第十九話 「四月」
# 第十九話 「四月」
四月。
新しいスーツは、
まだ少し着慣れなかった。
りょうやは駅のホームに立ちながら、
ネクタイを少しだけ緩める。
朝の電車は混んでいた。
知らない人ばかり。
同じようなスーツ。
同じような表情。
窓に映る自分も、
その中の一人だった。
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入社して二週間。
毎日が慌ただしかった。
覚えること。
書類。
電話。
挨拶。
帰宅すると、
気づけば眠っている。
大学の頃みたいに、
何時間も誰かと話す余裕はなかった。
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昼休み。
スマホが震える。
かなうからだった。
『生きてる?』
りょうやは少し笑う。
『なんとか』
数秒後。
『俺は無理』
『早い』
『社会人向いてなかった』
『二週間だぞ』
既読。
そのあと。
『長いって』
りょうやは思わず吹き出した。
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午後。
会議室の準備をしながら、
ふとスマホを思い出す。
大学の頃なら、
今頃コンビニにいたかもしれない。
かなうがくだらない話をして。
自分は適当に相槌を打つ。
そんな時間。
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夜。
帰宅途中。
駅前のコンビニへ寄る。
缶コーヒーを買う。
特に理由はない。
ただ、
少しだけ懐かしかった。
店の前に立つ。
知らない街。
知らないコンビニ。
知らない人たち。
大学の近くとは、
何もかも違う。
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スマホを見る。
かなうとのトーク画面。
最後のやり取りは昼だった。
『長いって』
そこで止まっている。
りょうやは少し考えて。
結局何も送らなかった。
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帰宅すると、
部屋は静かだった。
テレビもつけず、
スーツのままソファへ座る。
窓の外では、
車が走る音がする。
大学の頃。
一人の時間なんて、
いくらでもあったはずなのに。
今は少しだけ違った。
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スマホが震える。
かなうだった。
『明日も無理そう』
りょうやは少し笑う。
そして、
『頑張れ』
とだけ送った。
すぐに既読がつく。
返信はなかった。
たぶん、
もう寝たんだろう。
りょうやはスマホを伏せた。
部屋の静けさが、
少しだけ広く感じた。




