第十一話 「置いていかれる感じ」
# 第十一話 「置いていかれる感じ」
「かなう、エントリーシート出した?」
ゼミ終わり。
森下がノートを片付けながら聞いた。
かなうは机へ突っ伏したまま、
「まだ。」
とだけ答える。
「やばくない?」
「わかってる。」
「りょうやは?」
突然名前を振られて、
りょうやは少し顔を上げた。
「一応。」
「え、ちゃんとしてる。」
森下が感心したみたいに言う。
かなうが顔だけこちらへ向けた。
「裏切り者。」
「なんでだよ。」
教室の窓の外では、
夕方の空が少し赤くなっていた。
最近、
周囲の空気が変わってきている。
インターン。
面接。
ES。
内定。
去年まで、
遠かった言葉たち。
「佐伯、東京行くらしいよ。」
森下がスマホを見ながら言った。
「まじ?」
「内定決まったって。」
かなうは、
「へぇ。」
とだけ返した。
でもそのあと、
少し黙った。
帰り道。
かなうと二人で歩く。
駅前にはスーツ姿の社会人が増えていた。
居酒屋の看板。
信号待ちの人混み。
コンビニ袋を下げた会社員。
かなうがぽつりと言う。
「なんかさ。」
「ん?」
「置いていかれる感じしない?」
りょうやは少し考える。
「誰に。」
「知らんけど。」
かなうは笑う。
でも、
その笑い方は少し弱かった。
コンビニへ入る。
かなうはアイス売り場の前で立ち止まり、
しばらく悩んでいた。
「どっちがいいと思う?」
「知らん。」
「こういう時、適当なの嫌。」
「めんどくさ。」
かなうが吹き出す。
結局、
いつものアイスをカゴへ入れた。
レジを済ませ、
店の前へ座る。
かなうは袋を開けながら、
ぼんやり道路を見ていた。
「りょうやってさ。」
「ん?」
「ちゃんと大人になりそう。」
りょうやは少し笑う。
「またそれ。」
「なんか、
ちゃんと生きてそう。」
「かなうは?」
かなうは少し考えて、
「俺は途中で逃げそう。」
と言った。
その言葉に、
りょうやは何も返せなかった。
夜風が、
少しだけ冷たかった。




