最終話 「拝啓、かなうへ。」
# 最終話 「拝啓、かなうへ。」
それから。
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特別なことは何もなかった。
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かなうと同居したわけでもない。
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毎週会うようになったわけでもない。
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人生は、
小説みたいには進まなかった。
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春が終わる。
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夏が来る。
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秋が過ぎる。
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冬になる。
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その繰り返し。
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かなうから連絡が来ることもあれば。
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数か月来ないこともあった。
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りょうやから送ることもあれば。
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送らないまま時間が過ぎることもあった。
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でも。
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不思議と不安はなかった。
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ある日。
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仕事帰り。
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りょうやは古い箱を整理していた。
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引っ越しの時から、
開けていなかった段ボール。
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その中から一枚の写真が出てくる。
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大学時代。
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コンビニの前。
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缶コーヒーを持って笑うかなう。
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隣には自分。
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佐伯が撮ったのだろう。
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少しピンボケしている。
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でも。
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その時の空気だけは、
ちゃんと残っていた。
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りょうやは写真を見ながら笑う。
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そしてスマホを手に取った。
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かなうとのトーク画面。
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最後のやり取りは三週間前。
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『生きてる?』
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『普通』
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『ならよかった』
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相変わらずだった。
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りょうやは写真を撮る。
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送信。
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数分後。
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既読。
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『懐かし』
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それだけ。
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りょうやは少し笑う。
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『な』
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送信。
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かなうから返ってくる。
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『あの日の約束覚えてる?』
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りょうやは写真を見る。
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大学生だった二人。
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何者でもなかった頃。
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未来だけがあった頃。
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そして返信する。
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『覚えてる』
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既読。
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しばらくして。
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かなうから届いた最後のメッセージ。
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『ならよかった』
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りょうやは吹き出した。
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十五年経っても。
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結局それか。
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窓の外では、
夕日が少しずつ沈んでいた。
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人生は続いていく。
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約束の答えなんて、
きっと一つじゃない。
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でも。
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二十歳の春に出会ったあの日から。
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三十五歳を過ぎた今まで。
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確かに残り続けたものがあった。
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りょうやはスマホを置く。
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そして小さく笑った。
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**拝啓、かなうへ。**
**あの日の約束を、今でもちゃんと覚えています。**
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**完**




