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35:凶星

「何が、起こっているのですか……?」


 通信魔法から垂れ流される阿鼻叫喚の声に、アルカは動揺と混乱を覚えた。

 魔将たちは皆、アルカを主と認識した筈だ。


 しかし聞こえてくる声は蹂躙される者たちの声ばかりで。


【……ちっとも説明を貰えないのであれば、我らの疑問を投げかけましょう】


 彼女を前にカラガンたちは手にした剣を一斉に捧げる。


【忠誠を捧げた王はノーライフキング。なれど我らの心が慕うはアスラ様である!】

【【(しか)り、(しか)りッ!】】

【それ故に説明を求めたのですぞ? 我らが敗れたとはどういう意かと!】

「何を言って……そのノーライフキングがアスラなのでしょう!?」


 アルカの言葉にカラガンたちは骨を鳴らして笑う。

 その認識の差異は致命的だった。


【不死王と違い、アスラ様は雑兵と侮ることなく我らに死地を用意してくださるのだ】

【カラカラっ! 我らの楽しみ、楽しみ増えたねぇ!】

【由々しき事態! 由々しき事態っ! お嫁さん決定ぃぃぃ!】


 何が彼らを惹きつけるのかアルカは理解出来ない。

 頼りなさそうな少年の何が、かつてのノーライフキングを凌ぐのか理解出来ない。


【分からないとあらば……その目で見定めるがよろしい】


 カラガンの背後に広がる抉れた壁と青空。

 青一色の中に、陽光に反射する鈍い銀色があった。

 爆炎が防御結界を突き抜け、再び空を明滅させる。


礼賛(れいさん)せよ、畏怖(いふ)せよ、喜び打ち震えよッ!】


 カラガンたちは剣の腹で瓦礫を打ち鳴らし、興奮に骨を震わせる。


【今これより参られるは邪悪の極みッ! 我らの絶望の星ッ!】

【邪道を歩み、生と死を凌駕し、この世界を混沌に陥れる常闇の不死王ッ!】


 鎧に投擲された人影が飛び出し、玉座の間に滑り込む。


 その手に握られるは布に巻かれた一本の剣。

 彼は慣性のまま滑り、やがて瓦礫の一つに足を取られて盛大に壁に激突した。


「むぎゃぁ!」


 不死王の名に似つかわしくない声を出す姿に、アルカもカラガンも言葉が出ない。

 彼は剣を支えに立ち上がると、放り投げた臣下を睨みつけた。


「……マークスッ!? 帰ったら話があるからね!?」

「――承知。新たな工房の話だナ? (おの)にも考えがあル」


 空を飛ぶ鎧がふわりと玉座の間に着陸する。

 アルカは小さい咳払いと共に、下がっていた剣先を持ち上げた。


「鎧の魔物……《無創の虚鎧(エボルアーマー)》ですね。

 貴方もノーライフキングではなくアスラに従いますか」

「――回答。(おの)には心がなイ。故に誰にも従ってはいなイ」


 ゆえに、とマークスは言葉を繋げる。


「――アスラ様と共にいるのは……つまらなかったら殺すためダ」


 長いまつ毛の瞳を伏せ、アルカはあってはならない興味を飲み込んだ。


「……これ以上の問答は意味がありませんね」


 軽い踏み込みと共にアルカの体がその場から消える。


末光剣(まっこうけん)瞬折(しゅんせつ)》。

 神殿でアスラを急襲した超高速の突き技だ。


「それはもう見たよっ!」


 思考加速で強化された視界はアルカを捉えていた。

 突き出された光剣の先をアスラは手にした武器で受ける。

 だがアルカの攻撃はその次があった。


「……《キャノンレイ》」


 超至近距離からの魔法展開だ。

 聖なる光は爆発を生み、アルカは飛び退いて剣を払う。


「無茶するなぁ。僕じゃなかったら死んでたよ」


 光は消え失せ、剣に巻き付く布が風にのって飛んでいく。

 不死王の手に握られていた武器に、アルカの双眸は大きく見開かれた。


「貴方は魔杖を作ろうとしていたのではなかったのですか?」


 アスラが手にしていたのは――漆黒の剣だ。

 その表面には細かな光が煌めき、夜空の星を彷彿とさせる。


「臣下に……何を作らせたのですか?」


夜天の宮殿(ナイト・パレス)》で取り戻した《闇を告げる始まりの血》。

 クィージナ神殿で回収した《堕ちた星》。

 そしてアスラの手の上で光る小さな光玉――《黄泉の宝珠》。


 剣の鍔に押し当てられた宝珠は解けるように沈み、その剣はここに完成を迎える。



「《魔杖(まじょう)アストリオン》改め……《魔杖剣(まじょうけん)アストリオン》」



 鞘から抜かれる刃は片刃。

 まるで誕生を喜ぶかのように、その剣は赤紫色を刀身に揺らめかせる。

 底知れない闇を映す剣に、気付けばアルカは魔法を放っていた。


「《レイストームバード》ッ!」


 三階梯の光属性魔法で生み出されたのは光輝く鳥だ。

 当たれば爆ぜるそれらは群れを成してアスラへ飛翔するがしかし。


 一閃。

 アストリオンの剣筋をアスラの魔力が走り――魔法の鳥はバラバラに砕け散った。


 それだけに留まらない。

 魔力の斬撃は飛翔し、咄嗟に剣で受けたアルカを弾き飛ばした。

 瓦礫で背中を強打した彼女は、遅れて何をされたのか理解する。


「魔法を、単純な魔力だけで斬ったのですか……っ!」


 アルカの動揺を無視し、アスラが見つめる先にいたのはゼィリルだ。

 主の指示を待ち、棒立ちの臣下を前に。

 アスラはこれまでと同じように優しく微笑んだ。


「帰っておいで……ゼィリル」


 必ず助けられると信じる一歩だった。

 剣を手に駆けるアスラを止めようとアルカが動き出すがしかし。


「――忠告。アスラ様の邪魔をするナ」

【我らはまだまだ骨を粉にして戦えますぞおおお!】


 行く手をマークスとカラガンたちに塞がれ、アルカは命令しか飛ばすことが出来ない。


「《堕魂の(ウィスプオブ)鏖殺者(スロータ―)》ッ! 不死王を討ちなさい!」


 青い炎を両手に灯し、王を迎えるゼィリル。

 アスラは柄を強く握りしめ――彼女へと魔杖剣を振り抜いた。


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