無力
俺は神殿を後にした。
お前には何もできんだろう。
その言葉がおかしかった。
別にハマー神を軽んじているわけではない。
ただハマー神に何もできないだろうと言われると、
できるぞ。お前には!と言われている気さえ起こる。
信者なのに、神の言葉を信じない。
まるで信仰心の少ない不信心者だ。
俺は大佐に会いに行った。
「どうした」
「あの例の貴族の件なのですが、前線以外でもかなり被害が深刻化しているのでしょうか?」
「あぁ、否定はせん」
「理由はわかりますか?」
「ケラ。君のやっていた事だよ」
「俺の?弱い魔物ですか」
「あぁ。弱い魔物も固まれば強くなるし、弱い魔物も経験を積むと、強い魔物になる」
「弱い魔物が強くなる」
「あぁ、あまり知られてはないがな」
「つまり大きな対策はなく。地道に弱い魔物を討伐し続ける事だけだと」
「そうなるな」
「それは軍部はもう」
「把握済みだ。しかしな、弱い魔物を討伐するインセンティブがないのだよ」
「国が報酬を出せないと」
「こういう前線だと軍隊を出しやすいが、貴族の領地だからな。軍も派遣しにくいし、経費もかかりすぎる。国庫は空寸前だろうよ」
俺はセンターに戻った。
完全に方向性を見失った。そう感じた。
気持ちを立て直そう。
そう思いセンターを見回り、包帯にヒールをかけた。
そして、ラスボラとアカヒレに会いに行った。
彼らは相変わらず真面目に巡回していた。
「止血長。お疲れ様です」
二人は頭を下げた。
「お疲れ様。どうだい?」
「いや。最近ほとんどいませんね。退屈でしかたがなくって」
アカヒレはあくびをした。
「この仕事は君らにとって、良いのかい?」
「そうですね。給料は冒険者のほうが大きいが、安定してるし、なによりリスクが低い」
ラスボラは答える。
「冒険者っていうのは、そもそもどんな人がなるんだ?」
「俺ら二人は孤児です」
二人は答えた。
「そうか。仕事がなくってか」
「そうですね。住む場所と食事が、あればなんでもよかったんですが」
ラスボラは言った。
「仮にだけど、住む場所と食事があれば、今の仕事くらいだったら、平気か?」
「えぇ。リスクは少ないし、駆け出しの冒険者なら、三年くらいはしたいんじゃないですか」
アカヒレは笑った。
俺は再び、大佐の元に行く。
「どうした?」
「今私の下で弱い魔物討伐で働いてくれている方がいます。その方が駆け出しの冒険者なら、住む場所と食事が提供されれば、三年くらいは無給もしくは薄給でも、弱い魔物討伐で働いてくれるのではないかと、教えてくれたのです」
「それは本当か?」
「はい。冒険者は始めがとにかくリスクが高いです。死ぬかもしれないのに、クエストをクリアできないと報酬が貰えない。たしかに住む場所と、食事が提供されるなら、無給でも働くという者がいてもおかしくないかと」
「近くの冒険者ギルドに行き、少しそこら辺調べてくれないか?」
大佐は言った。
「はい」
俺は近くの冒険者ギルドに行き、事情を説明した。
「なるほどな。弱い魔物の討伐なぁ。実はな。いま弱い魔物の討伐依頼が出てないんだわ」
ギルド長は言った。
「そうなのですか?」
「あぁ。だから野放し状態。冒険者も一応駆除はするが、積極的にはしない。目当ての魔物を倒すのに邪魔な場合だけ狩る感じだ」
「それだと冒険者が育たないのでは?」
「そうそう。それだよ。初心者がイキナリ多少レベルの高い魔物と戦うから、冒険者の数が少なくなってる」
「だったら、いけますか?」
「人によるだろうよ。ちょっと待ってくれ。おい!アベニーこっち来てくれ」
「はい!」
「こちら近くのセンターの止血長さん」
「はじめましてケラです」
「アベニーです」
「話をしてみな」
「はい。いま弱い魔物を討伐してくれる方を探しています。家と食事は提供できますが、報酬を出すのは難しい現状です。それでもやってくれる方はいませんか?」
「はい。僕やります!」
「はっ?」
「僕やります!」
「報酬を出すのは難しいのですよ」
「家と食事が出るんですよね。やります」
「危険かもしれないですよ」
「今弱い魔物を討伐しても報酬が出ないのですよ。だから僕らは毎日命がけです。弱い魔物を倒して、生活できるのなら、ありがたいです。ただ」
「ただ?」
「強い魔物も倒しには行きたいです。やはり冒険者なので、お金も欲しい」
「なるほど。弱い魔物を倒すことで、最低保証を得て、機会があれば、強い魔物も倒すと」
「そういう事です。利用しちゃう事になりますけど」
「いえ。こちらも同じですから」
「では、こちらでも話を進めてみます。もし可能になったら、お声がけします」
俺は挨拶をし、大佐の元に向かった。
大佐に事情を伝えると、
「すぐに動く」
と確約してくれた。
まず軍の駐屯地がある近くの初級クラスの冒険者は、軍の施設と、そこでの食事の提供を受けられる事になった。
その見返りとして、地域の巡回と弱い魔物の討伐を請け負う事になった。
街では冒険者ギルドと宿屋、公共施設などが協力し、施設と食事の提供を。
村では空き家と、出荷できないが食べるには支障のない農作物の提供を。
貴族の領地でも、同じようなことが行われることになった。
需要があったのだろう。
わずか三か月ほどで事情が大きく変わった。
しばらくして、アベニーが俺に会いに来た。
「お久しぶりです」
「活躍は聞いてるよ。ありがとう」
「こちらこそです。あれから新人冒険者は一人も亡くなっていないのです」
「そうか……」
「前は月に一人は亡くなってましたから」
「そうか……」
「ありがとうございます」
「いや。こちらこそありがとう」
「この槍見てください。ちょっと強い魔物を倒せるようになって買ったんです」
「そうか……」
「この槍……、仲間が欲しがってた槍で、もうそいつはいないんですが、彼の分も生きようと思って」
「そうか……」




