処刑
俺はセンターに戻る。
そして大佐に会いに行き、処刑を見物したいと申し出た。
当日、処刑で一番の被害者ということで、特等席での見学が許される。
「大佐。俺に三発鞭を打たせて貰えませんか?」
「ふふふ。よっぽど腹が立ったのだろう。ちょっと話を通しにいく」
大佐は話をつけに行く。
大佐は手招きをする。
俺は席を立つ。
俺は鞭を手渡される。
(ヒール)
俺は男の側に立つ。
「お前が鞭を打ちに来たのか。まぁ適任者だな」
「そうだ。罪は償ってもらわなくては困る」
「では始めよ」
俺は鞭を打つ。
「うっぁ」
男から声が漏れる。
会場から失笑がこぼれる。
俺は鞭を打つ。
「うっぁうぅ」
男から声が漏れる。
再び失笑がこぼれる。
そして三度目が終わる。
俺は男の肩に触り、
「生き恥を晒しても生きよ。それがお前が救った者達の救いとなる」
そう呟いた。
俺は、鞭を処刑人に手渡す。
(ぴし、ぴし、ぴし)
鞭の音は三十回響き渡った。
そして男は倒れた。
「これにて処刑は終了とする」
処刑の打ち切りが決まった。
人々がはけるなか、処刑人は動揺していた。
「何があった?」
大佐は尋ねた。
「死んでいません。気絶しているだけです」
「なに?本当だ。悪運の強い奴め」
「大佐。これは実に面白い」
俺は言った。
「なにが面白い?」
「昔の文献に、鞭打ちの刑を耐えた者の髭には悪魔が宿ると言われています」
「なに?悪魔が宿る」
「はい。ですので、その髭を剃り、燃やすことで、魔物討伐の役に立つかもしれません」
「なるほどな。しかし耐え抜いた者は罪を取り消されるのだぞ」
「しかし、この髭は目立ちすぎます。どこかで生きておれば、そしりは免れぬかと。それに髭ですし、国家への反逆行為ですから、髭とはいえ活用なさるのが、良策かと」
「ふふふ。面白い提案だな。ではお前が剃ってみろ」
「よろしいので?」
「あぁ」
俺は男の髭を剃った。
「こいつ。髭がないと、ずいぶんおぼこい顔をしておる」
大佐や周りの連中は笑った。
俺は火を借り、髭を燃やす。
「これで悪魔は滅ぼしました」
「そうだな」
大佐は言った。
「記念に鞭を貰えませんか?」
俺は言った。
「やれ!」
「はっ」
俺は鞭を貰った。
「何に使う?」
大佐は目を細める。
「二度とこういう事が起きぬよう。近くに置いておきたいのです」
そう返した。
……
男は解放された。
そして数日してセンターを訪れた。
護衛が警戒をしていたが、武器がない事を確認させ、俺は執務室に案内をした。
「何の用だ。復讐か?」
「治癒士長!これはお前が仕組んだのか?」
「何のことだ?」
「お前は生き恥を晒しても生きよ。それがお前が救った者達の救いとなると言った。今から処刑される者に対して」
「俺には、君が死ぬように見えなくてな」
「そして髭だ」
「怒ったのか?」
「いや別に良いのだが、なぜかお前に救われたように思ってな」
「救ってなどおらぬ。偶然だ」
「そうか」
「これからどうする?」
「金もない。保護してくれるところもない。生き恥を晒しながら生きるよ」
男は苦笑いをした。
「この国は物資不足だ。包帯用の綿が足りていない」
「それを作れと?金がないよ」
「金なら俺が出そう」
「どうすれば良い?」
「君は髭がなくなって、誰かわからなくなった。いっその事名前を変え、商人になったらどうだ」
「では付けてくれ」
「そうだな。フグでどうだ?」
「フグ?毒でもありそうな名だな」
「パファーも変わらんだろ」
「まぁ良い。ではフグ商会と名乗ろう。契約栽培農家にするか、自社農場を持つかだな」
「自社農場を持てばよいだろう。お前の私兵も雇うと良い」
「そんなに給与は払えん」
「そう言えば良い。それでもついてくる奴だけ雇えばいい」
「お前は善人なのか?」
「善人?俺は商売の話をしているだけだ。供給の少ない物を作って儲ける。ちょうど職に困った男がいる。チャンスに乗っかっただけだ」
「そうか。わかった。でも感謝はする」
「それは構わんよ。しかし二度と髭は伸ばすな」
「なぜだ?」
「鞭打ちの刑に耐えた男の髭には悪魔が宿ると言われている。だから国の為に、剃った髭は火にくべろ」
「そうか。そんな話があるのか。おぉわかった。そうする」
……
俺は土地と家を買い、そしてフグに商会を作らせた。
貴族とはいえ、成り上がりなので、商才もあった。
はじめてまもなくして、商会は軌道に乗る。
フグからの売上の一部で酒を買い、
神殿に持っていく。
「酒を持ってきました」
「おぉ来たか」
「あのパファーからの献上品です」
「なに?ワシへのか?」
「はい」
「というか生きておったのか?」
「はい。神様の鞭ヒールで」
「あれ効いたのか?」
「はい」
「ワシも長く生きているが、新しい才能に目覚めた気がするぞ」
「そうですね。意外でした。でも気絶はしてました。やっぱり痛いんでしょうね」
「そりゃそうだろう。そうだ髭はどうなった」
「鞭打ちの刑に耐えた者の髭には悪魔が宿るという話を出して、剃りました」
「そんな話があるのか?」
「いや、ないですよ」
「作ったのか?」
「一応」
「はははは。それは面白い。それでどうだった」
「子供のような顔をしてました」
「なるほど。だから髭に固執しておったのか?」
「それでなんでワシに献上品?伝えたのか」
「いえ。職がないそうなので、包帯用の綿花の農家と商会をしないかと提案したのです」
「それでやると。つまり今日の酒はその売上か」
「ご明察」
「しかしかつての敵が、今は酒を運んでくるとはな。実に面白い」
「それは神様の懐の深さですよ」
「それは否定せん」
「ははは」
「一件落着だな」
「いえいえ。問題は何も解決していません」
「なぜだ?」
「そもそも今回の問題は、優秀な治癒士不足じゃなく、包帯の供給量が不足している問題ですから」
「お前には何もできんだろう」




