【謝罪】態度がまるっきり違う!
「う〜ん!やっぱりカロンの作るホットケーキは美味しいわ。」
ヴィセント家で2週間ぶりの朝食は甘〜いホットケーキ。もう一口頬張って余韻に浸る。た〜ぷりのシロップと溶けたバターが生地に染み込んで………あぁ、なんて罪なビジュアル。思考ごとバターみたいに溶けちゃいそう。
元から溶けてる?それは言わないお約束☆
「やっぱり朝はこれよ!」
本来なら、ダイニングテーブルで食事を取る時間だけど、今日だけ特別。エザラに用意してもらった簡易テーブルで優雅な朝食を取っている。気分はお姫様って感じ?
ホットケーキに大満足した私は、グビッと牛乳を飲み込んだ。これまた採れたての牛乳らしくて新鮮さが違うわ。
「ベッドの上で食べるモーニングセットは別格ね!食べ終わったらカロンにお礼を言いに行こう。」
実家の母に見られたら『ベッドの上で食事を取るなんてお行儀が悪い!』って叱られそうだから、より背徳の味がする。えへへへ。
「この光景、奥様が戻って来られたのを実感します。うぅ……ジーンと来ちゃいました。」
2週間ぶりに会うエザラは変わらず私を慕ってくれていて、こうして朝食のホットケーキも運んできてくれた。にしても目尻に涙を浮かべるなんて大袈裟過ぎるんじゃない?
「でも、良かったです!」
「ん?何が?」
さっきまで泣いていたかと思えば、一瞬で声色が明るく変わった。表情の切り替えの早さはまるで百面相みたい。
「またこうして奥様がヴィセント家に戻って来てくれた事が嬉しいんです。おじ王子には感謝感激です。」
両手を擦り合わせて『ありがたや〜、ありがたや〜』なんて呟き始めた。ねぇ、そのお祈りっておじ王子に向けてやってるの!?やめて!
「王子に感謝って…こっちは本気で嫌だったんだからね!あと、オリバーとは離婚するかもしれないし〜」
残りのホットケーキを口の中いっぱいに詰め込んで、昨日の出来事を思い返してみる。昨日は助ける為に離婚届を取り下げてくれた。けどそれは彼にとって一時的なもの。だから二・三ヶ月後には離婚することになるだろうな。エザラには悪いけど。
「だから諦めなさ――って、うわ!」
ふと顔を見上げると、目と鼻の先にエザラが迫っていた。潤んだ瞳をキラキラと輝かせて置き去りにされた子犬の顔でお願い……可愛いのずるい!
(そんな顔されたら可愛い欲が爆発するじゃない。)
「そんな顔しても無理!それに、彼ならほとぼりが覚めたら離婚すること考えてるわよ、きっと。今頃新しい妻候補でも探してるんじゃないのぉ〜?」
「使用人の私が言うのもなんですけど……」
口を隠しながら注意深く辺りをキョロキョロ見渡し耳打ちするエザラ。
「急に改まってどうしたの?」
「あの……旦那様がお選びになる方は性格がキツイ方が多くてですね」
「まぁ、大抵の令嬢ってワガママだしね。……それで言うと私も十分ワガママじゃない?」
現にこうして、寝室で食べてる訳だし。これも立派なワガママよね?いい子ちゃんではない自覚はあるのよ。
それでも私の言葉に首を横に振るエザラ。
「いえ、奥様の可愛らしい言い付けなんて比じゃないです。」
小馬鹿にした『ッフ』って笑いの後に『奥様はまだまだですよ〜』ってマウント。なんでアンタが威張ってんの?って感じだけど、それはそれとして――令嬢達のワガママ加減が気になる!
「私の上を行くワガママって、一体全体どんな感じ?…」
怖さ半分、興味半分の私は恐る恐るエザラに聞いてみると、彼女はスッと真剣な表情に変わった。
「あのですね……ファ・ジャンス山の美容にいい湧き水で顔を清めるために、毎朝2時間掛けて水汲みに行かされたり、ペラペラペラペラ〜」
余程辛かったのね。溜まった不満が湧き水みたいに出てくる。止まることなくスラスラ出てくるあたり日頃のストレスがたまっているとみた。
「私もワガママ言うけど『お菓子作って〜』とか。『肩揉みして〜』ぐらいで簡単に出来るものだものね。確かにこれはレベルが違うわ。」
以前はそんな愚痴エザラから聞かされたことないから、愛人達ってば私がいなくて気が大きくなってるのね!すごい強欲な女達だわ!
「ですので今まで奥様のことを避けていた侍女たちも奥様の良さに気づきはじめているのです!」
「でもすぐに離婚するだろうから――えっ、何?!」
バンッと大きな音を立ててドアが開いた。勢い良く4名のメイド達があっという間に傾れるように土下座をしだした。
土下座よ、土下座!それも、部屋の中入って早々に土下座されるなんてね。人生でこんなこと経験するとは思わなかった。
「奥様!そんなこと言わず一生ここに残って下さいっ!」
いつもは質問したら答える程度の意思疎通しかなかったのにいきなり来て土下座は驚くのが普通だろう。
「何が起こっているの?!」
「奥様。私たちが間違っていました。奥様ほど素晴らしい方はいらっしゃいません。いえ、いらっしゃいませんでした!」
「そうです。一生私たちの奥様でいてください。」
「「「「お願いします」」」」
皆辛すぎたのか涙を浮かべている。すごく泣くから部屋が水没しないかしら?なんて考えちゃったぐらい。これまた滝のように泣いている。
「みんな顔を上げて。アナタ達も分かるでしょ?アイツのタイプは美人系。」
「たっ、確かにそうですけど……」
「一方の私は、童顔キュートで可愛くてプリティーなタイプ。正反対なの。」
「…………はぁ…。」
「女ったらしのオリバーと2年も一緒にいたのに何も発展してないって事はつまり私に魅力を感じてないのよ。諦めなさい。」
「ちょっと自分語が過ぎるようですが、まだ奥様の魅力がまだ伝わっていないだけで、旦那様が目を覚ませば絶対に魅力に気づくはずです!」
顔を上げて必死に訴え掛けてくる。
(うぅ……私、情に訴え掛けられるの弱いのよぉ。)
「……そんなに言われると断れない。じゃあ何もなかったら諦めてね。
お人よしで結婚して嫌な思いしたのに。またお人よしを発動してしまった。だけど、メイド達の真剣な表情を見たら突き放せない自分がいた。
まぁ、頑張ったところで無理でしょうけど、こんなに訴えられたらメイド達の言葉を無碍にできない。
「そうと決まりましたら作戦会議です!」
一番後ろに居た三つ編みおさげの子が前に出るなりメモ帳と鉛筆まで取り出してやけに張り切っている様子。ねぇ、そのメモ帳何に使うの?
「そうしましょう!」
「私もやる気出てきました!」
「頑張るぞー」
「「「「「おーーーー!」」」」」
顔つきが一瞬で変わり、やる気に満ち溢れている。皆の、こんなギラギラした顔見たことないんだけど。いつの間にか掛け声にエザラも加わってるし!
「…ほどほどに頑張ろうね」
「奥様!もっとやる気を出して下さい!あのスカした旦那様をギャフンと言わせたくありません?」
「ギャフン?」
エザラの口方から『スカした』なんて言葉が出てくるとは……もう怖いものなしね。驚き過ぎて目をパチクリしちゃった。
「2年間も蔑ろにされたんですよ!旦那様をメロメロの骨抜きにしてギャフンと言わせたくありませんか!!」
「えっ、たしかにぃー!」
なんかエザラのお陰でちょっとやる気出てきたわ!
「打倒オリバー!メロメロの骨抜きにして2年間を大反省させてやるわ!」
「奥様その粋です!」「よっ!奥様!」「カッコいいです〜」
拍手と掛け声に乗せられて手を突き上げてポーズを取る私。………あれ?上手いこと乗せられてない?
楽しくなってきたし、別にいっか☆
オリバーとの同居まで漕ぎ着けたので、2人の距離が(物理的にも)近づきます!お楽しみに〜




