第十一話:大和への道中と、予期せぬ寄り道
東の大陸の都・大和へ向かう街道の道のりは長く、徒歩で数日はかかる道のりだった。
しかしこれからは違う!、隣には風のように可憐なシオリさんがいる!。それだけで、移動の疲れは半分以下に感じられた。
「トウマさん、少し休憩にしましょうか。お水、どうぞ」
「あ、ありがとうシオリさん! 助かるよ〜」
木陰の岩に腰を下ろし、シオリさんから竹の水筒を受け取る。
ふと見ると、街道の脇から森の奥へと続く、打ち捨てられたような古い洞窟の入り口が目に入った。看板にはうっすらと『危険・天然魔の窟』と掠れた文字で書かれている。
『ぬ……トウマ、シオリ。あそこを見よ』
俺の肩の上で、師匠が耳をピンと立たせた。
「洞窟? ダンジョン的なやつ? 嫌だよ、俺は安全な街道を平和に行きたいの」
『愚か者め! 都・大和へ行く前に、装備の補強と路銀の足しになる素材を集めるのじゃ!』
「えっ、素材?」
首をかしげる俺に、シオリさんが手をポンと叩いて説明してくれた。
「なるほど、天狐様のおっしゃる通りですね。このあたりの洞窟には、武器や防具の補強に使える希少な鉱石や、薬師が高値で買い取ってくれる魔物の素材が眠っていることが多いんです。大和の都に着いてから売れば、かなりの金貨になりますよ」
「マ、マジで……!? 鉱石に魔物素材……!」
シオリさんの口から「金貨」という魅惑のワードが出た瞬間、俺の目の色が再び変わった。
「よし決まり! 稼げる時に稼いでおくのが賢い旅人ってものだよね! ちょっと寄っていこう!」
『クッカッカ、本当に現金な奴じゃのう!』
◇
薄暗い洞窟の中は、ひんやりとした冷気が漂っていた。
だが、今の俺たちには『狐火』という最強の松明がある。師匠が尻尾の先からポッと灯した小さな炎が、洞窟内を明るく照らしていた。
「お、あった! これじゃない!?」
岩肌に、青く怪しく光る鉱石の結晶が群生していた。俺は腰の霊刀を素早く抜き放つ。
「【雷閃】の出力を限界まで落として……繊細に……斬る!」
刃の先端にほんの少しだけ紫色の電撃を走らせ、岩の隙間に刃を滑り込ませる。バチッと小さな火花が散り、綺麗に削り取られた結晶がコロリと手のひらに落ちてきた。
『ほう……霊気の調整が巧みになったのう。刀をピッケル代わりに使うとは贅沢な奴じゃが』
「特訓の成果だよ! ほらシオリさん、これ『月光銀鉱』じゃない!? 高く売れそう!」
「すごいですトウマさん! 手際が鮮やかですね!」
シオリさんに褒められてドヤ顔を決めていると、洞窟の奥から「ルシャアアア!」と不気味な威嚇音が響いた。
現れたのは、岩でできた甲羅を持つ体長二メートルほどの巨大な大岩ガメだ。
「出たな素材! シオリさん、甲羅は傷つけずに頼む!」
「はいっ! ……『疾風の刃』!」
シオリさんが放つ風の旋風が、大岩ガメの足元をすくい上げて体勢を崩す。翻弄されて引っくり返った大岩ガメのお腹に向かって、俺は一気に踏み込んだ。
「刀に炎を宿して……【炎閃】っ!!」
ザシュッ!!
一撃で仕留めた大岩ガメは光となって消え、後にはずっしりと重い『岩亀の甲羅』と『魔核』が残された。
「よっしゃ、大収穫! 鉱石に高級素材、これで大和に着いたら一獲千金じゃん!」
『うむ、戦いながら霊気のコントロールも身につく。一石二鳥じゃな』
◇
洞窟を出て素材を背負い袋に詰め込むと、日暮れには少し時間があった。
俺たちは景色の良い小高い丘の上に腰を下ろし、旅のもう一つの目的である『合奏』の練習を始めることにした。
「じゃあシオリさん、昨日合わせた曲のサビの部分、もう一度いってみようか」
「はい、トウマさん。よろしくお願いします」
俺が三味線の胴を抱え、撥を構える。シオリさんも胸元から澄んだ朱色の竹笛を取り出し、唇に当てた。
ベベン——……。
俺が打ち鳴らす三味線の音色は、力強くもどこか切ない旅の情景を描き出す。
そこへ、シオリさんの竹笛が、まるで吹き抜ける爽やかな春風のように重なり合ってきた。
ヒョロロロ〜……ピィパラリ……。
三味線の弦の響きと、竹笛の柔らかく透き通った音色。
二人で息を合わせ、テンポを速め、互いの音を引き立て合う。
(うわ……なにこれ、めちゃくちゃ気持ちいい……!)
一人で弾いていた時はただの「路頭の演奏」だったものが、シオリさんの笛が加わることで、まるで一つの壮大な物語を聞いているかのような深みが生まれていく。
ふと横を見ると、シオリさんも目を細め、心から楽しそうに笛を奏でていた。夕日に照らされた横顔があまりにも綺麗で、俺は一瞬撥を打つ手を止めそうになってしまう。
『……ふむ。なかなか良い音色じゃ。これなら大和の歓楽街でも、客の財布の紐はゆるゆるになるじゃろうな』
木の枝の上で丸くなっていた師匠が、気持ち良さそうに目を細めて呟いた。
「よしっ! バッチリだねシオリさん!」
「はい! トウマさんの三味線と合わせていると、なんだか心から元気が湧いてきます!」
シオリさんが弾けるような笑顔を見せてくれた。その笑顔を見られただけで、俺の胸は満足感でいっぱいになる。
ダンジョンでの素材回収で路銀の蓄えもでき、二人での合奏も完璧。
旅の準備は、これ以上ないほど整った。
「さあ、明日はついに大和の街に入れそうだね」
「はい。東の大陸最大の都……どんな場所か楽しみですね、トウマさん」
『フン、美味い油揚げのある料亭があると良いのじゃがな』
読んでいただきありがとうございました!
シオリさんが一緒に旅をする事でトウマは楽しそうですね。次回、大和の町です。
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