第十七話 「送別会のあと」
# 第十七話 「送別会のあと」
「じゃあな。」
「東京行っても忘れんなよ。」
「無理無理。」
笑い声が重なる。
三月の終わり。
大学近くの居酒屋で、
佐伯の送別会が開かれていた。
店内は賑やかだった。
誰かが写真を撮り、
誰かが将来の話をしている。
「また集まろうな。」
そんな言葉が、
何度も飛び交っていた。
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店を出た頃には、
夜風が少し冷たかった。
酔った森下たちは駅の方へ歩いていく。
「かなうー。」
佐伯が振り返る。
「ちゃんと就職しろよ。」
「余計なお世話。」
かなうが笑う。
佐伯も笑う。
そのまま手を振り、
人混みの中へ消えていった。
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少し静かになった帰り道。
かなうとりょうやは、
いつものコンビニへ向かう。
夜の街は、
どこか春の匂いがしていた。
コンビニへ入る。
かなうは缶コーヒー。
りょうやはお茶。
何も言わなくても、
いつも通りだった。
店の前の段差に座る。
道路を車が流れていく。
かなうが、
缶を開けながら言う。
「行くんだな。」
「佐伯。」
「うん。」
かなうは少し笑う。
「本当にみんな散るんだな。」
りょうやは答えなかった。
その言葉が、
思った以上に現実だったから。
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少し沈黙。
コンビニの明かり。
自動ドアの開閉音。
遠くの電車の音。
かなうが、
前を向いたまま言う。
「俺さ。」
「ん?」
「卒業しても、
あんま実感ないんだよな。」
「わかる。」
「四月になったら、
また普通に大学来そう。」
りょうやは少し笑う。
「それはない。」
「だよな。」
かなうも笑う。
でも、
笑い終わったあと。
少しだけ黙った。
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「なあ。」
かなうが言う。
「ん?」
「三十五歳になったらさ。」
りょうやは隣を見る。
かなうは道路の向こうを見ていた。
「今日のこと、
覚えてるかな。」
風が吹く。
コンビニの旗が揺れる。
りょうやは少し考えた。
そして、
「たぶん。」
と答えた。
かなうは笑う。
「その返事好きだな。」
「便利だから。」
「雑。」
二人は少し笑った。
その夜のことを。
その時の二人はまだ、
本当に覚えていることになるなんて、
思ってもいなかった。




