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2年間の答え合わせ?!


馬車に揺られること1時間。貧血薬の副作用なのか、眠気が治らなくてさっきからあくびばかり。


「ふぁ〜ぁ………」

「もしかして眠い?」


オリバーが顔を覗き込むようにして声をかけてくれた。彼の声色が優しくてより眠くなってきた…。


「薬の副作用で眠くなったのかも。」

「あぁ、あの薬ね」


レナードから説明されているオリバーはすぐに理解した様子。一方の兄は、そんな話知るはずないので少し前のめりになって聞いている。


「薬?…なんかの病なのか?」

「“ブラッド・タリマセーン症候群”って病気。」

「ッブ……ブラッドタリマセーン?なんだその病名は、ふざけてるのか?」


私が主治医に言ったことと全く同じこと言ってる。私たちが兄妹なのを実感したわ。


「よく倒れるから貧血に効く薬を貰ったんだけど……。副作用で眠くなったみたいで。」

「貧血の薬か。昔からエラは貧血体質だったもんな。」


大病ではないと安堵した兄は、背もたれに両腕を乗せるのと同時に足を開いてふんぞり返った。そのせいで目の前に座る私は圧迫感がすごい。優雅な佇まいのオリバーとは随分対照的だわ。せっかく隣国にお呼ばれしたんだからもっと礼儀正しく……は無理か。


「着くまでまだ時間が掛かるし寝てなよ。」

「景色見たいから寝るのがもったい無くて…。」


こんなに遠出することって、ほとんどないから起きていたかったのに。でも睡魔には勝てそうにない……。


「帰りでも景色は見れるよ。それに、ヴァレンタ国に着いたら歓迎会とかあるみたいだから、今寝とかないと。」

「じゃあ、2時間後に起こしてくれない?」


起こしてもらうの子供っぽいなとも思ったけど、起きれる自信がなくて……。2時間後にはヴァレンタ国の有名なお花畑に着く頃合いだから絶対に起きたい!


「お兄様がきっちり計っといてやるよ。任せなさい。」


腕時計を確認して私を起こす気満々。兄自ら起こす役を買って出るなんて…どんな起こされ方するのか恐ろしくなってきたわ。


「……お願いするけど、絶対に騒いで起こしたりしないでね?」

「心配するな、そんな事しない。」

「……。」


目を瞑ると、馬車の揺れ具合と高級クッションのおかげで眠りにつくのに10秒も掛からなかった。 


* * *


伯爵家から出発して3時間。ヴァレンタ国に入ったようで、ようやく検問所に着いた。王家の紋章が入った馬車のおかげか、優先して通してもらえたよ。普通の馬車で受ける検問より早く感じたかな?


しばらく揺れが続いていた馬車は、ヴァレンタ国に入ったところピタッと揺れが収まって、緩やかな道に変わった。


「あぁ…うちの国の整備の悪さは報告物だな。」


あまりの差に、思わず苦笑してしまったほど――。上司であるニコラス侯爵に報告すると決めたよ、うちの国の威厳に関わるからね。


しばらく道を見ていたら、野原に咲き誇る花々に圧倒されたんだけど、確かここは有名な観光スポットだったはず。


エラが喜びそうだから起こそうか迷ったけど、スヤスヤ眠る彼女を見たら起こす気にはなれなかった。頭が馬車の揺れに合わせてガクッ……ガクッと定まらない。


見かねて、左肩に寄り掛からせ顔を上げるとテイリーと目が合った。


「ティリー……君、どうしたの?」


腕を組んでどっしりソファーに座る姿は、監理官として働くだけあって威圧感を感じる。


「女と遊ばなくなったってゴシップ記事になってたぞ。やっと仕事がひと段落ついたようだな。」


いつものテイリーからは想像もつかないほどその表情は真剣そのもの。今の彼はそういうモードに入っているらしい。


ナイーブな話だから馬車の中では……と、躊躇っていたけど、この馬車は、迎賓馬車なだけあって車内は静寂そのもの。だから外の護衛たちに聞かれる心配はなさそうだ。


「君からエレナーデ家に呼び出される前日に仕事が丁度片付いてね。ニコラス卿には“あの仕事”からは足を洗うと話をつけてある。今はただの――しがない外交官さ。」


そう、()()。以前までは外交官とは名ばかりの仕事で“国家の諜報員”として活動していた。


仕事内容は……そんな大きい声で言えないんだけど、女性と親密になって情報収集したりとかそんな感じ。一つだけ言えるのは、小説で書かれたりするような輝かしい仕事ではないってことかな。ひたすら情報収集させられたから。笑


「仕事ぶりからして、閣下がお前を簡単に手放すとは思えないがな。それにしてもお前の演技力とモテっぷりに感心した5年だった。樹液とカブトムシみたいなもんで動かなくたってターゲット自らやってくるんだからよ。ぴったりの役職じゃねーか。ッハハハ」


「そりゃ、どうも」


「感心したとは言ったが褒めてないぞ。妹からしてみれば女と遊びまくる夫だったわけだからな。」


僕の態度が気に食わなかったようで少し不機嫌そう……彼忘れてるのかな?自分がこの仕事を手引きしたってことを。


「手厳しいね。とはいえ君に紹介されたわけだから、テイリー、君にも少し責任あると思うけど?」


「だが、お前たちの婚約が決まる前に……。それもそうだな。じゃあ、おあいこってことで。」


先ほどまでの真剣モードから砕けた笑顔になったテイリー。彼の声が大きくなってきたから、そろそろエラが起きてもおかしくない。


「にしても2年間もエラを遠ざけてたのはなぜなんだ?嫌いだったのか?」


2年間触れてこなかった話題を今わざわざ振ったのは諜報員を辞めると言ったから。じゃないとこのタイミングでわざわざ話を振らないだろうね。


「ハハハ…。そんなに単純だったら良かったんだけどね。諜報員として活動するからには出来るだけ妻と接触を減らしておいた方が後々離縁しやすいだろうし、僕がエラに興味ないとわかると接触者も彼女にに手出ししないだろう?」


「そう言うことか。やっぱりお前は根はいいやつだ。」


「それでも、諜報活動は中々刺激的で楽しかったのは事実だし、別にいいやつではないよ。」


よく修羅場では困った顔をしつつも、交わされる罵倒の数々に内心楽しんでいた節がある。


『アンタ、地味で目立たないブスのくせに調子乗ってんじゃないわよ。オリーは私と付き合ってるの!いい加減彼に遊ばれてることに気づきなさいよっ!』


『はぁ?おばさんのくせに若いオリバー様に好かれてると思ってんの痛すぎるわ!私の方が愛されてるんだからあんたこそ別れなさいよっ!!』


――みたいな修羅場もあったな。女性が言い合いになる時の言葉って、色んな()()で罵るから聞いてて飽きなかったよ。ほら、僕ってそんなに人が良くないだろ?


「こんなに喋ってるのにエラのやつ全く起きねーな。そういうところ俺と似てるな〜。」


僕の肩に寄りかかるエラの顔を、感心した面持ちで見ているテイリー。エラの顔の前で手を振ってみたり額を突いたりしている。


「そんな事やってると、本当に起きちゃうよ?」


とはいえ、もう2時間経ちそうだし起きてもいい時間ではあるのか?


         * * *


「コイツ寝るとなかなか起きないから突いたところで起きねーよ。」


「……………。」


起きないことの証明みたいに私の丸出しオデコをツンと押す兄――。



(私、起きてるんですけどぉぉーーーー!!

全部丸聞こえなんですけどぉぉーーーーー!!)


※途中から話聞いてた。



えっ、待って!状況を整理すると、


私の夫は国のために身を捧げてたってこと?!裏で頑張る諜報機関のスパイ……えっ、やだカッコいい♡



『不倫しまくりのクズ夫がスパイだった件』って事?



――今までの2年間の不倫って仕事?!愛がない仕事?!


なぁ〜んだ。それを早く言ってよ。


今丁度スパイ小説読んでたから『うちの夫スパイだったんですぅ〜』って自慢したい気分だわ。


絶対にダメだろうけど。


あっ…バラしそうだからオリバーってば私には隠してたのね。納得〜。今は感極まって自慢したいとか思ってるけど本当に広めるつもりはないのよ!それぐらい驚いたって言う比喩表現よ〜!


どうしよう。夫がスパイとか聞いたら寝られるわけない…。別のことでも考えてよう。


オリバーと至近距離だからほのかに金木犀の香りがする。あ〜すごくいい香り。馬車に乗る前に庭園寄ったのかな?なんて考えていたら庭園での記憶が蘇ってきて……へへへ♡


「なんかコイツニヤニヤし出したぞ。どんな夢見てんだよ……」

「妹に対して酷いんじゃないの?!」

「うぉっ!起きた!」


そんなに驚かなくてもいいのに。おばけ見たみたいな反応して!目を開けただけなのにっ!


「起きたんだねエラ。おはよう」

「おっ、おはようオリバー」


『国のために身を捧げてたなんて……かっこいいかも♡』

『体を張って私たちの平和を守ってくれていたのね!』


――なフェーズにいる今の私は、なぜだかオリバーの顔を見るとドキドキしてしまう。これは……恋?


「昼過ぎだしなんか食わねぇ〜?ん?なんでお前ら見つめ合ってんだよ。」


お兄様のせいで雰囲気ぶち壊し。兄がいた方が気まずくない〜とか言ったのは誰!?……私ね。



悪いと思いつつ修羅場を楽しんでたオリバーは中々いい性格してますね^_^


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