かってるって。影丸が言ってたのは……たしか『海風の亭』だったっけ」
港の目抜き通りを抜け、木製の看板が揺れる一際大きい宿屋の前へたどり着く。扉を押して中に入ると、店内は昼間から船乗りや旅人たちで大賑わいだ。
「いらっしゃい! 空いてる席に座っておくれ——って、あら?」
カウンターの奥から顔を出したのは、赤髪を豪快に束ね、腕まくりをした健康的でスタイル抜群の女性だ。この人が影丸の言っていた女将、カミラさんだろう。
カミラさんは俺の肩の上の老狐と、シオリさんの竹笛に視線をやると、パンッと威勢よく手を叩いた。
「あんたたち……もしかして、『影丸』から話を聞いてきた客かい?」
「あ、はい! 影丸から『ポルトに着いたらカミラさんを訪ねろ』って言われて来ました!」
「やっぱりかい! 影丸から先回りして手紙が届いていてね。『凄腕の三味線弾きと、美人な巫女さん、それと神様みたいな狐がそっちに行く』って書いてあったよ。部屋は一番景色のいい上階を用意してあるから、ゆっくりしていきな!」
カミラさんは豪快に笑うと、俺の背中をバシバシと力強く叩いた。痛い痛い! 力強いな!
……って、ちょっと待てよ?
「え? 手紙って……俺たち船で何日もかけて来たのに、俺たちより早く届いたんですか!?」
「ハハハ! 影丸の奴は特別な『伝書鳥』を使うのさ! 大陸をひとっ飛びする俊足の鳥だからね、あんたたちが海を渡ってる間にあっさり届いてたんだよ」
「へぇぇ……さすが忍びの末裔、仕事が早いな!」
俺が感心していると、カミラさんは「任せときな! うちの港町名物・海鮮ポトフは絶品だよ!」と胸を叩いて一番いい部屋へと案内してくれた。
◇
案内された部屋に荷物を下ろし、俺たちは一息ついた。
窓からはポルトの青い海と、街の背後にそびえ立つ切り立った大渓谷が一望できる。
「さて……カミラさん、この【西の渓谷大陸】について何か怪しい噂とか、変な事件の噂ってないですか?」
俺が尋ねると、カミラさんは一転して少し引き締まった表情になり、腕組みをした。
「……あるよ。というか、今まさにこの大陸全体を揺るがしてる大問題さ」
「大問題……?」
シオリさんが表情を曇らせ、師匠が耳をピクッと立てる。
「ああ。ここから北へ進んだところにある『龍鳴渓谷』周辺でね……最近、夜な夜な巨大な緑色の『暴風の嵐』が発生して、街道を通る商隊が襲われてるんだ」
『緑の嵐……!』
師匠の目が一瞬で鋭くなる。
『間違いない……我が三本目の尾【疾風の霊核】の力じゃ……!』
「その嵐の影響で、渓谷の奥にある龍人の街との交流も途絶えかけていてね。風の勢いが凄まじくて、腕利きの傭兵たちも手が出せない状態らしいのさ」
カミラさんの言葉に、俺は思わず拳を握る。
「なるほどね……。嵐の正体を突き止めて尾を取り戻さないと、先へ進めそうにないな」
「はい。困っている人々を放っておくわけにはいきません。それに、お狐様の尾を取り戻すためにも……行きましょう、トウマさん!」
「おう! サクッと嵐を鎮めて、三本目の尾をゲットしてやろうぜ!」
『クッカッカ! 言ってくれるではないかトウマ! よし、まずはカミラ特製の海鮮ポトフを腹いっぱい食ってから出陣じゃ!!』
旅の疲れを吹き飛ばすように、俺たちは意気揚々と拳を突き上げた。
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