第三十八話 「帰り道」
# 第三十八話 「帰り道」
披露宴が終わったあと。
---
二次会へ行く人たちと別れ、
りょうやとかなうは駅へ向かって歩いていた。
---
六月の夜風。
---
昼間の暑さが少しだけ残っている。
---
街灯の光が、
歩道を淡く照らしていた。
---
「佐伯、幸せそうだったな。」
かなうが言う。
---
「そうだな。」
---
「奥さん綺麗だった。」
---
「それ本人に言え。」
---
かなうが笑う。
---
しばらく沈黙。
---
大学の頃なら。
---
もっとくだらない話をしていた気がする。
---
でも今は。
---
沈黙の時間も増えた。
---
それは気まずいからじゃない。
---
話すことがなくなったわけでもない。
---
ただ。
---
一緒に歩くだけで十分な関係になっていた。
---
---
駅前へ着く。
---
人通りはまだ多い。
---
飲み帰りの会社員。
---
若いカップル。
---
家路を急ぐ人たち。
---
かなうが立ち止まる。
---
「コーヒー飲む?」
---
その言葉に。
---
りょうやは少し笑った。
---
「コンビニか。」
---
「コンビニ。」
---
---
二人は駅前のコンビニへ入る。
---
冷房の風。
---
レジ横のホットスナック。
---
店員の声。
---
何年経っても変わらない。
---
かなうは缶コーヒー。
---
りょうやはお茶。
---
昔と同じだった。
---
---
店の外。
---
壁際に並んで立つ。
---
大学の頃みたいに、
段差へ座る場所はなかった。
---
それでも。
---
なぜか少し懐かしい。
---
---
かなうが缶を開ける。
---
「なあ。」
---
「ん?」
---
「覚えてる?」
---
りょうやは少し考える。
---
でも。
---
何を聞かれているのか、
なんとなくわかった。
---
---
「三十五歳の話か。」
---
かなうが笑う。
---
「わかるか。」
---
「何回も聞いてる。」
---
---
かなうは缶コーヒーを見つめる。
---
少しだけ真面目な顔だった。
---
「あと二年だな。」
---
「そうだな。」
---
「早かったな。」
---
りょうやは答えなかった。
---
大学を卒業してからの時間を思い返す。
---
仕事。
---
引っ越し。
---
友人たちの結婚。
---
家族の変化。
---
いろんなことがあった。
---
それでも。
---
こうしてかなうと話している。
---
---
かなうが小さく笑う。
---
「冗談だったんだけどな。」
---
夜風が吹く。
---
コンビニの自動ドアが開く。
---
閉まる。
---
その音だけが聞こえた。
---
---
りょうやはかなうを見る。
---
かなうも笑っていた。
---
でも。
---
その言葉は。
---
少しだけ。
---
冗談に聞こえなかった。




