不正
俺は、残りの包帯全てを確認する。
しかしヒールはかかっていなかった。
ヒールが解けたか。
すり替えられたか。
俺は残りの包帯にヒールをかけ、
それで止血をやり直させた。
すると再び通常の治癒効果が出始めた。
センターに戻り、
カラシンにすり替えられた可能性と、
確認後に劣化した可能性を伝えた。
カラシンはすぐに、他の地域の状況を確認する。
他の地域では、治癒効果は出ていることがわかった。
「他の地域では効果が出ている。恐らくすり替えられたのだろう」
「しかし誰によって」
「それは軍部が調べるさ」
大佐の指揮によって、輸送中にすり替えられたことが判明。
その首謀者は、通過地点の中級貴族だった。
軍部の怒りを買い、中級貴族は領地を没収され、処刑されることが決まった。
しかし課題が残された。
「今後包帯をどうするかだが……」
カラシンは言った。
「何か妙案でも?」
「あると思うか?」
「カラシン様なら」
カラシンは苦笑いをする。
「……」
しばらく沈黙が続く。
(こんこんこん)
「入ってくれ」
「失礼いたします」
カラシンの秘書が入ってきた。
「なんだ」
「お手紙です」
「誰からだ」
「奥方からです」
「あぁそうか」
カラシンは頭をかく。
手紙をじっと見つめる。
「どうかされましたか?」
俺は尋ねた。
「いや……」
「ずいぶん帰ってられないのでは?」
「そうなのだが、そうじゃない。この蝋を使えばいいのでは?」
「蝋を?」
「あぁ、紐か何かで荷を巻いて、そこに印章で蝋封をする」
「なるほど。さすがです。それで行きましょう」
それ以降の荷物に蝋封を施すことが決まった。
それから数週間が経った。
「ケラはいるか?」
大佐がやってきた。
「大佐!お久しぶりです」
「あぁ元気そうだな」
「はい。今日はどのような御用で」
「いや実はな。中級貴族がいただろ」
「あのすり替えた者ですか」
「あぁ。明日処刑される」
「そうですか」
「会ってみるか?」
「なぜ私が?」
「幸い死者は出ていない。つまり一番の被害者はお前だ」
「なるほど。では罵ってやれと」
「まぁ好きにしろ。近くにいるからついてこい」
「はい」
牢はセンターから三十分ほどの場所にあった。
「こいつだ」
大佐は吐き捨てるように言った。
そこには立派な口髭の男がいた。
男は口髭の立派さとは対照的に、落ちぶれた様子だった。
「彼はケラ。お前が迷惑をかけた者だ」
「あぁあんたが噂の止血長か」
「はい。お陰でとんだ時間の無駄でしたよ」
俺は苦笑いをした。
「何をしにきた。俺をいたぶりにきたのか」
「そうですね。その立派な髭を」
俺はにやついた顔を見せる。
「あぁ、その手があったな。許すぞ。切るなり焼くなりなんでもしろ。見て見ぬふりをしてやる」
「それでは」
俺は短剣に手をやる。
「ちょっと待ってくれ。この髭は蓄えたまま、処刑してくれ」
男は叫んだ。
俺は少し滑稽に思えた。
処刑を前に自分の髭を気にする男などいるのだろうか。
そう思うが、実際に目の前に存在する。
「なんで、包帯をすり替えた」
「すり替えたかったからだ」
「イジワルか」
「そうではない」
「売るつもりだったのか」
「そうではない」
「誰に使った」
「……」
「誰に使った」
「……」
「答えよ」
大佐は剣に手をかける。
「私兵だ。前線以外にも魔物は侵入している。治癒士はいるがレベルが低くて、助からん」
大佐は剣から手を離した。
「行きましょうか」
「あぁ」
俺達は牢を出た。
「処刑はどのように」
「鞭打ちだ」
「何回ですか?」
「三十回」
「亡くなりますか?」
「あぁ。でもそれでも生きていたら、罪は免除される」
「処刑はいつですか?」
「さっきも言ったが、明日だ」
「そうですか」
俺は酒を持ち神殿に向かった。
そして神に祈りを捧げる。
「ハマー神様。お話できますでしょうか?」
「あぁ」
「どうぞお酒です」
酒の匂いが神殿に漂う。
「良い酒だ。それでどうした?」
「人間関係で悩みがありまして」
「それを神に聞くか?」
「あまりにも微妙過ぎる話で、人には逆に相談できません」
「申してみよ」
「先日私の送った包帯がすり替えられました」
「ほう」
「その首謀者が捕まり、明日処刑されます。中級貴族で、すでに領地は没収されております。そして鞭打ち三十回。耐えられれば、解放されるようですが、だいたいは亡くなります」
「それがどうした。普通だろ」
「まぁそうなのですが、動機が」
「動機がなんだ?」
「私兵に使ったそうで。男曰く前線以外にも魔物は侵入している。治癒士はいるがレベルが低くて、助からんと」
「それで罪悪感にかられているのか」
「恐らく」
「お前には関係のない事だろう」
「されど」
「中級貴族……、名は?」
「パファー」
「パファー?そいつ、ワシを邪神呼ばわりした者ではないか」
「そうなのですか?しかしまだ五十代くらいですよ」
「そいつの先祖だ」
「あぁ~。じゃあ助けようもないですね」
「まぁな」
「ハマー神様。あなたなら、どんな罰を与えますか?」
「どんな罰?それはワシを邪神呼ばわりした事か?」
「はい」
「罰?難しいな。結局神殿の暴走が原因だからな。たしかにあれは邪神だよ」
「なるほど。でもムカつきますよね」
「まぁな。ものすごく惨めな気分にさせてはやりたい」
「そうですか。死ぬよりも屈辱的な事がありますよ」
「なんだ?」
「公衆の面前で髭を落とすのですよ」
「それが屈辱?」
「はい。あの男は処刑される前ですら、髭を剃られるのを拒んだ」
「よっぽどだな」
「例えば鞭打ちで生き残ったはいいが、ストレスで口ひげが生えなくなったとかは?」
「それは面白いな。どうする?」
「何か方法はありませんか?」
「考えてないの?」
「ハマー神様ならと」
沈黙が走る。
「あのさ。鞭にヒールかけてみたら?」
「ちょっと待ってください。鞭にヒールかけたらどうなるのですか?」
「知らないよ。痛みはあるけど、同時に回復もするんじゃない?」
「アバウトですね」
「そりゃそうだろ。したことないんだから」




