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チョコレートにはご用心


酒飲み対決はの決着は、おじ王子が途中で眠ってしまい結果兄が勝った。


『酔い潰れた王子は動けないので泊まらせて欲しい!』とお願いされて客室に運ぶところ。人騒がせな王子よね。


「うぅ……もう飲めない……」


そりゃあそう、浴びるほど飲んでたもん!なんてツッコむほどには飲んでいた。兄と互角に飲める相手は多くないから、2人の間には友情が芽生えたり……芽生えてないかも。


「うわっ……おっも、この王子」


王子を担架に乗せて運んでいるのは執事長のレナードと料理長のカロン。レナードは腕をプルプルと振るわせているし、カロンは顔を真っ赤にして運んでいる。


あのデ……失礼。酒を浴びるほど飲んだわがままボディーの王子を運ぶんだから、大変なのは容易に想像出来る。


SPの2人が『私達も手伝います』とか言ってたけど『お客様にそんなことさせられない!』と啖呵を切ったレナードにカロンも付き合わされて、2人だけで運ぶことになった。


ふらつきながら運ばれる主人を心配そうに、おじいちゃん執事とSP達が寄り添って歩いている。



「カロン、気を付け…るんだぞ。この方は、隣国の…王子だから…な!」

「そうは…言っても…ですよ?!」



『見てるだけで重そう』なんて見守る私は、体調が万全ではなく、温室に元々置いてあった椅子に腰掛けている。この椅子オシャレだけど、座り心地はそんなに良くない。


「それじゃあ奥様、寝室までお連れします。今日は倒れたので、安静にしましょうね」

「そうね、エザラ」


対決が終わった今は夕暮れ。いつもなら夕食の時間だけどカロンが用意してくれた手軽につまめる料理を食べたたからお腹いっぱい。だからこのまま部屋に戻る他ない。


部屋でゆっくり休もうと椅子から立ち上がると、視界がぼやけて足元がぐらついてしまった。



「大丈夫?いきなり倒れるなんて」



幸い隣にいたオリバーが支えてくれたので転ぶことはなかった。けど、もう少しオリバーの反応が遅かったら倒れていたかもしれない、危なかった!


「なんだか、貧血みたいで……。」


支えていた手が離れたかと思えば、手際よく私を横向きに抱き上げた。今の私は具合が悪過ぎてときめいている場合ではない!ただ彼に体を預けるので精一杯。


「僕が部屋まで連れていくよ。エザラは貧血に効く飲み物をカロンに頼んでくれ」

「はい。かしこまりました」


わざわざ作ってもらわなくても寝れば治りそうだけどな。ただの貧血だし……。


「あぁ〜……さすがの俺も飲みすぎて頭が痛い。」

 

酒豪と呼ばれる兄でも、あの飲みっぷりは堪えるのね。頭を抑えるなんて。酔い潰れる兄なんて見たことないから、こんなに具合悪そうなのは初めて見る。


「オリバー、急で悪いが今夜は泊まらせてくれ。どこか空いてる部屋は無いか?」

「客室はもう空きがないんだ。だから悪いんだけど、ここのソファーで寝て。」


スッと指差したのは、私が貧血で横たわっていたあのソファーだった。えぇ……あそこで寝かせるの?


「おいおい、オリバーそれはあんまりじゃないか!」

「冗談だよ。僕の部屋好きに使っていいから。」

「おぉ、ありがとよ。」


取り敢えず話がまとまった……かのように思えたけど。



(あれ?オリバーはどこで寝るつもりなの?)



目と鼻の先にある顔を覗き込むとオリーブ色の瞳と目が合った。彼の腕にすっぱりと収まったまま。ポカンとする私をよそに平然と言い放つ。

 


「僕はエラの看病がてら、一緒に寝ることにするよ。その方が安心でしょ?」



なるほど。オリバーが私の部屋……え?私の部屋で寝るの!?同じ部屋で寝るってこと?


(あぁ………血糖値上がって頭痛くなってきた。)


「おい、ちょっと待て!お前たち今まで別々の部屋で寝てたのか?!2年も夫婦だったのに?!」


さっきまで『飲みすぎて頭が痛い〜』と弱っていたはずの兄が、目の色変えて身を乗り出した。未婚の兄が言うと、説得力が全くない。婚約者も見つかってないくせに!



「いいじゃない、それぞれ違った夫婦の形があるのよ。」



「それもそうだな。……あぁ、王子が来てからお前たちの関係が良くなる一方だ。殿下には足を向けて寝られない!」 

 

「僕の部屋からだと足向けて寝ることになるけどね。」


オリバーの華麗なツッコミに少しも怯む様子のない兄は、むしろ上機嫌にも見える。

 

「そうか、それなら反対向きで寝れば問題ない。あぁ、今日はいい夢が見れそうだ。」



なんか、兄様ってばテンション高め。今頃お酒が回ってきたのかしら?まぁ、そんなことどうでも良いか。



         * * *



「うーん。まだ頭が痛い……。」


オリバーに寝室まで運んでもらい横になったものの、ズキズキする頭痛は一向に良くならない。

 

「奥様ー!カロンさん特製の『貧血にいいものぶっ込みジュース』をどうぞ!」


勢い良く現れたエザラの手には、ドス黒い飲み物が……。


「確認だけど、これってジュースなんだよね?」

「もちろん!これはカロンさんが作ったジュースです。」


目の前にグッと寄せられたジュースの匂いなんとも言えない。


「ありがとう……。でも、名前と色が、おどろおどろしい。」


彼のネーミングセンスは疑うものがあるけど、料理の腕は一流だし……飲むしかない!


(なんてことは、分かってはいるけど、匂いと見た目が無理すぎる。)


「さぁ、さぁ、さぁ!」

エザラに言われるがままにジュースを一気飲み!


「うぅ……飲めなくもないけど美味しくもない」


さすがのカロンでも美味しく作るのは無理だったみたい。あぁ、でも後味そこまで悪くないのが救いね。


「奥様は正直者ですね。それにしても……フフフ。今日が『旦那様とラブラブ大作戦』の初日ですのに、一緒の部屋で寝ることになるなんて!おじ王子のおかげです!」


「そうは言っても。おじ王子と結婚させられるとこだったのよ!」


最悪の危機は免れたけど。もし兄が負けてたら今頃プロポーズされていたに違いない。


「それでもおじ王子のおかげで、お二人の距離が近づいたのは間違いないですよ。っは!もしかしたら殿下はお二人のキューピッドなのでは?!」


「それはどうかな……」


恋のキューピッドってよりも酔っ払いのおっさんだったし。


* * *


「ふぁ〜ぁ……いつもより早く寝たから真夜中なのに目が覚めちゃった。」


カロンが作った……名前忘れたジュースはすごい効き目ね。頭痛もなくなって少し元気になった気がする。


「喉乾いたから水飲もう………っわ!」


薄暗い部屋だから気づかなかったけど、ベッドサイドに置いた椅子で眠るオリバーを発見した。腕と足をお上品に組んでいるんだけど、首がカクッ、カクッてなるのよ。


――ッフフ、ちょっと面白い。


「……それにしても、椅子じゃなくてベッドで寝れば良いのに。そういうところは紳士なんだから。」


薄暗い部屋にカーテンから差し込む月明かりが、眠る彼の姿を鮮明に見せてくれる。無防備に眠る彼を見るのはちょっと新鮮かも。


「……ん?……エラ、起きたんだね。気分はどう?」


私の視線に気づいたのか、ゆっくりと瞼を開けた。いつも隙がないから、半分くらいしか開いてない目は、いつもよりあどけなて幼く見える。


「カロン特製ジュースのおかげで頭痛が治った気がする。あの悪魔みたいな見た目なのにすごいわね」


「それは良かった。具合が良くならないなら主治医を呼ぼうと思っていたから。」


「寝れば治る体質だし。………だから別に」


(なんだか気まずい!何でだろう?)


はっ!めっちゃ今更だけど、今って2人きり?!夫婦で同じ部屋で寝るの初めてだから緊張してきたのね!


「とっ、トランプでもしない?」

「トランプ?……こんな時間に?」


突拍子もないこと言って呆れたのか、『ッフ』って笑われた。こんな時間に『トランプしよう』なんて、数多の女を相手にしてきたオリバーでも流石に驚いたいらしい。


「やっぱりダメ…?」

「ダメではないけど。トランプなんてあったかと思って。」


「そこの引き出しに入ってるの。ほら、サイドテーブルの……」


「本当だ。……ッフフ。サイドテーブルにトランプ入れてるの?ちょっと変わってるね」



「ねっ、眠れない時に、エザラとトランプする用なの!」



* * *



ソファーへ移動した私達はテーブルを挟んで座った。手にしたトランプの束を慣れた手つきでシャッフルするオリバーを見て思った。(この人出来ないことなさそう。)


それでも!私はエザラとトランプで遊ぶこと多いし、軍配は私にある……はずよ。配られた手札に目を通す。


――おぉ!これはいけるかも!そう確信した私の予想通り今のところ私の方がリーしている!


「ッフッフッフー!私、こう見えても7並べ大得意なのよ!」

「本当だね。……あ、また出せるカード無いや」


いつも彼って器用にこなすから、負けるかもってヒヤヒヤしてたのに。寝ぼけているのかな?……これは勝てるかも?!


「あぁ、そうだ。トランプのお供にチョコでも食べる?テイリーから以前もらったチョコレートなんだけど。」


えぇー!チョコ?!ちょうど甘いもの食べたかったの!


「チョコレート食べたい!」

「エラが喜ぶと思って持ってきたんだ。それに貧血にチョコは良いらしいし。僕甘いの得意じゃないからエラだけで食べて。」


オリバーが高級そうな蓋をそっと持ち上げると、艶やかに輝くチョコレートが6つ綺麗に入っていた。


あぁ、この時間に拝むチョコレートは悪魔的なビジュアルね。なんて罪なお菓子……。


「ほら、口を開けて。ほら早く」


そっと伸びた彼手にはチョコレートが。これってこのまま食べろってこと?いつもなら恥ずかしいけど……誰もいないし食べちゃえ! 


「ん〜。美味しい!」


パクッと一口で食べると、口の中で直ぐにとろけた。あぁ、美味しい。ここにホットミルクもあったら最高なのに。


「……ん?でも中に何か入ってる。」


口の中でとろけるチョコの中からジュレが出てきた。夢中だったチョコレートからオリバーに視線を移す。


「テイリーが言うには、このジュレには、お酒が入ってるみたいだよ。」


「えっ、おさけぇー?」


だから、体がちょっとポカポカして来たのね。うぅ、私アルコール苦手なの。兄が酒飲みの代わりに私は全く飲めない体質なのよ。



えぇ、言いたいことはわかる。私ってば体弱過ぎよね!



「度数高いって言ってたな。でも君お酒には強いし大した度数じゃないだろう。それに……」

 

箱の裏に書かれた説明を熱心に確認するオリバーは、ピュレのちょっとしたアルコールで酔ってるなんて夢にも思ってない。そりゃそうだって感じだけど。


(ダメだ……睡魔が……もうむり寝る……。)


「………スピー。」


「えっ、エラ……エラ!どうしたんだ。酒以外も入ってるのか?このチョコレート」



次回オリバーが振り回されます。お楽しみに〜


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