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し・か・た・な・く・王子に会いに行く。


おじ王子から“血の凍るような手紙”が届いて一週間が経った。あぁ〜今から“君の王子様”に会いに行かないとなのね……。


なんて『憂鬱』と『久しぶりに遠出が出来て嬉しい』狭間で揺らいでいる。あっ、思ったより身支度に手間取ってしまったからオリバーには馬車で待機してもらっているの。


「それじゃあ、行ってくるね」


「「「「「いってらっしゃいませ!」」」」」


エントランスに並んだ使用人たちに別れの挨拶されたけどものすごい0円スマイル。普段見ることないってくらいの満面の笑みを浮かべる使用人たち。


レナード曰く、『隣国の王子に名指しされるなんてヴィセント家に箔がつく!』から皆が喜んでいるらしい。確かに考えてみれば物凄い名誉なことだから納得した。


「ヴァレンタ国に行くのこれが初めてなんです♪」


私の後ろに着いて歩くエザラもこの旅を心待ちにしていて、観光地とかお土産を調べたりしてたぐらい。彼女のそういうところ可愛いよね。


「あっ!奥様、処方された薬はちゃんと持っていますか?」


「貧血の薬はポッケに入れてあるから安心して。さっきエザラが入れてくれたじゃない」


薬が入っているポッケをポンと叩いてみせたら、持っていることに安心した彼女はまた笑顔に戻った。心配性のレナードが私の貧血体質を気にして、主治医を呼んで薬を処方してもらったの。私は医者を呼ぶほどじゃないって言ったんだけどね。


『隣国にお呼ばれするんですよ!万が一倒れたらヴァレンタ国に迷惑がかかります。』ってレナードに正論を言われたから大人しく検診を受けた。確かに迷惑はかけたくない。


そんなこと考えながらぼーっと歩いてたら、馬車の前に辿り着いた。



「えーと、サラ達が報告してくれた“豪華な馬車”って……これのこと?」



おじ王子が『馬車と護衛を差し向けて来た』っていうのは聞かされてたけど、想像の5倍は豪華だった。


驚いて引いてるレベル。


良いんですか?こんな国賓級のおもてなしで!伯爵家如きに国王が乗るレベルの馬車を用意するなんて。


それに馬車の後ろにも4・5人馬に跨る護衛が……。こんな豪華な馬車だし襲われそうだから護衛付きなのかな?


あぁ、良い待遇過ぎて怖い。側から見たら『王様が乗ってるんじゃね?すごっ!』ってなるやつじゃん。


「どうされました?」


私がボーッとしていたからか、隣にいる従者から心配された。少し意識失いかけてたわ。


「いえ…随分豪華だと思って」

「王子殿下が貴方のために乗り心地のいい馬車を用意させましたので。お気に召されたでしょうか?」



おぉ…なんてこった。これって私の為だったんだ。



「お気に召すも何も…素晴らしいくらいよ。」

「本当に凄いですね奥様。後ろの馬車に乗りますから後で会いましょう!」


初めて乗る豪勢な馬車にキラキラと瞳を輝かせるエザラは、私と別々の馬車になるのね……エザラと一緒に乗りたかった。だって、あのおじ王子を見送った後のキス事件以来、オリバーとまともに顔合わせてなかったから。どんな顔をして会えばいいの…。まぁ、私が避けてたのが悪いんだけどさ。


「それではお手を……


従者にエスコートしてもらい、馬車の階段を2段登った。外からだとカーテンで中の様子が見えないからオリバーは休んでる可能性大!それなら気まずく無くて好都合!



安堵した私はドアを開けてもらったので顔を上げると……



「エラ。お前来るの遅かったな。」


バチっと兄と目が合った。それが兄だと気づくまで4秒も掛からなかった。


(忘れてた。お兄様も招待されてたんだった。)


「うん、帰る!」

「おいおいおい、帰るな!」


兄が、私の腕を掴んでオリバーの隣に座らせた。まぁ、オリバーと2人きりの方が気まずいし結果的に良かったのかもしれない。


「その態度だと、2人きりがよかったのか?良かったな、オリバ〜」


兄は、私とオリバーの顔を交互に見てニヤニヤしている。より気まずくなるから揶揄うのやめて欲しい。何よりオリバーも苦笑してるじゃない!


「そういうのじゃないわ。」

「本当か〜?」


兄から視線を逸らすために、真横に座るオリバーに顔を向けると、長い足を組んで体を少し乗り出していた。顎に手で軽く支えて私を見守る姿は、相変わらず優雅だわ。


……この姿見てるだけでもお金取れそう。あ、目が合っちゃった!


「支度に時間がかかったみたいだね。随分とエザラが頑張ってくれたのかな?」


「そうなの。ヴァレンタ国に憧れがあるみたいで『美形大国ですからね!舐められないように力を入れて支度します!』って私以上に張り切ってたの。」


「エザラ?……あぁ、お前の侍女か。張り切っただけあって確かに可愛いな。」


お兄様ってば普段可愛いなんて揶揄う時以外使わないくせに、褒めるなんて珍しい。


「本当に可愛い?」

「あぁ、薄い紫色のドレスがお前っぽいな。焼き芋みたいでいいと思う。」

「えへへ。髪の毛をハーフアップの編み込みにしてもらったの。いつもは付けないアクセサリーもつけてるし。」


エザラのセンスがいいから褒められちゃった♡

お兄様の褒め言葉が独特?…いつものことよ。


気分が良くなって『エザラには可愛らしい髪飾りかなんか買ってあげよう。』『メイドたち全員分何を買うのか考えておこう!』そんなこと考えたら、さっきまでの憂鬱な気分が楽しくなってきた。


自分でも単純過ぎる気もするけど、どうせなら楽しもうってことで。


「フリルが過度じゃなくて、かと言ってシンプル過ぎないラインで外交向きのドレスだね。それにエラによく似合ってるよ。」


流石は外交官。的確な褒め言葉ね〜なんて感心していたら、横から手が伸びてきた。何事かと思えば、オリバーが優しい手つきで私のふわふわのボブ髪を一束手に取った。えぇ、もちろん私の顔と耳は真っ赤ですとも。


少し微笑んで笑ってる感じとか、顔に手を添える感じとか、足組んで少し前屈みで話しかける感じとか――


天然でこれをやってるんだから恐ろしいわ。


この姿を小さい銅像みたいなんにして持ち歩きたい。誰か作って!色付きだと尚可。


上がりそうになる口角を隠すのに精一杯だけど、手を口元に当てたからときめいてるのバレてないはず!……多分。


「なんか…お前たちラブラブだな」


さっきまでのニヤニヤ顔はどこへやら。兄から白い目で見られた。あまりにもジーッと見られるもんだから恥ずかしくなってきたわ。


「だっ、だからそんなんじゃ無いってば」


「本当か〜?王子を見送った日も、なんだかんだ仲良さそうだったし。俺がいないところでイチャついてるんじゃないのか〜」


「……っ!そっ、そんなことない!ねぇ、オリバー!」

「ん?…うーん。どうなんだろうね」

「えっ!そこは否定してよ!」


オリバーに助けを求めたのに、墓穴掘った気分だわ。それじゃあ兄の言葉を肯定してるみたいになっちゃうじゃん!


「そうか…。エラも大人になったな。お兄様は兄離れを感じて寂しいぞ」

「…ッフフ」 


「………。」


分かりやすく演技くさい。もうだめだ。この2人ってば、何言っても私を揶揄うモードに入ってる。こういう時一致団結するのずるい。私もエザラがいたら揶揄えるのに!


あっ、帰りの馬車ではオリバーとエザラと私の三人で乗って2人で団結してオリバーを揶揄おう!


えっ、お兄様?エザラと交換で使用人用乗ってもらうけど何か?


「ん?…何だあいつ、笑い出したぞ。怖っ」

「あぁ、いつものエラだね」


「えっ?それはそれでどうなのよ!」


まぁ、そんなこんなで愉快な(?)ヴァレンタ国への旅が始まったってわけ。


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