第四十話 「三十五歳の春」
# 第四十話 「三十五歳の春」
二年後。
---
春。
---
桜が咲いていた。
---
三十五歳。
---
あの日、
コンビニの前で笑いながら話していた年齢になった。
---
大学生だった頃。
---
三十五歳は、
もっと遠くて、
もっと大人だと思っていた。
---
でも実際は。
---
相変わらず迷うし。
---
相変わらず失敗するし。
---
思っていたほど完成された人間にはなっていなかった。
---
---
仕事帰り。
---
りょうやは駅前を歩いていた。
---
スマホが震える。
---
かなうだった。
---
『今日』
---
それだけ。
---
りょうやは少し笑う。
---
何のことか、
聞かなくてもわかった。
---
『覚えてる』
---
送信。
---
既読。
---
数秒後。
---
『よかった』
---
---
待ち合わせ場所は、
大学近くの駅だった。
---
久しぶりだった。
---
何年ぶりだろう。
---
駅前は少し変わっていた。
---
新しい店。
---
なくなった店。
---
変わった景色。
---
でも。
---
春の風だけは、
昔と同じだった。
---
---
かなうは先に来ていた。
---
珍しい。
---
りょうやは思わず笑う。
---
「早いな。」
---
かなうが振り返る。
---
そして。
---
少し照れくさそうに笑った。
---
「今日くらいは。」
---
---
二人は並んで歩き出す。
---
大学への道。
---
何度も通った道。
---
コンビニ。
---
ファミレス。
---
ゲームセンター。
---
なくなったものもある。
---
残っているものもある。
---
---
そして。
---
あのコンビニ。
---
建物は少し古くなっていた。
---
でもまだあった。
---
---
かなうが笑う。
---
「残ってるな。」
---
「残ってるな。」
---
---
店へ入る。
---
缶コーヒー。
---
お茶。
---
昔と同じ。
---
---
外へ出る。
---
夜風。
---
コンビニの明かり。
---
二十歳の頃と同じ場所。
---
でも。
---
並んでいる二人は違う。
---
---
かなうが缶を開ける。
---
小さな音。
---
そして。
---
笑いながら言った。
---
「三十五歳まで独身だったら、一緒に住む?」
---
二十歳の頃と同じ言葉。
---
でも。
---
今度は二人とも笑わなかった。
---
春の風だけが静かに吹いていた。




