第三十九話 「言わなかったこと」
# 第三十九話 「言わなかったこと」
披露宴から一週間。
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りょうやは仕事帰りの電車に揺られていた。
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窓の外は真っ暗だった。
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スマホを見る。
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かなうとのトーク画面。
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最後のやり取りは、
結婚式の日だった。
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『お疲れ』
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『お疲れ』
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それだけ。
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昔なら。
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そのあとも、
だらだら話していたかもしれない。
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でも今は違う。
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連絡しなくても、
不思議と平気だった。
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電車が駅へ滑り込む。
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人が降りる。
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人が乗る。
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同じことの繰り返し。
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りょうやは窓に映る自分を見る。
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三十三歳。
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少し疲れた顔。
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大学生の頃とは違う。
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でも。
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あの日のコンビニの景色だけは、
妙に鮮明だった。
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その夜。
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スマホが震える。
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かなうだった。
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『暇?』
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りょうやは少し笑う。
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『少し』
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既読。
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しばらくして電話がかかってくる。
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「もしもし。」
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『暇だった。』
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「知ってる。」
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かなうが笑う。
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電話の向こうでは、
テレビの音が流れていた。
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昔から変わらない。
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かなうは何かをしながら電話する。
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『なあ。』
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「ん?」
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『結婚式の日さ。』
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りょうやは少し黙る。
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『うん。』
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『ちょっと思ったんだけど。』
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かなうの声が少しだけ低くなる。
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『俺ら、意外とちゃんと約束守ってるな。』
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りょうやは少し笑った。
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「何が。」
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『まだ独身。』
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思わず吹き出す。
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「そこかよ。」
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『そこ。』
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かなうも笑う。
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しばらく沈黙。
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気まずくはない。
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でも。
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何かを言いかけて、
やめたような空気があった。
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かなうが言う。
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『三十五歳になったらさ。』
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「ん?」
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『ちゃんと答え合わせしような。』
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りょうやは少し考える。
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答え合わせ。
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その言葉が妙に引っかかった。
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大学生の頃。
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未来は遠かった。
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今は違う。
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未来が少しずつ現実になっている。
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「そうだな。」
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それだけ返す。
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かなうが少し笑った。
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『じゃあまた。』
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「おう。」
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電話が切れる。
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静かな部屋。
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りょうやはスマホを置く。
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かなうがあの時、
本当は何を言おうとしたのか。
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それは聞かなかった。
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たぶん。
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かなうも言わなかった。
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でも。
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その“言わなかったこと”だけが、
なぜか少し気になった。




