第三十三話 「三十歳の入口」
# 第三十三話 「三十歳の入口」
それから、五年が過ぎた。
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二十六歳。
二十七歳。
二十八歳。
二十九歳。
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気づけば、
三十歳が見えてきていた。
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時間は不思議だった。
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大学生の頃は、
一日が長かった。
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今は違う。
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一週間が終わる。
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一か月が終わる。
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一年が終わる。
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その繰り返しだった。
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三十歳の誕生日。
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りょうやは会社帰りに、
一人でコンビニへ寄った。
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ホットコーヒーを買う。
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店を出る。
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冬の夜。
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コンビニの明かり。
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ふと。
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大学の頃を思い出した。
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あのコンビニ。
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かなう。
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肉まん。
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どうでもいい会話。
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もう十年近く前のことだった。
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スマホが震える。
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かなうだった。
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『三十』
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一言だけ。
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りょうやは少し笑う。
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『三十だな』
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既読。
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『信じられん』
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『毎回言ってる』
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『本当に信じられん』
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相変わらずだった。
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その夜。
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久しぶりに電話をした。
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「もしもし。」
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『三十歳おめでとう。』
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「お前もだろ。」
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かなうが笑う。
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『三十歳ってさ。』
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「ん?」
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『もっと大人だと思ってた。』
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りょうやは少し黙る。
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それは、
ずっと思っていたことだった。
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二十歳の頃。
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三十歳は遠かった。
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仕事ができて。
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人生が決まっていて。
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落ち着いていて。
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そんなイメージだった。
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でも実際は。
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迷うこともある。
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悩むこともある。
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将来も、
まだよくわからない。
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かなうが言う。
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『俺らさ。』
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「ん?」
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『まだ途中なんだろうな。』
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その言葉に。
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りょうやは少しだけ笑った。
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たぶんそうだった。
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三十歳になっても。
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人生は完成しない。
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ただ。
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少しずつ進んでいくだけだ。
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電話を切る前。
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かなうが急に言った。
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『そういえば。』
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「ん?」
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『あと五年だな。』
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りょうやは少し考える。
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そして。
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すぐに思い出した。
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『三十五まで独身だったら。』
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『一緒に住む。』
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かなうが笑う。
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『覚えてたか。』
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「お前が毎年言うから。」
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かなうはしばらく笑っていた。
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でも。
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その笑い声の奥に。
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少しだけ。
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昔とは違う何かが混じっている気がした。




