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第9話 インタビューヴィズパラディン②


 剣とは何か?


 あの頃の私はただの武器としてしか認識していなかったし、マリアもそうだろう。

 今なら答えることができる。

 剣とは命を奪うための道具だ。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 その事が痛感する出来事が起きた。

 マリアの初任務だ。


 先ほど私が花の茎を切る姿が見事だと言ったな。

 私だって初めてこれをやる時はぎこちなかったし、手早くなんて出来なかった。

 ここまでこなせるようになったのは慣れだ。

 花の茎をハサミで切る。

 その動作に迷いを無くすことだ。


 私も初めて生き物の命を剣で断つことには躊躇した時もあった。

 だが回数をこなせば嫌でも慣れる。

 訓練で覚えた剣技で遠慮なく相手を切り裁いた。

 何しろこちらの命がかかってるからな。

 マリアも初任務の時は震えていた。

 初の仕事への緊張と血生臭い現場へ臨場することへの不安、まだ見ぬ敵兵への恐怖、何より初めて剣で人を殺めることへの戦慄に駆られていた。

 あろうことか私は涙混じりに震えるマリアに叱咤激励してしまった。

「訓練通りやれば大丈夫だ。怖気づいて私を失望させるなよ」

 とな。

 彼女は普段見せてくれる無邪気で明るい笑顔で頷いた。

 今はとても後悔している。

 現場で敵兵と相対した時、確かにマリアの動きはいつもより鈍かった。

 だがそれだけであった。

 得意の両手剣での野獣が獲物を狩るような素早い身のこなし、一瞬の斬撃で抵抗虚しく敵兵は崩れ落ち、物言わぬ骸となったよ。

 ただマリアは感じてしまったのだろうな。

 剣で人の肉を切り、骨を断ち、臓腑を切り裂く感覚を。

 突然の夕立ちが私達二人を濡らした。

 返り血と雨粒で濡れたマリアがそこにはいた。

 金色の髪が真っ赤に染まっていた。

 そして私の方に振り返り、いつものような無邪気な笑顔で私に語りかけた。

「テレサ先輩の言われた通りにやったから、ちゃんとできましたよ……」

 血で染まり、雨に濡れたマリアのルビーの目には涙が溢れていたかもしれない。

 マリアは哀しい笑顔を作っていた。 

 とても扇情的であった。

 私は不覚にもその姿に恍惚としてしまった。

 それは通り雨の気のせいだったかもしれない。

 けれどその姿に私は途轍もない背徳感と劣情を覚えてしまった。

 そう、コウノトリを信じる少女に両親の夫婦の営みを見せつけるかのような気持ち。

 新雪に染まる大地を土足で踏みにじるような感覚。

 穢れを知らないマリアを汚してしまったのは私だ。

 そして私の心の中の情動が湧き起こった瞬間でもあった。

 それだけあの時のマリアは美しかったのだ。

 同時に深い自己嫌悪にも陥った。

 あの無垢なマリアが血で穢れる姿に魅了されてしまったのだ。

 今でも深い後悔をしている。


 ただマリアの心は純粋そのものであった。

 私はまだ知らなかった、マリアのその純粋な気持ちがどこへ向かっていくかを。

 マリアは私の期待に応えようと思ったのか、ただ私に認められようという気持ちだったのか、彼女の善悪の定義は私に対する心で一杯であった。

 ひとを殺めた心の傷を私という存在で塞ごうと必死だったのかもしれない。

 それだけマリアの心は繊細だった。

 そして純粋だったんだ。

 マリアの心が次第に壊れていくことを、最初は私も気づいてやれなかった。

 いや、目を逸らしていたのだろう。

 変わっていくマリアを、歪んでいく私の心を認めたくなかったのだ。

 任務で戦地に赴くたびにマリアは縦横無尽に二刀の剣を振るった。

 より動きは洗練されていった。

 すでに迷う心を断ち切っていた。

 嬉々として剣を振り、敵兵の命を断つ。

 いつからか笑みを浮かべながら、その命を奪い去っていた。

 そして血に染まった顔で私に微笑みかける。

「テレサ先輩、今日は新記録です! 褒めてください!」

 血塗れの天使がそこにはいた。

 私は衝動的に、目一杯、そんなマリアを抱きしめた。

 彼女を血で穢したのは私のせいだ。

 こんな清純なマリアを戦場に居させるべきではない。

 だが、不純な気持ちがあった。

 私が無垢なマリアを汚したのだ。

 私の色に染まったマリアに私は情欲を覚えた。

 その背徳感は甘美で、そして私の罪悪感を蝕んでいった。

 このままでは二人とも堕ちる。

 とても危うい状況だったよ。

 心の中で救いの声を叫んだ。

 そしてマリアを救うことを決意した。

 これ以上私のマリアを穢すことは許さない。

 私には知恵の身を食べるように囁いた邪な蛇の声が聞こえた。


 すでにマリアは私に何の疑いも持って無かった。

 だから私はその心につけ込んだ。

 いつものように沐浴で戦場で汚れた身体を洗いあっていた。

 金色のマリアの髪を丁寧に櫛で丹念に梳かしていた。

 マリアは水浴びが好きな娘だった。

 無防備な肢体を私に晒す。

 私は心の情動に身を委ね、マリアにこう囁いた。

「マリアは女の洗礼がまだだったな、私が手ほどきしよう。私に身体を預けてくれないか……」


 悪魔の囁きだった。

 だが無垢なマリアは何の疑いもなく、その身を委ねた。

 そして小さく柔らかな手で私の手を重ねた。


「テレサ先輩の肌、綺麗です……」


 マリアを他の男に穢すくらいなら私が徹底的に穢してやる。

 私は両手で彼女の小さな顎を支えて、自由を奪う。

 その行為に驚いたマリアはルビーの瞳の目を開かせた。 

 私はその赤い宝石の瞳の奥に吸い込まれるように顔を近づけた。

 そして二つの唇を重ね合わせた。

 まだマリアの湿った甘い香りのする口づけの味を覚えている。

 突然の行為に驚いたマリアも覚悟を決めて目を閉じていた。

 私はマリアの中を情欲のままに染め上げた。

 

 そして女性の全てを暴き上げた。


  蕾がほころんだばかりの初咲きの花を、私の手で満開に咲き乱れたさせた。

 そして身も心も私のものとなった。

 いや、身も心も奪われたのは私の方かもしれない。

 余韻に浸るマリアを見て、私は決意する。

 この娘をこれ以上、戦場の血で穢してなるものか、と。

 

 それはあくる日の多愛ない乱取り稽古の時だ。

 私の相手はマリア、彼女はいつも通り下半身の力を使って、猛獣のように素早い動きをしていた。

 いつも通り、その斬撃の連撃を盾で防ぐ。

 その時、私は酷く冷静、いや冷徹な目をしていた。

 狙いは決まっていたからだ。

 迷いはとうに断ち切れていた。

 私は自慢の大盾を振るう。

 マリアは両手の剣でそれを防ぐ。

 その瞬間を待っていた。

 踏ん張る両足の踵にある腱を片手剣で素早く切断した。

 脚に重傷を負い、痛みに苦しみ、倒れ込むマリア。

 それを見て私はかたの苦が降りたと同時に新たな罪悪感を背負うことになった。

 担架で運ばれる彼女を見て、これでもう戦場に立って剣を振るうことはなくなるという安堵、それと共に彼女の未来を奪ってしまった罪の感情が込み上げてきた。


 病室で必死にリハビリをするマリアを見て、感情を押し殺す。

 それでも彼女は無邪気な笑顔で伝えるんだ。

「テレサ先輩、事故なんだからそんな顔しないで下さい! こんな怪我、すぐ治しますよ!」


 その脚ではもういつものように剣を振るうことはできない、そう狙って切ったのだから。

 これでお前は安全な後方待機になるはずなのだからと。

 もう血で汚れるようなことはなくなるんだ。


 だから、お願いだ。

 そんな無垢な眩しい笑顔を見せないでくれ。


 私は力強くマリアを必死に抱きしめた。

 そして二人の関係は続く。

 次第に大胆になっていた。

 病室、浴室、寝室、神聖な稽古場、二人きりのところなら構わずだ。

 果てにはマリアから私を求めてくるようになった。

 もはや自制する心を弱い私は持っていなかった。

 

 私たち二人は堕ちるところまで墜ちていった。

 暗い海の底に何があるのか、その時の私たちは知らなかった。


性的な描写は可能な限りカットしました。


完全版はノベルデイズに掲載してます。

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