第四十一話 「答え合わせ」
# 第四十一話 「答え合わせ」
春の風が吹く。
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コンビニの明かり。
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夜の道路。
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遠くを走る車の音。
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二十歳の頃と同じ景色。
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でも。
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あの頃みたいに、
何も考えず笑える年齢ではなくなっていた。
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かなうは缶コーヒーを持ったまま、
少しだけ困ったように笑う。
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「冗談だったんだけどな。」
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その言葉は、
昔にも聞いた気がした。
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りょうやは何も言わない。
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かなうも続けない。
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しばらく沈黙が流れる。
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不思議だった。
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昔なら、
その沈黙を誰かがすぐに壊していた。
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くだらない話。
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仕事の愚痴。
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天気の話。
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何でもよかった。
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でも今は。
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二人とも、
その沈黙の意味を知っている気がした。
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かなうが空を見上げる。
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「結局さ。」
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「うん。」
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「三十五歳になったな。」
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「なったな。」
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かなうは笑う。
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少しだけ寂しそうだった。
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「もっとちゃんとした大人になると思ってた。」
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りょうやは少し笑う。
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「それ、三十歳の時も言ってた。」
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「言ってたか。」
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「言ってた。」
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かなうが吹き出す。
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コンビニの自動ドアが開く。
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閉まる。
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知らない人が出てくる。
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知らない人生。
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知らない時間。
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かなうがぽつりと言う。
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「佐伯んとこ、子ども三人だろ。」
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「うん。」
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「森下も結婚したし。」
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「うん。」
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かなうは缶コーヒーを見つめる。
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「俺らだけ、
ここにいるみたいだな。」
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その言葉に。
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りょうやは少しだけ首を振った。
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「違うだろ。」
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かなうが顔を上げる。
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「ん?」
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「俺らも進んだ。」
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春の風が吹く。
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「仕事もしたし。」
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「うん。」
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「失敗もしたし。」
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「したな。」
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「いろいろあった。」
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かなうが小さく笑う。
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「確かに。」
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二十歳の頃。
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未来は真っ白だった。
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今は違う。
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傷もある。
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後悔もある。
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でも。
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何もなかったわけじゃない。
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かなうが言う。
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「じゃあ。」
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「ん?」
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「答え合わせする?」
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りょうやは少し笑う。
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「何の。」
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かなうも笑った。
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そして。
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昔と変わらない調子で言う。
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「三十五歳まで独身だったら、一緒に住む話。」
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夜風が吹く。
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コンビニの白い光が、
二人の足元を照らしていた。
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りょうやは少しだけ空を見上げる。
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二十歳の頃。
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冗談みたいに始まった約束。
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十五年かけて辿り着いた夜。
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「かなう。」
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「ん?」
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りょうやは少し笑った。
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「お前、部屋汚いだろ。」
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一瞬。
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かなうが目を丸くする。
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そして。
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声を上げて笑った。
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「そこからかよ。」
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コンビニの前に、
二人の笑い声が響いた。




