第十六話 「春が来る前に」
# 第十六話 「春が来る前に」
二月の終わり。
風はまだ冷たいのに、
どこか春の匂いが混じり始めていた。
大学の掲示板の前には、
スーツ姿の学生が増えている。
かなうは、
それを見ながら言った。
「なんか嫌だな。」
「何が。」
「みんな大人になってく感じ。」
りょうやは少し笑う。
「前から言ってるな。」
「だって本当にそうじゃん。」
かなうはポケットに手を入れながら歩く。
最近、
周りの景色が変わるのが早い。
内定が出た人。
引っ越しが決まった人。
県外へ行く人。
大学に残る人。
みんな少しずつ、
別々の方向を向き始めていた。
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その日の夕方。
かなうの部屋。
テーブルの上には、
コンビニで買った弁当。
テレビでは天気予報が流れている。
かなうは床に寝転びながら、
天井を見ていた。
「佐伯、来月引っ越しだって。」
「らしいな。」
「早い。」
りょうやは弁当の蓋を開けながら、
小さく頷いた。
かなうは少し黙る。
エアコンの音だけが部屋に残る。
「なあ。」
「ん?」
「卒業したらさ。」
かなうは天井を見たまま続ける。
「こうやって急に来たりできなくなるんかな。」
りょうやは少し考える。
かなうの部屋は、
初めて来た時より少し片付いていた。
それでも、
相変わらず生活感だらけだった。
「どうだろ。」
かなうが笑う。
「曖昧。」
「わからんし。」
「まあな。」
窓の外では、
風が少し強く吹いていた。
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帰り際。
玄関で靴を履く。
かなうがドアにもたれながら言った。
「また来いよ。」
「来るよ。」
「ほんとか。」
「たぶん。」
かなうは笑った。
「その“たぶん”信用できない。」
りょうやも少し笑う。
廊下は冷えていた。
階段を降りながら、
ふと振り返る。
かなうはまだ玄関に立っていた。
「おやすみ。」
「おう。」
ドアが閉まる。
それだけ。
いつもと同じ。
でもなぜか、
少しだけ寂しかった。
春が近づいていた。




