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第十七話:大航海と、船上の香ばしい怪物

 果てしなく広がる群青色の海と、どこまでも青い空。

 大和の港を出航した巨大な木造船は、順風満帆に【西の渓谷大陸】を目指して航海を続けていた。


「う〜ん、海風が気持ちいいなぁ……!」


 甲板の手すりに寄りかかり、俺は隣に立つシオリさんをチラリと盗み見た。

 海風にたなびく美しい黒髪、少し眩しそうに目を細める可憐な横顔。うーん、絵になりすぎる。


「はい、トウマさん。日差しが強いですから、冷たい麦茶をどうぞ」

「あ、ありがとうシオリさん! 気が利くなぁ〜」


 二人で冷たいお茶を飲みながら、良い雰囲気に浸る。まさに最高の船旅……のはずだった。


 ——ズズズズズズズッ……!!!


「……ん?」


 突如、船全体が巨大な何かに押し上げられたように激しく傾いた!

 バシャァァァン!! と水柱が上がり、海面から現れたのは——ビルほどもある巨大な赤黒い触手の群れだった。


「ひえぇぇぇ!? なになに!? 巨大なタコ!?」

「きゃあっ! 船が巻き付かれています!」


 乗組員たちの悲鳴が響き渡る。船を丸呑みにしようと襲いかかってきたのは、この海域のヌシと恐れられる魔導海獣『クラーケン(大タコ)』だった。極太の触手が船の甲板をバリバリと締め上げていく。


『ぬおおおっ!? わしの油揚げが海に落ちるではないか! 許せんぞ泥棒タコめ!!』


 頭の上で師匠がフサフサの尻尾を逆立てて激怒する。


「油揚げより船の心配をしてよ! 船が沈んだらシオリさんとの楽しい船旅が台無しになっちゃうじゃん!!」


 俺は素早く背中の三味線を構え、右手に黄金の霊刀を実体化させた。


「シオリさん! 船を壊さないように脚だけをバッサリ行くよ!」

「はい、トウマさん! ……『疾風の刃』!」


 シオリさんが朱色の竹笛を吹き鳴らすと、鋭い風の刃が飛んでいき、船に巻き付いていた極太の触手を数本バッサリと切り落とした。ドサッと甲板に叩きつけられる、丸太のようなタコの脚!


『トウマ! 切り落とした脚を無駄にするな! 焼きタコにするのじゃ!!』

「言われなくても分かってるって!!」


 俺は湧き上がる霊力を三味線の音色に乗せ、霊刀の刃に激しい炎を纏わせた!


「刀に炎を宿して……【炎閃(えんせん)】・火力調整モードッ!!」


 ザシュッ、ザザッ!!


 空中に跳ね上がったタコの脚を、絶妙な火加減の炎の刃で一口大に切り刻む!

 ジュウウゥゥゥ……!! と香ばしい煙が立ち込め、醤油のような海の塩気と焦げた香りが甲板全体に広がる!


「な……!? 襲ってきた大タコを一瞬でこんがり焼き上げておるだと!?」


 腰を抜かしていた船乗りたちが目を丸くする。だが、まだ本体が残っている!

 大タコは怒り狂い、残るすべての触手を束ねて俺たちに叩きつけようと振りかぶる!


「本体には……本物の雷をお見舞いだ!! 師匠、行くよ!」

『うむ! 天雷の力を受け取るがよい!!』


 師匠の二本の黄金の尾から、バリバリと神聖な天雷が溢れ出す。俺は三味線を激しく打ち鳴らし、黄金の雷光を刃に収束させた。


「本物の雷の味、噛み締めな!! 【雷閃】(らいせん)!!!!」


 ドガァァァァンッ!!


 黄金の雷撃が海面を切り裂き、大タコの本体を正面から貫いた。

 ギャアアアアッ!? という断末魔とともに、大タコは黄金の光に包まれて爆散! あとには香ばしく焼き上がった大量の『極上タコの足』だけが海面にコロコロと浮かんでいる。


 ◇


「いやぁ〜! お兄ちゃんたち、助かったよ! しかもこんな美味いお土産まで!」


 それから一時間後。船の甲板は、一転して大賑わいの『宴会場』と化していた。


 船乗りたちが樽からフレッシュな果実ジュースを注ぎ、俺たちが調理した大タコの姿焼きやぶつ切りを囲んで大宴会が始まったのだ。香ばしい焼きタコのタレの匂いが海風に乗って漂う。


「美味い! 表面はカリッとしてるのに、中はぷりっぷりだ!」

「三味線のお兄ちゃん、剣の腕も凄いが火加減の天才だな!」

「お兄ちゃんはまだ17歳か! じゃあ酒の代わりに、西の大陸の特産・シトラスソーダを山ほど持っていきな!」


「へへっ、ありがとう! ソーダ大好き!」


 船乗りたちに持ち上げられ、俺はジュースのコップを掲げながらニヤニヤが止まらない。

 と、そこへお皿を持ったシオリさんがトコトコと歩み寄ってきた。


「トウマさん。一番柔らかくて美味しそうなところ、ふーふーしておきました。はい……あーんです」


「えっ……!? あ、あーん……!?」


 白く湯気が立つ香ばしいタコを、シオリさんが差し出してくれる。

 デジャブ……! 甘味処に続いて、またしてもシオリさんの『あーん』……!!


「むぐっ……! んん〜〜っ!! 美味い!! 柔らかい!! シオリさんのふーふーが効いてて世界一美味いよ!!」


 俺の顔は再び抑えきれないニヤケ顔になり、目元をふにゃふにゃに崩してデレデレになっている。


「ふふっ、トウマさんは本当に美味しそうに召し上がりますね。……私、トウマさんと一緒だと何を食べても美味しいです」


 シオリさんも少し頬を赤くして、満足そうに微笑んでいる。う、シオリさんもまんざらでもない……! 最高すぎるだろこの船旅!


『ぬうう……わしを差し置いてまた二人でイチャイチャしおって……! トウマ、わしにもその大きいのを寄こすのじゃ!』


 口の周りをタレだらけにした師匠が割り込んできて、俺たちの甘い雰囲気はいつもの賑やかな漫才へと戻っていく。


 ◇


 大タコ退治の宴会から数日。

 水平線の向こうに、壮大な赤茶色の断崖絶壁と、賑やかな港の灯りが見えてきた。


「トウマさん、見えてきましたよ! あれが【西の渓谷大陸】の玄関口……港町ポルトです!」


「おおお……! ついに着いたか、新しい大陸!」


 甲板の手すりに立ち、俺は胸を躍らせた。


「影丸が言ってたな。港町ポルトに着いたら、まずは宿屋の女将・カミラさんを訪ねろって」


『うむ。影丸の紹介なら、美味い飯と安全な部屋にありつけるじゃろう。……そして、この大陸のどこかに我が三本目の尾があるはずじゃ』


「よし! 美味しいものを食べて、シオリさんと観光しつつ、サクッと尾を取り戻そう!」


 船は角笛を大きく響かせながら、港町ポルトのドックへとゆっくり滑り込んでいく。


読んでいただきありがとうございました!


今回で第1章終了です。いかかでしたか?

次回より2章西の大陸編です。お楽しみ


少しでも楽しんでいただけたら、ぜひブクマや評価(★)で応援してもらえると嬉しいです!

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