第十五話 「内定」
# 第十五話 「内定」
「佐伯、内定出たらしい。」
昼休み。
学食のざわめきの中で、
森下がスマホを見ながら言った。
「まじで?」
かなうが顔を上げる。
「はや。」
「昨日連絡きたって。」
テーブルの上には、
食べかけの定食。
周りの席でも、
就活の話が聞こえていた。
最近はそんな話ばかりだ。
どこの会社。
何社受けた。
面接がどうだった。
落ちた。
受かった。
少し前まで遠かった言葉が、
急に身近になっている。
かなうは、
味噌汁を飲みながら呟いた。
「すげぇな。」
それだけだった。
でも、
りょうやには少しわかった。
かなうは焦っている。
たぶん、
自分でも気づかないくらい。
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講義終わり。
かなうは珍しく静かだった。
スマホを見たり、
窓の外を見たり。
「どうした。」
りょうやが聞く。
「別に。」
かなうは笑う。
でもその笑顔は、
少しだけぎこちなかった。
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帰り道。
二人はいつものコンビニへ寄る。
かなうは缶コーヒー。
りょうやはお茶。
店の前の段差へ座る。
夜は少し冷えていた。
かなうが、
缶を両手で持ちながら言う。
「置いていかれる感じ。」
りょうやは隣を見る。
「またその話。」
「いや。」
かなうは少し笑う。
「別に佐伯と競争してるわけじゃないんだけどさ。」
遠くで車が通る。
コンビニの自動ドアが開いて閉まる。
いつもの音。
「みんな、
ちゃんと前進んでる気がして。」
かなうは、
缶を見つめたまま続ける。
「俺だけ同じ場所いる感じ。」
りょうやは少し考える。
何か言おうとして、
やめた。
たぶん、
正解なんてない。
かなうも、
答えを求めているわけじゃない。
ただ、
口に出したかっただけなんだと思う。
しばらくして。
かなうが小さく笑う。
「暗い話してるな。」
「お前が始めた。」
「ごめんごめん。」
かなうはそう言って、
空を見上げる。
雲で星は見えなかった。
「でもさ。」
「ん?」
「三十五歳の俺らが、
今の俺ら見たら笑うかな。」
りょうやは少し考える。
「どうだろ。」
かなうが笑う。
「笑っててほしいな。」
その言葉だけが、
なぜか少し心に残った。




