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【オリバー視点】エラは〇〇が好きらしい


我が国の酒豪と言ったら真っ先に名前が上がるのはテイリーなんだけど、その次に名が上がるのはエラ。酒豪で名を広く知られる彼女が、酔い潰れるわけがない。


だからテイリーを問いただすために呼びつけたわけだけど……。


「なぜ俺を呼び出したんだ?せっかく気持ちよく眠っていたのに」


額に付けていたアイマスクを机にヒョイと投げた。寝ていたところを起こしたせいで、少し機嫌が悪いみたい。お気に入りだという“モコモコ”のパジャマ(筋肉とモコモコの相性が悪いけど、そんな事はどうでも良い)を着てソファーに腰掛けるテイリー。


従者に取りに行かせてたのはこの寝巻きか…。他人の趣味に口出す気は無いけど、『中々変わってる』と思った。


「貰ったチョコをエラに食べさせたらこの通り、気を失ってね。チョコレートの中に何が入ってるの?」


変な食べ物をよく勧めてくる彼のことだし、チョコレートの中には酒のジュレ以外にも『何か』入っているかもしれない。


「たぶん気を失ってない。エラはただ“酔っ払った”だけだろうな。」


そう言って僕の膝の上で眠る彼女へ視線を向けた。彼の表情からは、彼女を大事にしているのがひしひしと伝わる。


「あいつ酒豪令嬢なんてあだ名つけられてるけど、実は一滴も飲めない下戸なんだ。…あれ?お前に言ってなかったか?」

「……初耳だよ。てっきり、君たち兄妹は揃って酒飲みだと思ってたから。」


考えてみれば酒を飲む姿は見たことがない…。結婚して、もう二年経つというのに、一度も……。


「よくエラが俺に説教するから“酒豪にも恐れない令嬢”。略して“酒豪令嬢”がいつの間にか別の意味で広まったみたいでな」


「略しすぎ……それなら何で否定しなかったの?誤解を解く機会なんていくらでもあっただろうに」


酒飲み令嬢というレッテルのせいで令息からは距離を置かれるようになり、婚期が遅れたわけだけど。


「可愛い妹が、変な奴らに絡まれずに済むからだ!酒豪令嬢という肩書きがあれば、変な虫も寄りつかないだろ!」


変な虫どころか婿候補すら寄り付かなかったわけだ。


「まぁ、なにはともあれ、チョコに何も入ってないみたいで良かったよ。アレルギーも疑ったけどをそれにしてはスヤスヤと眠っているから」 


「本当だな。2年前ならお前の膝で眠るエラなんてあり得ない光景だったが……。コイツにも心境に変化があったのかもしれないな。はぁ……安心したら眠くなった。俺は部屋に戻って寝る。じゃあな。」


話が終わるなり部屋を出ようとする彼は、もうドアノブに手を掛けている。背が高いからドアまで着くのも一瞬だ。


ん?……急に振り返ってどうしたんだ?


「言い忘れていたが、一つ忠告しておくとエラは酔っ払うと目覚めたとき厄介なんだ。気を付けろよ〜」


「厄介?どういうこ――」


聞こうとドアに向けて顔を上げると、もう居なくなっていた。


どういう意味なのか気になるし、テーブルに投げたアイマスクも忘れて出て行ってしまった。呼び止めようかと思ったけど、眠いと言っていたから放っておこう。



「…………ん?わたし寝てた……」



僕の膝からスッと顔を上げたエラは、まだ目が虚ろで寝ぼけている様子だ。状況を読み取ろうとしているのか、周りををキョロキョロしている。


「起きたんだね。ソファーで寝ると風邪ひくよ。ほら起きて」


「ヤダァ。このままがいいぃ……」


膝の上で横になっていた彼女は、むくりと起き上がると、僕の首に抱き付き顔を埋めた。いつもなら”絶対”しないだろうから、酔っ払ったせいだろう。


「ベッドで寝た方がよく寝られると思うよ?」

「いやだぁ。オリバーと一緒がいい」

 

首に縋り付く彼女をこのまま移動させてもベッドで大人しく寝てくれないと悟った――。



「テイリーが言ってた“厄介”ってこれのことか……。」



酔っ払ったエラは子供のようで、初めて子育てしているみたいな不思議な感覚だよ。


「ベッドから出たくないっていつもエザラと格闘してるぐらいなのに、どうして今はベッドに行きたくないの?」

「オリバーと離れたくないから…。」


首に回した拘束が少し緩んだかと思えば、拗ねた顔が覗いた。いつもに増してワガママになったエラは可愛いかもしれないね……子供が意地張ってるみたいで。



「それにしても…君は僕と一緒にいたいんだね。意外だ。」

「うん。一緒がいい。オリバーすぅきぃ!」

「へぇ〜、どんなところが好きなの?」


いつも全く好きなんて言われないから純粋に気になった。目をキラキラ輝かせて、何やら言おうとしている。どんな返答が返ってくるのかと思えば――。


「顔と腹筋!!!」

「……当事者としてコメントに困る事言うね。エラは」


24年間生きてきて真正面から『顔と筋肉が好き』だなんて言われたことないから新鮮だよ。流石の僕でもこの回答は予想していなかった。やっぱり彼女は期待を裏切らない。


「すきすき、だいすぅき」

「顔と腹筋()()なんだよね?」

「うんっ!」


満面の笑みからは想像もつかないほど残酷なこと言うね、彼女は。


「それじゃあ、大好きな顔と腹筋の男からのお願い、聞いてくれるかい?」


「うんきくきく。なにぃー?」

「ベッドに移動してくれる?」

「え〜、むりぃー。」


これは……何か戦略を練らないと。このまま無理やり移動させても泣き出しそうだから自分の意思で移動させたい。


「僕が君のことエスコートするから。それでいいかい?」

「お姫様だっこー!」

「ハイハイ。お姫様ね」


なんとか説得することが出来た。暴れないうちにと、急いで彼女を横抱きにしてベッドに移動させた。なかなか骨が折れる。

 

「………。」


スヤスヤと眠る彼女はもう夢の中の住人らしい。


「………もう寝たんだ。」

 

まさか、眠る彼女を見守ることになるとは、数時間前の僕は思っても見ないだろう。


「うぅ……。」


髪の毛が顔にかかって邪魔そうに見えたので咄嗟に手が動き払ってあげた。エラの顔を見ていたら、さっき僕にトランプをしようと誘われたことを思い出し、思わず吹き出した。


「ッフ……サイドテーブルにトランプって。」

「おーい、部屋が………って!オリバー、おまえ!」


そこに入ってきたテイリーとばったり目があった。僕がベッドに腰掛けている、かつ少し顔が近い距離にあるため変な勘違いをしているらしい。普段から大きい目を更に見開いている。


「残念だったね。君が思うようなことは何もないよ。……それより、何でまた戻ってきてどうしたの?あぁ、忘れたアイマスク?それならテーブルに…


「いや、そんな話じゃねーんだ!」


「ん?何があったの?」

「実はな……


テイリーがこんなに改まっているなんて……僕の経験上嫌な予感しかしない。



オリバーが振り回される貴重(?)な回です。

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