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第8話 インタビューヴィズパラディン①

 

 今年も向日葵の花が咲く季節が訪れたか。


 寒い春だったというのに、気づけば汗ばんむ季節だ。

 花とは不思議なものだな。

 心を朗らかにさせるように元気に、まるで太陽を小さくしたような山吹色でその花弁で私を魅了する。


 向日葵の花言葉を知っているか?

 情熱。

 憧れ。

 そしてあなただけを見つめるだ。


 父親に贈る花として最もポピュラーな花なんだが、私はどんなに綺麗に咲く薔薇や胡蝶蘭より、向日葵が愛おしく感じる。

 あの明るい金色の花びらが美しいんだ。


 あの日、あの夏。

 いつか見た、向日葵畑の光景を今も胸の奥に刻まれている。

 私は向日葵が好きなんだ。


 いつ好きになったかもしっかりと覚えている。

 ――あの満開の向日葵の花のように笑う、あの子のせいだ。



 はじめまして、私はテレサ=ゲイルロードだ。

 この店で花屋をやっている。

 今日は小説の取材で来たと聞いた。

 それは別にいいが、今朝市場で花を仕入れたばかりなんだ。

 花屋の一日は忙しい。

 仕事をしながらでも構わないか?

 今から仕入れた花の水揚げをする。

 そのまま売ると思ったのかだって?

 この花達は仮死状態なんだ。

 水を吸わせなければ枯れてしまう。

 

 茎を一息で断ち、桶の水に差し入れる。


 こうして桶の水を吸わせれば、再び息を吹き返す。

 仕入れた花束の量が多いから少し時間をかけてしまうな。

 作業しながらでもいいか?

 それにしても花屋の取材なんて変わった小説家だな。

 ん?

 茎を切る作業が手早く見事だって?

 まだまだだよ。

 狙った箇所に寸分違わず正確に切断する。


 ……まぁハサミはまだまだ慣れないがな。


 以前は全く違った仕事をしていたからな。

 ん?

 手の平のタコでわかるって?

 いや、君は花屋の取材に来た訳じゃないだろう。

 私の過去について聞いてきたんだろう?

 だいたい察することはできる。

 この街には他にも大きな花屋があるんだ。

 わざわざうちの店を選ぶのには理由があるはずだ。

 騎士団の追っ手か?

 生憎、出入り口は相方に塞いでもらった。

 ……お前は何者だ?

 小説の取材は本当だと?

 アッテムトの女英雄の噂を聞いてやって来ただって?

 そこまで命ごいをするなら、本当なんだろうな……。

 ……いいだろう、信じよう。

 さてと水揚げの作業をやりながら、私の過去について話そうじゃないか。

 物騒だからその片手剣はしまってくれだって?

 肝の小さい男だ。

 今は作業で忙しい。

 手を動かしながら話すぞ。

 私の過去を。

 私がアッテムトで語り継がれるようになった物語の経緯を。

 そして――

 私が犯してしまった取り返しもつかない過ちを。

 君はそれを物語にしろ。

 小説家なんだろう?



 

 あれは甘い香りのしたスイートピーが咲く季節だ。

 淡い紅色の花弁が心に残っている。

 あの頃はそれが美しいとも、花の名前すら興味がなかった。

 花言葉は後になって知ったよ。

 優しい思い出だ。

 だがあの時は懸命に、ただ剣を振るっていた。

 祖国を、祖国の民と大地を守る。

 それが心情だった。

 私は当時18歳。

 ビガロス神聖国の聖騎士団の団員になって1年が過ぎた頃だ。

 騎士団よりも、魔法騎士団よりも上の聖騎士の称号を若くして得ていた。

 魔法は使えなかった、というより、魔法の習得に時間を費やすぐらいなら、才能のある剣を振っていた方が効率的だと思っていた。

 興味もなかったしな。

 周囲には聡い娘なのに勿体ない、とか言われたよ。

 私は剣術の基礎の型を徹底的に昇華させ、細身の片手剣を振るい、片方の腕は身の丈に合わない大盾を持って戦うスタイルだった。

 大きな盾で相手の視界を奪い、繊細な片手剣で鎧の関節の隙間を鋭く突いたり、怯んで相手の小手をよく狙った。

 剣術の技量なら騎士団長よりも上だった自負はある。

 周囲から将来も嘱望されていた。

 ただ兵を率いる経験が無かった。

 単身任務も多かったしな。

 当時の小隊長が考え抜いた挙句、新隊員の教育係にすることだった。

 聖騎士団に入ることは困難だ。

 私が異例の若さで抜擢されたのだ。

 果たして歳上の男性相手の教育なぞ務まるかとずいぶん思案したものだったよ。

 だがその懸念は消えた。


 現れたのはまるで陽だまりのような少女だった。

 新雪のように無垢で太陽のような明るい笑顔の彼女を私はまだ覚えている。

 地味な私の茶髪とは違い、童話の絵本に出てくるヒロインのような煌びやかな金色の髪、それを短く切った姿に同性でも思わず息を呑んでしまったよ。

 それが若干15歳というから驚いたものだ。

 厳しい規律と戒律に縛られていた私には彼女の天真爛漫な性格が真逆で羨ましかった。

 先輩騎士としては手を焼く後輩だったな。

 まるで清流のように純粋な心に一抹の不安を覚えさせた。


 それがマリアだった。

 私とは正反対の存在。

 ……だからこそ目が離せなかった。


 彼女も剣術一筋で聖騎士に選ばれた。

 マリアは私のように剣の流派の型には当てはまらない、野生的な太刀筋だった。

 まず基本からしておかしい、というより異質だ。

 二刀流だったのだ。

 そんな剣術の流派はこの国で聞いたこともない。

 だが、彼女は俊敏な身体能力に任せて、型破りな二刀の太刀を縦横無尽に振るう。

 防御には鉄壁の自信がある私でさえ、その荒削りな剣捌きでいつも苦戦を強いられてしまった。

 その剣の構えの形象はまるで虎のような猛獣であった。

 私との乱取り稽古ではそれを存分に振るう。

 しかしまるで基礎訓練を覚えようとしない。

 それどころか朝の点呼すらいい加減に振る舞う。

 困った後輩だったな。


「テレサ先輩、団長は今奥さんと別居中です」

「だからどうした?」

「つけこむなら今です! テレサ先輩の美貌なら一晩で二階級昇進もゲットできます! チャンスですよ!」

「私を悪い女にするな!」

「美貌は女の武器ですよ!」

「マリア、変なこと考えないように、お前が手に持っている武器で素振り五千回だ! 終わったら日が暮れるまで甲冑装備して走り込みだ!」

「うわぁーん、テレサ先輩のためを思って言ったのに!」

「不貞を唆すなど、性根が曲がってる証拠だ! ビシバシ鍛えてやる!」

「ひーん!」


 マリアは真っ直ぐな目で邪な考えを提案するような娘だった。

 今までの堅苦しい価値観が揺らいだな。

 

 そう、あれはマリアが山岳訓練を終えた日のことだった。

 険しい山脈を登り登頂を達成させ、帰還報告した時だ。

「マリア、この訓練で何か得たものはあるか? お前は何を掴んだ?」

「プテラノドンの雛鳥であります! 元気に鳴いていました!」

「……それは害獣だ。駆除するんだ……」

「テレサ先輩、生きとし生けるものは皆平等と聖典に書かれております! それに私はプテラノドンを育てて竜騎士になりたいです!」

「お前は聖騎士の一員だろうが……。 !? まさか、このピーチクうるさい鳥の鳴き声は!?」

「テレサ先輩へのお土産に持って帰りました! 可愛いですよ?」

「……マリア、一緒に巣に戻しに行こう……。私は何も見なかった……」

「あ、今度はテレサ先輩と一緒に山岳訓練ですか! やったー!!」

「ずいぶん嬉しそうだな。ストレスで私は胃が痛いよ……」


 とにかく自由奔放な娘だったよ。

 そして手のかかる後輩だった。

 だが――

 笑うんだ。

 あの無垢な顔で。

 その純粋な笑顔に、私は少しずつ――

 抗えなくなっていた。


 マリアの剣術の腕は格別だった。

 特に閃光のような素早さ、そこから型にとらわれない予想外な野生的動き、下半身、脚捌きが抜群だった。

 私も負けじと、剣の腕を上げたよ。

 特に盾の扱いには精進した。

 いつしか、鉄壁のテレサ。

 神速のマリアという二つ名がついたよ。

 小娘二人が聖騎士団でも注目された。

 私は純真無垢な眩いマリアの明るい笑顔に心を奪われてしまっていた。

 もうマリアを後輩隊員としてではなくて、特別な存在として見ていた。

 いつしかマリアを失うことに心の底のどこかで怯えるようになっていた。

 だから彼女から目が離せなかった。

 マリアのルビーのように赤く煌めく瞳に一抹の不安を抱いた。

 だから私は彼女に口酸っぱく忠告した。

「私の部下に殉職は許さん。二階級特進なぞ認めんからな」

 と。

 そんな言葉を投げかけても、マリアは無邪気に微笑むだけだった。


 その時、私は知らなかった。

 その得体の知れない不安がどんな形で現れるのかを。



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