第四十二話 「その先の話」
# 第四十二話 「その先の話」
かなうはしばらく笑っていた。
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「十五年越しの返事がそれ?」
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「大事だろ。」
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「そこ?」
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「そこ。」
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二人はまた笑う。
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コンビニの明かり。
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夜風。
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遠くを走る車の音。
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大学生だった頃と同じ場所。
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でも。
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今の笑い方は少し違った。
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若い頃みたいな勢いではなく。
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どこか安心したような笑いだった。
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かなうが缶コーヒーを飲む。
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少し黙る。
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そして。
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「本当にどうする?」
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今度は真面目な声だった。
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りょうやはすぐには答えなかった。
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一緒に住む。
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二十歳の頃なら。
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冗談だった。
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でも。
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今は違う。
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現実として考えられる年齢になっている。
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かなうが言う。
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「別にさ。」
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「うん。」
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「本当に住むとかじゃなくてもいいんだけど。」
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風が吹く。
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コンビニの旗が揺れる。
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「ただ。」
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かなうは少し笑う。
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「約束覚えてたの、
なんか嬉しかった。」
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りょうやは何も言わなかった。
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自分も同じだったから。
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大学生の頃。
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あの約束は軽かった。
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軽かったはずなのに。
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十五年経っても覚えていた。
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それは約束そのものじゃなくて。
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その時間を忘れたくなかったのかもしれない。
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かなうが言う。
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「なあ。」
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「ん?」
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「俺らさ。」
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少し考える。
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言葉を選ぶみたいに。
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「結構いい人生だったよな。」
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りょうやは空を見上げる。
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街の光で星は見えない。
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でも。
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思い出は浮かんでくる。
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コンビニ。
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ファミレス。
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ゲームセンター。
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かなうの部屋。
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卒業式。
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電話。
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結婚式。
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全部繋がっている。
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「そうだな。」
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小さく答える。
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かなうは笑った。
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その横顔は。
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大学生の頃より少し疲れていて。
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少し大人で。
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でも。
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どこか変わらなかった。
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「じゃあ。」
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かなうが立ち上がる。
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「帰るか。」
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りょうやも立ち上がる。
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二人は歩き出す。
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大学生の頃みたいに。
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並んで。
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同じ方向へ。
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コンビニの明かりが少しずつ遠ざかる。
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かなうが前を向いたまま言う。
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「次は五十歳くらいで答え合わせする?」
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りょうやは吹き出した。
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「長すぎる。」
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「じゃあ四十。」
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「早すぎる。」
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かなうが笑う。
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その笑い声が夜に溶けていく。
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未来はわからない。
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また会うかもしれない。
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会わないかもしれない。
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でも。
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それでいい気がした。
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二十歳の頃にはわからなかった答えが、
少しだけ見えた気がした。
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二人は歩き続ける。
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春の夜風の中を。




