チンピラは怖い!の巻
「やんのか、あぁ?」
学園長の手下に詰められ万事休す!……かと思いきや、怖がる私をオリバーが手で制して庇ってくれて、一歩二歩下がったその時――。
「ん?お前たちの後ろ……真っ赤だな」
「もしかするとあれって、血なんじゃ?」
「「「「…………え。」」」」
一瞬にしてイキリ散らかしていたチンピラ達が動きを止めた。揃いも揃ってピタッと。微動だにしない彼らの額から、汗が一筋流れているのが見えた。
「ねぇ、あの人たち汗かいてる。暑いのかな?半袖着てるくせに。」
「多分そういう問題じゃないと思うよ」
四人で勢いよく円陣を組んで作戦会議。あんなに顔を近づけてコソコソ話し込むなんてずいぶん仲良しなのね。
「おいおいおい!俺たちあんなヤバい奴らをビビらせられんのか?」
「ありゃ相当の手慣れ。返り血を浴びないなんて、弟子入りしたいレベルだぜ」
「まだ死にたくないっ!俺24歳になったばかりなのに」
私とオリバーを覗き見ては目が合って『ヤベッ』みたいな顔で円陣に戻る。けど、ここからだと声が小さくてなんて言ってるのかは聞こえない。
「ねぇ、オリバー。あの人達いきなり円陣なんて組んで、何があったのかな?」
「さっきの女子生徒の鼻血がボコボコに殴って吐血させた跡に見えてるみたいだねー」
え?この鼻血を殴った血だと勘違いしてびびってるん?
てっきり私達をいたぶる計画を立ててるんだとばかり。なんだぁ〜
そ・れ・な・ら!
「……ッフッフッフ〜。そうよ!私が生徒をいたぶったの。遊び甲斐がなかったわ〜」
「っな……まさかの嬢ちゃんが???!!!」
よく分からんけど『強者だと思われてるなら演じようじゃないか!』ということで、強く見えるように腕組み仁王立ち。怖がられるのも……案外悪くない!
「ほらオリバーもやってよ!」
隣にいるオリバーに耳打ちしたら、心底嫌そうな顔で「えぇ………」って拒否された。オリバーがやらないなら一人で演じるから良いもんね!
「アンタ達が学園長の手下なのはお見通しよ!怖かったら、私たちに学園長の居場所を教えなさい」
学園長の居場所を聞くという素晴らしい考えを思いついて『私天才〜』なんて自惚れていたらチンピラに両腕をガッチリ掴まれた。
な・に・ご・と??
「俺たちを弟子に!」
「是非とも姉貴と呼ばせてください」
「「「「お願いします、姉貴!!」」」」
勢いよく土下座……したかと思えば、サングラスを頭の上に上げて現れた瞳は私を慕う様にキラキラうるうる。そんな目で見つめられてもアンタ達可愛くないのよ。
「そんなのいいから学園長の居場所を…」
「姉貴!“そんなこと”なんて言わずに!相当の技を持ってるんですよね?勿体ぶらず僕たちに教えてくだせー」
「「「「お願いします!」」」」
右から順番にチンピラ達が頭を下げる様子を見て『えぇ……話通じない。ダメだこりゃ☆』ってなりオリバーの手腕を強引に掴み逃亡した。ちなみにオリバーは『言わんこっちゃない』って顔してた。
◇ ◇ ◇
「こうか?う〜ん。アゴに手を当てるポーズも捨てがたいなぁ……」
軍部隊の兵士(チンピラ役)がいつになっても現れないことに痺れを切らした僕は、しばらく生垣の後ろで決めポーズを考えていた。
手鏡に映る自分の姿はやっぱりかっこいい☆
そろそろ私の出番だろうと満を持してエラ達の前へ登場!
「ットウ!僕がきたからにはもう大丈………ん?愛しのエラはどこにいる?!」
長い渡り廊下をキョロキョロ見渡しても居るのはゴツい軍部隊の兵士だけ。それにやけに落ち込んだ顔をしている。
「何があったんだ?!じぃや説明しろ。」
「ベルタ様が決めポーズを考えている間にご婦人方が逃亡してしまい……つまりは逃しました。」
なっ!なんだと。折角の僕の見せ場が…….!!
「逃げられたことを知っていながら何故もっと早く教えてくれなかったんだ!」
「何回も教えようとしたのに“邪魔するな。ポーズを考え中なんだ”と仰っていたではありませんか」
「むむむ……やむおえん!お前達、手分けして校内中探し回れ……力ずくでプランBに移行だ!上手いことあの二人を大講堂に誘導するんだぞ!」
「「「「っは!」」」」
僕の声で兵士達が二手に分かれて探し始めた。広い背中が遠のいて小さくなっていくのを見送った。
プランB……体を張るからあんまりやりたくなかったんだが。オリバー、お前に勝つためにはやむ得ない!
「さぁ!じぃや、我々もプランBの配置につくぞ!」
「……あれ本当にやる気なんですね。かしこまりました。」
◇ ◇ ◇
なんとか柱の裏に隠れる事が出来た。それでも近くにチンピラが探し回っている事に変わりなく心臓はバクバク。
今の私は、勢い余ってオリバーを覆う様にほぼ壁ドン状態!
柱から体をはみ出さない様にオリバーの胸元のシャツを無意識に掴んでいた。『筋肉やばい〜』とかそんなことを今考えている暇ないのです☆
「逃しちまった」
「そんな遠くに行ってないはずなのにな〜」
「………あの人達どこかへ行ったみたいね」
チンピラ二人が通り去ったことを確認し、オリバーとこの激近い距離を適度な距離にするため数歩ほど後ろへ下がった。
「ふぅ〜なんとか逃げ切れたわね、オリバ……って!わぁっ!」
が、木の枝に足を取られて転びそうになってしまった。それでも、何とかバランスを取り戻したので転ばずに済んだ。良かった〜
「おい!今の驚いた声って姉貴じゃね?!」
「あそこの茂みの後ろから聞こえたよな?」
二人の声が近づいてくる。やばい!全然良くない展開になってしまった!
見つかったら技を教えろとか言われてそんなの出来るわけない私は嘘ついたってバレて……最悪あのチンピラ達にギッタンギッタンのボッコボコに……
そんなの嫌!怖い!
「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ」
耳元で囁くオリバーの声色はとても優しかった。涙目になった私は俯いていた顔を上げると、余裕そうな含み笑いのオリバーが。
何これカッコいい。
ササッと白衣と茶髪のカツラを脱ぐと私に持ってろと言わんばかりに手渡した。髪色が茶髪から金髪になるといきなり過ぎて気付かれないってやつね!
――なんて感心する私をよそに、手際良く、クルッと一回り。オリバーから柱に追い詰められる形で肘ドン!つまり、私とオリバーの立ち位置が逆になったと言うわけよ。
一瞬の出来事すぎて驚いて見上げたら顔ちっか!チンピラから顔を隠すためにやってるんだろうけど顔ちっか!
さっきまでの恐怖心はどこへやら。今の私は心拍数と体温が上昇することに集中している。さっき囁かれた耳が一番熱を持ってる気が……なんて考えて再び顔を上げると、まだ見つめられているのが恥ずかしくて目を瞑るしかなかった。
「フフ。なんでそんなに顔が真っ赤なのかな?」
(そんなの自分のせいだって分かってるだろうに何故聞くのよ!しかもまた耳元で!)
オリバーからの追い討ちに、なんて言い返そうか迷っていたその時――。
「おい、姉貴じゃなくてバカップルじゃねーか」
チンピラ達の会話が近づいてきて別の意味で心臓が跳ね上がった。
「あれって教師か?…生徒に手を出すなんて、とんでもねー学校だな。そんなことより早くあの二人を探そうぜ。」
「だな。俺らに道草食ってる余裕なんてない」
遠のいていく声に、ぎゅっと瞑っていた目を片方ずつゆっくりと開けた。第一に視界に入ってきたのは――まぁ、言わずもがなオリバーの顔面!だったんだけど、その奥からはチンピラたちの背中が見えた。
あぁ〜あのチンピラ達に変な誤解されたに違いない。確かに、側から見たら教師が生徒にキスしてるみたいだろうけど。私たちは夫婦なんです!合法なんです〜!
「酷いなぁ〜。僕よりあの二人が気になるなんて」
兵士二人を目で追っていたせいか、二人の姿を遮るようにいきなりオリバーが視界に入ってきた。これまた表情は余裕そのもので、もはや憎たらしささえ感じる。
「ッフ……それにしてもあんなに思いっきり目を瞑らなくても良いのに。お陰で吹き出しそうになったよ」
「もう、揶揄わないで!あの状況なら誰だって驚くわ」
「もう怖くないみたいだね。」
「え?……まさか私が怖がってたから…」
(わざとドキドキさせて紛らわせてたとか?!)
「そう言うわけじゃないよ。揶揄ってただけだよ。」
「ふ〜んそうなんだ。それなら、ただのフリであんなに近づいてたのね。あんなに近づくなんて本当はキスしようとしてたんじゃないの〜?」
揶揄われたのが嫌で私も反撃に出た。が、まずかったと後悔。
「確かに、あの状況でフリなんてレディーに失礼だったよね?」
「えっ…そう言う意味じゃっ。ちがっ、違うのよ」
さっきの優しいオリバーとは対照的にジリジリと顔の距離を詰めてきた。このままだとおじ王子上書き事件以来のキス?!
ゆっくりメガネ外してるのカッコ良いわぁ……って違う!
それに心臓がやけにバクバクしてる。どうせ私を揶揄ってるだけなのにぃ!……うるさい心臓!だまってて!
咄嗟にオリバーを押しのけようとしたら手にしていた白衣もカツラも落としてしまった。
「ちょ……近っ!」
???「おい!姉貴とあの男を発見したぞーー。しかも男とイチャついてる!」
驚いて声のした方向。つまり真上を見上げると、建物の中から身を乗り出して私達を指さすチンピラの姿が!
まっ、まずい!建物の中から見られてたなんて気付かなかった。




