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9 穀倉街、ローンリア

クェトの話を聞いたミラとロダンは、強敵を倒すため任務へ向かうことに。


目的地は穀倉街と呼ばれるローンリア。そこに現れると言う、巨大な熊の討伐を目指す。



 午後。

 隊舎にメンバーが集まり、作戦会議が始まった。


「穀物を腐敗させる熊…。なんか、変な奴だよね~」レアンは、緑踏隊のレポートをめくりながら言う。


「しかも普通の熊の5倍サイズだって? それ、とんでもなくデカいぞ」ザエルが唸る。


「私、普通の熊も見たことないわ。王都にはいないし。熊型の魔物も見たことない」カフカが言う。


「僕が見たことがある熊は、どれも僕よりでかい。僕よりでかいやつが更に5倍でかいんだぞ。想像つくか?」


 想像したカフカの視線は、次第に、隊舎の天井より上のほうまで向いた。「大きいわね」


「大きさだけなら、王都に現れたあの眼球の魔物も大概だったわ。倒すうえでは、必ずしも重要じゃない」


 ミラの言は、皆の視線を集めた。


「この魔物の場合、“腐敗”ってのが気になるわ。もしかして、アンデッド系?」


「アンデッド系…。だったら、結構面倒ですね」ロダンは顔をしかめた。「倒すというより、丸ごと燃やす必要がありますよね?」


「アンデッド系だったら、魔物の肉体は媒質に過ぎない。本質は、熊に寄生した何かかも」


「うーん…。それだったら、緑踏隊も何か記録を残すと思うんだけどな~…。もっと不可解な何か、かもね」レアンが訝しむ。

 

 その実情を踏まえて、ミラは作戦をうちだす。


「魔物の出現エリアにたどり着いたら、まずレアンの解析魔法で痕跡を現地調査する。魔物の能力の正体と、弱点を予測するためにね。魔法、寄生生物。どちらか特定する」


「了解!」


「ザエルもフィールドワークのサポートお願い。熊型の魔物ってだけで、熊と同じ生態じゃないと思うけど、痕跡は似てるかもしれない」


「分かった。経験が生かせるかもな」


「カフカ。腐敗のメカニズム次第だけど、もし魔法だったら毒ガスタイプかもしれない。“金継ぎ結界”に、ガスも防御できる奴あるよね?」


「もちろん。普通の防御結界の下に重ねとく」


「ロダン。君は――戦闘をお願い。相手が大きくても、君なら問題ないわね」


「はい! 行けます」


「私も戦闘する。毒を使うタイプだったら長期戦は禁物、環境への影響も抑えるために相手の移動も止めた方が良い。弱点が解析されるか偶然破壊できるまでは、相手の機動力を奪うことに集中する」


「分かりました」


「よし、じゃあ移動するよ! 今日の夜までにローンリアについて、明日には討伐に打って出る!」

 




 *



 


 ローンリア、郊外。

 そこには二つのエリアがあり、人々が暮らす穀倉街路エリアと、広大な農場エリアがある。


 破壊された穀倉庫は、防風林に隣接する農場エリアの一角にあった。

 荒れ果て、虫たちが寄ってたかっている。高床で風通しの良い構造の倉庫は崩れ果て、ひしゃげ、木屑は変色し、穀物は散らかりっぱなしだった。


 数日前にこの被害があってから、緑踏隊が既に封鎖しており、近隣住民は避難済みだった。赤動隊が復旧に入るには、ローンリア・レッド・ベアの処理が先決だった。



「こりゃ酷いな」

 ザエルは顔をしかめて、現場の検分を進める。「想像以上だ。ミラ、油断するなよ。これは、一撃で穀倉を破壊したみたいだ。爪痕が地面まで綺麗に繋がってる。体躯が大きいだけじゃなく、手は肥大化してるかもしれない」


「うん。レアンは? なにか分かった?」


「腐敗の痕跡を見てるけど~…。うーん。魔法の痕跡はあるね。でも、何か変」


「変?」


「うん。確かに腐敗してるし、魔力の残滓もめちゃくちゃはっきり見えるけど。魔力の雰囲気がね、回復魔法とか、そういうのに近いんだよね~…」


「それに、なんか()()()()()()()? 穀物とか、木材以外に。これ、熊が運んできたの?」カフカが、地面に残っている腐敗した植物を足で払いながら言う。


「植物が……」とミラ。

「……多い?」とロダン。


 奇妙な違和感だった。

 それを聞いたザエルが、倒壊した木材の表面を手で払い、よく観察し始めた。

 ひどく表面が荒れ果て、しかも、そこに折り重なるようにして乗っていた腐敗した植物は、木材に根付いていたのだ。


「これは……!? 腐敗を先に起こしたわけじゃないかもしれんぞ!」


「うん、だね~! この魔法はやっぱり回復魔法だ! しかも、超高度な」


 レアンが結論付けた、その時。

 遠くから、地響きがし始める。鈍く、低い音だった。


 全員が構えを取る。最前線に立つのはカフカ、その後ろにロダンとミラが並び、さらにそこから距離を取ってレアンとザエル。

 レアンを背後に、ミラは更に話を聞く。


「でも高度な回復魔法って、熊がそんなこと、できるの?」


「分からない。回復魔法は一握りしか扱えない、ほとんど奇跡みたいな魔法のはずだからね~。でも、ここに漂ってる独特な魔力の気配は、全部その回復魔法の痕跡だった。特別な熊か、それとも、何か裏に潜んでるタイプか…」


 重低音が近づいている。地面が揺れている。

 一行は話をしながらも緊張感が高まりつつあった。


「でもどうして回復魔法で腐敗が…?」


『たぶん、やり過ぎたんだよ』


 レアンの声が通心魔法のモードに切り替わり、全員の襟元から聞こえ始める。


『生命を異常に、強制的に、回復させ続けた。

 なんで熊が回復魔法を使えるのか分からないけど。

 植物と菌が急激に活性化して、

 行きつくところまで一気に行った。


 ――それが、今のこの状況!』



 ミラ、ロダンが、剣を構えた。


 唸り声のような息遣いが、地面から微かに聞こえ始めた。何かが弾ける水音、ざわざわ、と風が草を撫でるような音。


「全員、戦闘準備!」


 ミラの号令。

 カフカの金継ぎ結界が発動し、全員の体の表面に一瞬金色の光が宿り、すっと消えた。

 レアンが魔術書を構え、ザエルと共に距離を取り。

 ロダンとミラが、一歩、前に出た。


 

 ……グオオオオッッ――!!!!



 土を巻き上げて、熊は、地面から姿を現した。


 新鮮な血をかぶったような赤い毛。

 歪に肥大化した腕、正気を失った黄色い目と、開いたままの口から垂れる涎。

 体表に植物の蔦を纏い、腐敗し、抜け落ちて。

 そしてまた、蔦が生えて――意味のない生産と腐敗を繰り返していた。



 その異様な敵を相手に、怯むことなくミラは剣を握り直す。


「行くよ――ロダン」


「…はい!」






第10話『ローンリア・レッド・ベア』

5/19投稿予定

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