第四話 「終電、なくなるぞ」
# 第四話 「終電、なくなるぞ」
「やば。」
かなうがスマホを見ながら声を漏らした。
「終電、なくなるぞ。」
ファミレスの窓の外は、
もう真っ暗だった。
テーブルの上には、
食べ終わったポテトと、
氷だけ残ったドリンクバーのグラス。
りょうやは、
参考書を閉じながら時計を見る。
「ほんとだ。」
「どうする?」
「どうするって。」
かなうはストローをくるくる回しながら笑う。
「りょうやん家、今日親いる?」
「いる。」
「じゃあ俺ん家?」
「お前、明日一限だろ。」
「りょうやもじゃん。」
「俺は行く。」
「俺も行く気持ちはある。」
「気持ちだけな。」
かなうが笑う。
店内には、
深夜特有の静かな空気が流れていた。
少し離れた席では、
サラリーマンが小さな声で話している。
厨房からは、
食器の当たる音。
大学に入ってから、
こういう夜が増えた。
授業終わりに集まって、
飯を食って、
だらだら話して、
気づけば日付が変わっている。
中身のある話をしているわけじゃない。
バイト先の愚痴とか、
単位の話とか、
最近見た動画とか。
でも、
かなうといる時間は、
不思議と居心地が良かった。
かなうが、
窓の外を見ながら言う。
「社会人ってさ。」
「ん?」
「終電逃したらどうするんだろ。」
「知らん。」
「タクシー?」
「金飛ぶ。」
「地獄じゃん。」
かなうは大げさにため息をついた。
「働きたくねぇ……。」
「またそれ。」
「だって毎日満員電車とか無理だろ。」
りょうやは少し笑う。
「かなう、多分遅刻して怒られてる。」
「想像がリアル。」
かなうは、
テーブルへ突っ伏した。
「なんかさ。」
「ん?」
「今って、一番楽なんかな。」
りょうやは、
その言葉に少しだけ黙る。
ファミレスの窓に、
自分たちの姿がぼんやり映っていた。
まだ学生で、
責任も曖昧で、
将来なんてちゃんと見えていない。
でも、
その時間が終わりに近づいていることだけは、
なんとなくわかっていた。
かなうが顔を上げる。
「……三十五歳の俺ら、何してるんだろ。」
「知らん。」
「りょうやは普通に働いてそう。」
「かなうは?」
かなうは少し考えて、
「スーパーで半額シール待ってる。」
と言った。
りょうやが吹き出す。
「容易に想像できる。」
かなうも笑う。
そのあと、
少しだけ沈黙が落ちた。
かなうは氷の溶けたグラスを揺らしながら、
ぼそっと言う。
「三十五まで独身だったら、一緒に住む?」
りょうやは笑いながら、
「急だな。」
と返した。
「いや、家賃浮くし。」
「理由がずっと現実的なんだよ。」
かなうは、
「大事だろ、生活。」
と言って笑った。
その時の二人はまだ、
その言葉を、
冗談の続きをみたいに思っていた。




