【カオス】エラシラのクッキー教室
ただ今お昼過ぎ。小腹がグーグー鳴り出す時間帯――。そんな時間から食事も取らず私とメイド5名は何をしているのかと言うと……“お菓子作り”
メイド達から『手料理食べさせれば旦那様もイチコロっしょ☆』って軽いノリで作ることになった。料理長のカロンから渋々OKを貰い厨房を使わせてもらっている。
チャレンジするお菓子はクッキー。これなら初心者も失敗する事も少ない。そう思ってチャレンジさせたのが間違いだった――。
「ま・ざ・り・な・さぁーーーい!」
「コホッ、コホッ!サラったら、薄力粉を入れてそんなに混ぜたら硬くなっちゃうわよ!」
ご覧の有様。ボールの中に入っていた薄力粉はほぼない。私達に撒き散らせながら混ぜてるから、そりゃぁ無くなるわ。頬と鼻にある彼女のチャームポイントだというそばかすが、見えなくなるほど薄力粉を撒き散らしている。
「…ッフ、サラったら全然作り方がなってないわね〜。クッキー作りっていうのはジュリー様のようにこうやっ……ッゴホ!っゴホ!」
「うわっ!煙が…コホッ、コホン!」
ジュリーが意気揚々とオーブンを開けたその時――。自慢していたミルクピンクの髪色と白いエプロンが見えなくなるほど黒い煙が部屋中に充満した。
さっきまで『焼く時間?そんなの大体でいいのよ〜』って言ってたから、嫌な予感がして遠い場所に避難して良かった。
けど…ここからでも煙すごい……コホッコホッ!
「えーん、真っ黒焦げだわぁー。ショック」
『えーん』とか言ってるけど、一ミリも涙出てないのが最高に“ギャル”って感じ。お花形のクッキーは炭みたいに真っ黒。折角かわいい形だったから勿体無い。
…あれじゃあ焦げた味しかしないだろうな。
「全くもう。焼く時間をしっかり測らないからそうなるの!私みたいに時計を見て………ん?…うん?」
黒髪を三つ編みに眼鏡をしたリリーは見るからに優等生そう。彼女のは期待できそうね!几帳面な性格なのか、焼く時間を細かく測っていた彼女のクッキーは……ん?何あれ。
天板から除いたビジュアルは固形物ですらない。あれってクッキーなの?取り敢えず、よく分からん物体が出来上がってしまった。
「私のクッキーが…ドロドロ。可笑しいわ、説明通りに作ったはずなのに……」
「あぁ、サラと腕がぶつかった時牛乳入れ過ぎたのかも。またチャレンジしましょう。」
それにしても……辺りが粉まみれバターまみれの悲惨な光景。あぁ、言葉がない。カロンが私達にキッチン貸すのを渋ってた理由はこれか…納得した。
「あぁ、私の想い描いていたクッキー作りとぜっんぜん違う!」
友達とお菓子作りってもっと――。
『もぉ〜、鼻に生地付けないでよ!私もつけちゃうからね』
『ねぇ!お花柄のクッキーかわいい。私のはリボンにしたの、どう?』
『バター私にも分けてくれない?』
ーーみたいなキャピキャピしながら作るところを想像してたのにっ!最年長63歳ノリカはノリカでクッキーと格闘中だし。←怖いから誰も近付かない。
「ねぇ、ノリカったら何作ろうとしてるのかしら?確認だけど、私たちと同じクッキーを作ってるのよね?」
隣にいるエザラに確認した。ふくよかな彼女の体型に隠れてどんな作業をしているのか全く見えないから何が出来上がるのか……。悪魔的な何かを作り出そうとしているのかも……怖いからそっとしておこう。
「ノリカさん魔女みたい……」
ノリカ…あなた後輩から魔女呼ばわりされてるわよ!まっ、私のクッキーは美味しく焼き上がるだろうから別に良いんだけどさ☆
「あっ、オーブンが温まってきました。奥様〜クッキーそろそろ焼きましょう」
私とエザラは料理が得意だし失敗しないわよ。絶・対・に!
「奥様〜、私のクッキーも一緒に焼いても良いですか?」
「えぇ、勿論良いわよ。」
横からひょっこり出来上がったというクッキーを持って現れたのはサラ。『やっと、ここまで出来ました!』と嬉しそう。それは良いけどさ、薄力粉をとんでもない力で混ぜていたから……うん、出来上がるのを待ちましょう。
――15分後――
「焼け上がるの楽しみです。私が初めて作ったクッキーですから」
「フフ、それは良かったわね。もう時間だから開けてみましょう。」
出来上がった頃だと思ってオーブンを開けると部屋中に甘い香りが包まれた。あぁ〜良い香り!
「うん、上手く焼けてる」
「わぁー!奥様のクッキーいい焼き色です!」
「手伝ってくれてありがとう。エザラ!」
「私のも美味しそうです。いただきまーっ、かった!!!」
あー。やっぱりサラのやつ硬くなったか。やっぱり混ぜすぎのせいで硬いのね、きっと。
「それなら、ホットミルクに浸して食べれば美味しいかも知れな――「ップ……」
後ろを振り向くと、さっき黒焦げクッキーを作っていたジュリーが吹き出していた。私からしてみれば、あなた達のクッキーどっこいどっこいだけどね。
「あはは。そんなにカチコチじゃあ、食べ物じゃないみたいね。氷かよって。あははは」
毒舌ギャルなジュリーはサラと仲良が良いって言われてるけど、犬猿の仲にしか見えない。私の耳には煽っている様にしか聞こえない。
本当にこの2人って仲良いの?
「もう一回言ってみなさいよ、ジュリー!あんたのクッキーこそ真っ黒じゃない!アンタの心の中みたいだわ!そんな丸焦げクッキー食べたらお腹壊しちゃうでしょうね」
「はぁ?あんたの腹事情とかこっちは知ったこっちゃない!お腹弱すぎ」
ガミガミガミガミ……
「あぁ、あの2人喧嘩しちゃいましたね。」
「本当ね……」
「まぁ、いつもの事ですから〜」
ジュリーとサラはよく喧嘩するからリリーは気にも留めてないらしい。……いつもの事なのね。なら、いっか☆
「じゃあ、奥様のクッキーを早いことお皿に盛り――
「そんなカチカチなクッキー売れないわよ」
「ジュリーのこそ売れな――って、うわぁ!」
「あー!危ない!」
私の叫びも虚しく、エザラとサラの肩がぶつかり私の作ったクッキーが床に散らばってバラバラに砕けた。
……ん?意外と形崩れてない!案外丈夫ね。
「ちょっと、2人のせいで奥様が作ったクッキーを落としちゃったじゃない!」
普段は温厚なエザラが2人を叱っている。怒っているの初めてみた。レア感。
「すみません。周りが見えていませんでした…」
「すっ、すみませんでした奥様。折角のクッキーを……」
「いいのよ〜。気にしないで……でもどうしようか。もう、これ食べさせるしか――
「「「「ダメダメダメダメ」」」」
それは一同で否定するんだ。場を和ませようとした冗談なのに。『もう奥様ったら。ダメですよ〜』みたいなノリを想像していたのに。本当にやると思われてた?いくらオリバー相手でもそんなことしないのに。
「フフフ。奥様、私の作ったクッキーを差し上げますよ。」
クッキーが出来上がったのか、私の前に現れたノリカ。先程の怖さは全くなく彼女の微笑みには飽和力がある。さっきはすごい血相で作ってたから悪魔に魂でも売ったのかと思ってたけど……ノリカが今では女神の様に見える。
「これ可愛い。ハート型のピンク色じゃない!」
「えぇ。私特製のクッキーです!」
ハートの形で売り物みたく綺麗な出来栄え。それにアイシングで柄も描いてある!凄すぎ、プロ??
「本当にいいの?こんなにいいやつ私が貰っても。しかも私が作った事にするわけだけど」
「えぇ。奥様の頑張りは私ノリカ、端からしっかり見守っていましたから。これを旦那様に渡してメロメロ作戦ですよ!」
「うぅ……ありがとう」
こうして私は救われた――かの様に思えたのはここまでだった。だってまさかあんなことになるなんて思わないじゃない?
《設定》
リリー(18):黒髪パッツン、三つ編みおさげ・、小説好き
サラ(21):ライトブラウン髪、そばかす、細身高身長
ジュリー(?):ミルクピンク髪、毒舌ギャル
ノリカ(63):ふくよか、オカン




