第三十四話 「変わらないもの」
# 第三十四話 「変わらないもの」
三十歳の春。
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桜が咲いていた。
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仕事帰り。
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りょうやは駅前の公園を歩く。
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風が吹くたびに、
花びらが舞った。
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昔なら。
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「写真撮れよ。」
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かなうが言っていた気がする。
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スマホを取り出す。
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なんとなく一枚撮る。
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そして。
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気づいたら、
かなうへ送っていた。
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『咲いてる』
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それだけ。
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数分後。
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『春だな』
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返事が来る。
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相変わらず短い。
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でも。
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それで十分だった。
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三十歳になってから。
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会う頻度はさらに減った。
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仕事。
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転勤。
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出張。
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友人の結婚式。
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親のこと。
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若い頃にはなかった予定が増えていた。
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それでも。
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完全に途切れることはなかった。
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六月。
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休日。
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かなうと久しぶりに会った。
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駅前の喫茶店。
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学生時代なら入らなかったような店。
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静かな音楽。
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落ち着いた照明。
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かなうがメニューを見ながら言う。
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「大人になったな。」
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「何が。」
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「ファミレスじゃない。」
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りょうやは少し笑う。
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「たまには。」
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かなうも笑う。
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しばらくして。
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かなうが窓の外を見る。
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「佐伯、二人目だって。」
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「早いな。」
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「な。」
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友人たちは、
それぞれの人生を進んでいた。
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結婚。
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転職。
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子ども。
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家。
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昔話だけでは済まなくなっている。
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かなうがコーヒーを飲む。
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そして。
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ぽつりと言った。
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「俺ら変わったかな。」
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りょうやは少し考える。
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かなうは昔より落ち着いた。
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仕事の話もする。
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責任も増えた。
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考えることも増えた。
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でも。
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「変わったと思う。」
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「うん。」
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「でも。」
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かなうが顔を上げる。
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「でも?」
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りょうやは少し笑った。
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「お前、今でも待ち合わせ遅れるし。」
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かなうが吹き出した。
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「そこかよ。」
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「そこ。」
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二人はしばらく笑った。
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笑い終わったあと。
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かなうが小さく言う。
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「よかった。」
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「何が。」
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「変わってないのもあるんだな。」
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窓の外では。
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夏の気配が、
少しずつ近づいていた。




