第二十七話 「帰る場所」
# 第二十七話 「帰る場所」
八月。
お盆休み。
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久しぶりに実家へ帰った。
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玄関を開けると、
懐かしい匂いがした。
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母親の声。
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テレビの音。
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冷蔵庫の開く音。
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大学生の頃は当たり前だったもの。
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今は少しだけ遠く感じる。
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「痩せた?」
母親が言う。
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「変わってない。」
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「ちゃんと食べてる?」
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「食べてる。」
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毎回同じ会話だった。
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夜。
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自分の部屋だった場所で、
りょうやはベッドへ横になる。
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天井を見上げる。
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高校生の頃。
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ここで受験勉強をした。
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大学へ進学して。
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かなうと出会って。
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気づけば社会人になっていた。
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スマホが震える。
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かなうだった。
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『実家』
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一言。
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『俺も』
と返す。
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既読。
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『暇』
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りょうやは少し笑う。
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『親と話せ』
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『話した』
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『えらい』
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『褒めろ』
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大学時代と変わらない。
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りょうやはベッドの上で笑った。
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しばらくして。
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かなうから写真が送られてくる。
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実家の猫だった。
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『太った』
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『幸せそう』
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『羨ましい』
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そんなやり取り。
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数分後。
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かなうが珍しく電話をかけてきた。
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りょうやは少し驚く。
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電話なんて、
いつぶりだろう。
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「もしもし。」
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『もしもし。』
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かなうの声。
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少し懐かしかった。
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電話の向こうから、
テレビの音が聞こえる。
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『実家ってさ。』
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「ん?」
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『帰ると安心するな。』
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りょうやは少し黙る。
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窓の外では、
虫の声が聞こえていた。
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『わかる。』
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かなうが少し笑う。
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『でも不思議だよな。』
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「何が。」
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『昔はここが当たり前だったのに。』
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『今は別の場所で生活してる。』
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りょうやは天井を見る。
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たしかにそうだった。
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大学を卒業して。
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社会人になって。
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いつの間にか、
帰る場所が増えていた。
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電話の向こうで、
かなうが小さく言う。
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『次会うのいつだろうな。』
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その言葉に。
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りょうやは少しだけ、
胸の奥が静かになるのを感じた。
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『そのうちな。』
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かなうは笑う。
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『雑。』
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でも。
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その笑い方は、
少しだけ嬉しそうだった。




