第三十二話 「年末の電話」
# 第三十二話 「年末の電話」
十二月三十一日。
夜。
---
テレビでは年末特番が流れていた。
---
実家のリビング。
---
家族の笑い声。
---
台所から漂う年越しそばの匂い。
---
子どもの頃から変わらない景色だった。
---
りょうやは少しだけ席を外し、
縁側へ出る。
---
冬の空気は冷たい。
---
遠くで除夜の鐘が聞こえる気がした。
---
スマホが震える。
---
かなうだった。
---
『起きてる?』
---
りょうやは少し笑う。
---
『起きてる』
---
既読。
---
数秒後。
---
電話がかかってきた。
---
「もしもし。」
---
『もしもし。』
---
かなうの声。
---
少し酔っている気がした。
---
「飲んだ?」
---
『少し。』
---
「少しじゃないだろ。」
---
かなうが笑う。
---
その笑い声の向こうで、
テレビの音が聞こえる。
---
たぶん実家だ。
---
『なあ。』
---
「ん?」
---
『今年終わるな。』
---
「終わるな。」
---
当たり前の会話。
---
でも。
---
昔から、
こういう会話を何度もしてきた気がした。
---
『二十五歳終わるぞ。』
---
「まだ終わってない。」
---
『気持ちの話。』
---
かなうが笑う。
---
りょうやも少し笑う。
---
しばらく沈黙。
---
不思議と気まずくない。
---
大学の頃から変わらない。
---
何も話さなくても、
そのまま電話が続く。
---
かなうが言う。
---
『来年さ。』
---
「ん?」
---
『旅行行こう。』
---
りょうやは少し驚く。
---
「この前も言ってたな。」
---
『今度は本気。』
---
「どこ。」
---
『決めてない。』
---
りょうやは吹き出した。
---
「計画性。」
---
『ない。』
---
即答だった。
---
---
遠くで花火の音がした。
---
誰かが年越しを祝っているらしい。
---
かなうが小さく言う。
---
『なんかさ。』
---
「ん?」
---
『来年も普通に話してそうだな。』
---
りょうやは少し空を見上げる。
---
冬の夜空。
---
星はあまり見えない。
---
それでも。
---
『たぶんな。』
---
そう返した。
---
かなうが笑う。
---
『その返事、本当に便利だな。』
---
電話の向こうで、
除夜の鐘が鳴り始めた。
---
新しい年が来る。
---
二人はまだ知らない。
---
この先、
少しずつ人生が動き始めることを。




