第十三話:紫の噂と、偽りの霊核
「いやぁ、昨日の演奏は最高だったねシオリさん! 投げ銭だけでこんなに集まるなんて、やっぱり大和は景気がいいや!」
翌日の昼下がり。大和の一等地にある豪華な旅籠の個室で、俺はテーブルの上に並べた金貨をジャラジャラと数えながら、鼻歌交じりに笑っていた。
「はい、トウマさん! 街の人々も温かくて、とても楽しく奏でることができました」
お茶を淹れてくれたシオリさんが優しく微笑む。
美味しい料理、ふかふかの布団、そしてシオリさんの笑顔。俺の目指す「平和で優雅な三味線弾きライフ」が、ついに完成しつつあった。
……が、その夢のような空気は、部屋の縁側から流れてきた「ヒュ〜」という呑気な口笛によって破られた。
「やあやあ、景気の良い噂を聞いて来てみれば、なにやら楽しそうだねぇ」
「っ! 誰だ!」
俺が素早く三味線の胴を構えると、そこには傘を深々とかぶった、流しの情報屋風の男がひょいと腰掛けていた。身のこなしからして、タダ者ではない気配が漂っている。
「そう警戒しないでくれよ、お兄さん。おいらは大和の裏街で情報屋をやってる『影丸』って者さ。昨夜の酒場での二人の演奏……いやぁ、痺れたねぇ。まさか本物の陰陽術と風の術を三味線と笛に乗せてるなんて、客は誰も気づいちゃいないがね」
男——影丸はニヤリと不敵に笑い、俺の肩の上の老狐に視線を向けた。
「それに……そっちの可愛いワンちゃんが、まさか伝説の『天狐様』ご本人とはねぇ」
『失礼な奴じゃな! ワンちゃんと言うな噛み殺すぞ!』
「まあ待てよ天狐様。おいらは怪しい者じゃない。実は、この大和の都で起きてる『ヤバい事件』についての情報を持ってきたんだ」
影丸の言葉に、俺とシオリさん、そして師匠の視線が一斉に集中した。
「ヤバい事件……?」
「ええ。最近、この大和の地下遊郭でね、怪しい連中が『偽物の尾の霊核』を大量に密造して撒き散らしてるんだよ。大ナマズの件も、元をたどればソイツらが流した試作品のせいさ」
『なに……!? 我が尾の力を模倣し、密造しておるだと……!?』
師匠の目がカッと見開かれた。影丸は重々しく頷く。
「その偽物の霊核は、使う者に一時的な怪力を与えるが、やがて力を暴走させて正気を奪う悪魔の品だ。そして……その地下の密造組織を仕切っているボスの手元にこそ、すべての元凶である『本物の黄金の尾』が祀られているそうなんだよ」
『ぬうう……許せん! わしの聖なる力をそんな邪悪な模倣に使いおって……!!』
怒りで師匠の毛並みが逆立ち、激しい炎の霊気が揺らめいた。
「そういうことさ。偽物の霊核がこれ以上出回れば、大和の都はパニックになる。どうだい? お兄さんたち。本物の尾を取り戻しついでに、その密造組織を叩き潰しに行ってみないかい?」
影丸が差し出してきた手に、シオリさんがキリッとした表情で頷いた。
「トウマさん、天狐様。お狐様の力を悪用し、都を脅かすような真似、絶対に許せません。本物の尾を取り戻すためにも、乗り込みましょう!」
『うむ! シオリの言う通りじゃ! 今度こそ本物の我が尾を奪還し、悪党どもの企みを打ち砕くぞ!』
二人がやる気満々で盛り上がる中、俺だけがガックリと肩を落とした。
「はぁ〜……結局こうなるのかぁ……。せっかくの大和観光が……」
「トウマさん! 無事に尾を取り戻したら、大和で一番美味しいと評判の甘味処へ、私とおデート……いえ、一緒に行きませんか?」
「行く!! 全力で行く!! 絶対に本物の尾を奪還する!!」
シオリさんの「おデート」という単語に一瞬で釣られた俺は、現金な素早さで走り出した。
『クッカッカ、相変わらず扱いやすい男じゃのう!』
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