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8/12

不正

俺は、残りの包帯全てを確認する。

しかしヒールはかかっていなかった。


ヒールが解けたか。

すり替えられたか。

俺は残りの包帯にヒールをかけ、

それで止血をやり直させた。

すると再び通常の治癒効果が出始めた。


センターに戻り、

カラシンにすり替えられた可能性と、

確認後に劣化した可能性を伝えた。


カラシンはすぐに、他の地域の状況を確認する。

他の地域では、治癒効果は出ていることがわかった。


「他の地域では効果が出ている。恐らくすり替えられたのだろう」


「しかし誰によって」


「それは軍部が調べるさ」


大佐の指揮によって、輸送中にすり替えられたことが判明。

その首謀者は、通過地点の中級貴族だった。


軍部の怒りを買い、中級貴族は領地を没収され、処刑されることが決まった。


しかし課題が残された。


「今後包帯をどうするかだが……」

カラシンは言った。


「何か妙案でも?」


「あると思うか?」


「カラシン様なら」


カラシンは苦笑いをする。


「……」


しばらく沈黙が続く。


(こんこんこん)


「入ってくれ」


「失礼いたします」

カラシンの秘書が入ってきた。


「なんだ」


「お手紙です」


「誰からだ」


「奥方からです」


「あぁそうか」

カラシンは頭をかく。

手紙をじっと見つめる。


「どうかされましたか?」

俺は尋ねた。


「いや……」


「ずいぶん帰ってられないのでは?」


「そうなのだが、そうじゃない。この蝋を使えばいいのでは?」


「蝋を?」


「あぁ、紐か何かで荷を巻いて、そこに印章で蝋封をする」


「なるほど。さすがです。それで行きましょう」


それ以降の荷物に蝋封を施すことが決まった。


それから数週間が経った。


「ケラはいるか?」

大佐がやってきた。


「大佐!お久しぶりです」


「あぁ元気そうだな」


「はい。今日はどのような御用で」


「いや実はな。中級貴族がいただろ」


「あのすり替えた者ですか」


「あぁ。明日処刑される」


「そうですか」


「会ってみるか?」


「なぜ私が?」


「幸い死者は出ていない。つまり一番の被害者はお前だ」


「なるほど。では罵ってやれと」


「まぁ好きにしろ。近くにいるからついてこい」


「はい」


牢はセンターから三十分ほどの場所にあった。


「こいつだ」

大佐は吐き捨てるように言った。

そこには立派な口髭の男がいた。

男は口髭の立派さとは対照的に、落ちぶれた様子だった。


「彼はケラ。お前が迷惑をかけた者だ」


「あぁあんたが噂の止血長か」


「はい。お陰でとんだ時間の無駄でしたよ」

俺は苦笑いをした。


「何をしにきた。俺をいたぶりにきたのか」


「そうですね。その立派な髭を」

俺はにやついた顔を見せる。


「あぁ、その手があったな。許すぞ。切るなり焼くなりなんでもしろ。見て見ぬふりをしてやる」


「それでは」

俺は短剣に手をやる。


「ちょっと待ってくれ。この髭は蓄えたまま、処刑してくれ」

男は叫んだ。


俺は少し滑稽に思えた。

処刑を前に自分の髭を気にする男などいるのだろうか。

そう思うが、実際に目の前に存在する。


「なんで、包帯をすり替えた」


「すり替えたかったからだ」


「イジワルか」


「そうではない」


「売るつもりだったのか」


「そうではない」


「誰に使った」


「……」


「誰に使った」


「……」


「答えよ」

大佐は剣に手をかける。


「私兵だ。前線以外にも魔物は侵入している。治癒士はいるがレベルが低くて、助からん」


大佐は剣から手を離した。


「行きましょうか」


「あぁ」


俺達は牢を出た。


「処刑はどのように」


「鞭打ちだ」


「何回ですか?」


「三十回」


「亡くなりますか?」


「あぁ。でもそれでも生きていたら、罪は免除される」


「処刑はいつですか?」


「さっきも言ったが、明日だ」


「そうですか」



俺は酒を持ち神殿に向かった。

そして神に祈りを捧げる。


「ハマー神様。お話できますでしょうか?」


「あぁ」


「どうぞお酒です」


酒の匂いが神殿に漂う。


「良い酒だ。それでどうした?」


「人間関係で悩みがありまして」


「それを神に聞くか?」


「あまりにも微妙過ぎる話で、人には逆に相談できません」


「申してみよ」


「先日私の送った包帯がすり替えられました」


「ほう」


「その首謀者が捕まり、明日処刑されます。中級貴族で、すでに領地は没収されております。そして鞭打ち三十回。耐えられれば、解放されるようですが、だいたいは亡くなります」


「それがどうした。普通だろ」


「まぁそうなのですが、動機が」


「動機がなんだ?」


「私兵に使ったそうで。男曰く前線以外にも魔物は侵入している。治癒士はいるがレベルが低くて、助からんと」


「それで罪悪感にかられているのか」


「恐らく」


「お前には関係のない事だろう」


「されど」


「中級貴族……、名は?」


「パファー」


「パファー?そいつ、ワシを邪神呼ばわりした者ではないか」


「そうなのですか?しかしまだ五十代くらいですよ」


「そいつの先祖だ」


「あぁ~。じゃあ助けようもないですね」


「まぁな」


「ハマー神様。あなたなら、どんな罰を与えますか?」


「どんな罰?それはワシを邪神呼ばわりした事か?」


「はい」


「罰?難しいな。結局神殿の暴走が原因だからな。たしかにあれは邪神だよ」


「なるほど。でもムカつきますよね」


「まぁな。ものすごく惨めな気分にさせてはやりたい」


「そうですか。死ぬよりも屈辱的な事がありますよ」


「なんだ?」


「公衆の面前で髭を落とすのですよ」


「それが屈辱?」


「はい。あの男は処刑される前ですら、髭を剃られるのを拒んだ」


「よっぽどだな」


「例えば鞭打ちで生き残ったはいいが、ストレスで口ひげが生えなくなったとかは?」


「それは面白いな。どうする?」


「何か方法はありませんか?」


「考えてないの?」


「ハマー神様ならと」


沈黙が走る。


「あのさ。鞭にヒールかけてみたら?」


「ちょっと待ってください。鞭にヒールかけたらどうなるのですか?」


「知らないよ。痛みはあるけど、同時に回復もするんじゃない?」


「アバウトですね」


「そりゃそうだろ。したことないんだから」


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