王子に好かれていた理由が判明!?
目覚めた私は腕を思いっきり伸ばした。もうすっかり貧血も頭痛も無くなってこの通り元気。やっぱり私って治るの早いのよね〜。
「それにしてもよく寝た。ふぁ〜……。」
隣で眠る麗しい寝顔のオリバー……はどこにもいない。その代わり『アイマスクを着けて、モコモコのフード付きガウンに身を包んだ趣味が乙女すぎる兄』がいた。
何が乙女かって?ポッケに“くまさん”付きなのよ。
そこまで寒いわけじゃないのに“もこもこ”って……見てるだけで暑苦しいし、筋肉質な兄がくまちゃん付きのモコモコガウンって……下手なホラー劇よりも怖い!だから思いっきり叫んでやったのよ――。
「いやぁぁーーーーーーーーーーー!!!!」
……って!
「なっ、なんだ??」
悲鳴で飛び起きた兄。ひどく慌てているのに、それでも抱いてる枕を離さなかった。お気に入り抱き枕のウサちゃんがペシャンコ。でも、そんなことよりも……
「オリバーの部屋で寝るはずだったのに、なんで私の部屋で寝てるの?」
『実は…テイリーの見た目してるけど中身オリバーなんです〜』とか言い出さないよね?!
「王子に足を向けないよう、ベッドの向きを上下逆で寝ようとしたんだ。そしたらなぜか寝れなくてな。それでオリバーと部屋を交換したってわけだ。」
「向きなんか気にせず寝ててよ。それなら私もオリバーの部屋で寝たかった!」
(こんな服の趣味してる兄とオリバーならオリバーの方がまだ良い!)
「なんだ、お前そんなにオリバーのこと気に入ってたのか?」
人差し指でオデコを小突いた兄。とてもニヤニヤした顔で揶揄うのがが実に憎たらしい。
「違うし!兄様なんかと寝るよりマシなだけだもん!」
「酷いじゃないか、お兄様はこれでも令嬢達にモテモテなんだぞ!」
「モテたところで嫌なのは変わらないし、モテるんならさっさと結婚しなよ!」
本格的な兄妹喧嘩が始まろうとしたその時――兄とは対照的に、爽やかな朝に似つかわしいシャツを着て登場したオリバー。
やっぱり朝は爽やかに限るわ。
きちんと畳まれた着替え一式がオリバーの手にあるから、兄の着替えをを届けに来た様子。
「朝からパワフルだね。君たち兄妹は」
朝の光が優しく包んで白いシャツがすごく映えている。まぁ、安定的にビジュがいいってことよ。
そ・れ・で・も、ビジュが良くたって、ひと文句言わせてもらう!
ベッドから飛び出しオリバーに駆け寄った。身長差で私が見上げる形になってるけど、ちょっと身長が高いからって怯まない。
ほら、私の顔って可愛い系じゃない?だから舐められないように怒ってる雰囲気出さないと。手をこれでもかと硬く握りしめて、口に力を入れた。
いつも小馬鹿にされてるから今回は本気さを見せつけないと……あっ!睨みつけるの忘れてた!
「……ップハハハハハ。どうだ?オリバー、俺の妹は可愛いだろう」
せっかくいい感じに怒ってたのに、後ろで爆笑する兄のせいで雰囲気がぶち壊し。
「もう、お兄様は黙っててよ!」
兄から視線をオリバーに戻す。……あれ?こっちもそんなに怖がってないじゃない!どうなってるの?もう、そこは良いから本題に入ろう。
「オリバー酷いわ!兄と同じ部屋で寝かせるなんて!何で私を置いていったの!」
「どうしてもテイリーが変わって欲しいっていうから。それに君ってば、ぐっすり寝ていたから起こすのは悪いと思ってね。」
「そうだぞ、兄達の優しさだ。そんな怒んなよ〜」
ベッドから出てきた兄は、得意げにオリバーの肩に腕を回した。納得はしたけど、威張ってる兄がどうしてもムカつく。
「それと…王子が10分後に城に戻るみたいなんだけど、二人もと時間内に支度終わりそうかな?そのまますぐ国を出ないといけないらしい。会えるのは最後になると思うから、急いでね。」
えっ?!10分で?!
「それを早く言ってよ!もう、女は支度に時間かかるんだから!」
それからというもの、エザラを部屋に呼んでものすごいスピードで着替えてヘアセットして……すごく疲れた、エザラが。
* * *
何とか王子の出発に間に合った。急いで向かうとすでに馬車が用意されていて、オリバーも兄も馬車の前に居た。
「あぁ〜、着替えるだけで体力消耗しちゃった」
「奥様は鏡の前で待っていただけではありませんか」
後ろから着いてきたエザラから痛いところを突かれた。まぁ、そうなんだけどさ。寝起きで早く着替えるの中々疲れるのよ。
「おぉー!俺のために皆集まったのだな。ッハッハッハー!」
私より後に登場した王子は朝から明るいわね……。それにしても、昨日あれだけ飲んだ人とは思えないほど普通だわ、うちの兄もだけど。さすが酒豪。
「殿下、急な訪問のため大したおもてなしが出来ず、申し訳ございませんでした。昨夜はいかがでしたか?」
「おぉ、昨夜は……酒のせいで覚えていないが。この通りピンピンしている。それにカロンとやらが作る朝食が美味しくてな、おかわりしてしまったほどだ!それと兄殿、昨日の酒対決で私たちは親友になった!」
うちの兄にすっかり懐いた王子。兄の腕を持ち上げて肩を組んでいるんだけど、身長差で王子が辛そう。
「えぇ、そうですとも!私たちは昨日酒を酌み交わした仲ですから!ハッハッハッ!」
もうこの2人で結婚すれば?ってくらい仲良くなってる。昨日の酒飲み対決で生まれた友情らしい。
まぁ、そんな王子に会うのもこれで最後!……あっ、そうだった。王子に聞きたかったことがあるんだ。
「あっ、あの〜殿下。なぜ私のことをそれほどまでに気に入っていただけたのでしょうか?」
ずっと疑問だったの。結婚の話された時、ほぼ聞いてなかったから聞くなら今しかないと思って。
「なぜ君に惚れたのかって?そんなの決まっているだろう……」
ドキドキ……初めて異性から好意を持ってもらったからなんて言われるのか気になるわ!
(やっぱり可愛いこの顔?)
「私が大事にしている愛しの“ピギー”に似ているからだ!」
「ピギー……?って、ワンちゃんですか?」
真っ白でふわふわなワンちゃんのことかも知れない!
(えへへへ、それなら納得ね!)
「いいや。“マイクロブタ”だ!」
まっ、マイクロ……ブタァ?!!!!がペットってこと?!
『……ップ…。』って大人しかったオリバーが吹き出すし、兄にも『ブタ……似てる。…ップハハハハ』って笑われたし、後ろに控えるエザラですら隠れて笑っている。
(みんな酷いっ!)
「初めて会った日のドレスが、出国前ピギーに送ったリボンと同じ水色で、運命だと思ったんだ!」
(どっ、ドレスの色が似ていたから?!それだけ?可愛いとかじゃなくて!!!)
ショックで体が固まっていて、魂が抜けていくのがわかる。
「あれ?エラの奴固まっちまったぞ?おい、エラ、おーい」
固まった私の頭をつんと押した兄にすら、反応できなかった。ショックがデカ過ぎた。だって、ブタって……。
(乙女としては傷つくのよっ!)
「ハッハッハ〜。嬉しすぎて言葉も出ないようだな。そんな君にハグのプレゼントだ。逢えなくなるのは寂しくなる。」
魂が抜け出ていく私にキツくハグしたかと思うと、顔に手をやる王子のなんて脂ぎったこと。終いには私の頬に口づけをし……えっ?はっ?口づけ???
その瞬間すぐさま意識を取り戻した。主に悪い意味で。
(いやぁぁぁーーーーーーーーー!!!!)
口に出して叫ばなかった私を称賛してほしい。心の中で叫ぶにとどめた私を誰か褒めてほしい。何とか堪えた。
「それじゃあ!達者でな〜!」
王子がいなくなるのを確認した私は取り乱して、もうパニック状態!
「いやぁー!兄様でも良いからほっぺ上書きしてー!お願い」
普段なら絶対に兄にほっぺにキスとかねだらないけど、今回ばかりはテンパってありえないことを言ってしまった。本当に、2度とこんなこと兄にお願いしないわ!
「流石に……可愛い妹からの頼みでもそれはちょっ……と」
何で引いてるのよ!顔も逸らして!さっきまで親友とか言ってたくせに!
「王子と親友なんて大嘘つきー!」
「ハハハ、エラこっち向いてみて」
呼ばれたから無意識に後ろを向くと至近距離にオリバーがいた。美貌に感心する暇もなく、軽く顔を抑えると右と左に口付けをした。にっこり笑うと口にも軽く唇が当たった。その事実に気づくまでかかった時間……1・2・3秒。
「……キャー!口に王子の間接キスがぁーーー」
真っ白なキャンパスに突如オリバーの顔が映り込んだような感覚だった。つまり突然口にキスされたようなもの。一刻でも早く顔を洗わないと!
「あの、奥様ー!お待ち下さい。走ると危ないです!」
後についてくるエザラを置いて私は洗面所に向かった。きっと、胸が高まるのは“走ってるせい”だわ!
そうに違いない!断じてキスされたからじゃない!
* * *
「ん?……何で呆然としてるの?テイリー」
反応がいい彼女に満足した僕は後ろで呆然としているテイリーに目を向けた。彼からは一、ニ歩距離を取られた。
「いや……お前の“女ったらし度”を久々に感じたんだ。いくら親友になったとはいえ……王子と間接キスは俺には無理だ」
「ッフ、君にもしてあげようか?」
「いやいやいや、遠慮する。というか絶対にするな!」
ゆっくりと一歩ずつ伯爵家へ大きく足をコンパスのようにして進め、遂には走り出して逃げた。
「まぁ、僕もテイリーにするつもりは毛頭ないけど。」
テイリーは筋肉質だから脂肪がなくて寒いのかもしれないですね。『結婚すればいいのに〜』発言の脳内では2人でウェディングドレスを着ている図がエラの頭の中で思い浮かんでいることでしょう。




