日常
「あの……、あれもその剣では?」
一人の冒険者が、神殿の外で指さす。
見ると、数本……、いや十本ほどの短剣があった。
「あれも、それっぽいな」
俺は短剣を回収する。
「ありがとう。見逃すところだったよ。君には一杯奢ろう」
「あれは?」
「あっちは?」
他の冒険者も、次々と指さす。
結局外に二十本の短剣が見つかり、合計で四十本手に入れた。
俺は近くの村で皆に一杯ずつ奢る。
ひさしぶりに酒を飲んだ。
気持ち良くなったが、すぐに頭が痛くなった。
そしてすぐに寝た。
俺は成果を得たことで、
センターに戻ることにした。
再び数日馬車に揺られる事になる。
センターに帰ると、
何も変わったことはなかった。
俺が帰って、皆少しほっとした顔をしていた。
俺は通りすがりの村々で買った酒を皆に振る舞った。
酒を飲み比べる機会などめったにないと、
皆が喜んだ。
治療していた兵士まで加わり、
多量に買った酒は二本を残し一晩でなくなった。
次の日、
俺はカラシンに一本、大佐に一本酒を届ける。
「大佐。四十本。確保して参りました」
俺は馬車を見せる。
「四十本も見つかったか。そうか……」
「どうかされましたか?」
「そんなに一気に集まると思ってなかったからな。予算が……」
「では今回も試用していただき、また性能が遜色なければ三か月後ということで」
「それなら大丈夫だ。すまんな。それと酒をありがとう」
「いえ。実際どの程度必要なのでしょうか?」
「そうだな。当面はこの数でいける。あとは私の部下が増えれば、そこに充当したい」
「わかりました。ではそれまでは探さないでおきます」
「そうだな。頼む」
「はい」
俺はセンターに戻る。
センターは相変わらず回っていた。
俺は倉庫を見て、ヒールのかかっていない包帯にヒールをかけた。作業はすぐに終わった。
全体を見回るが、何も問題は起きていない。
外回りに出かける。
ラスボラとアカヒレがいた。
「紹介してくれた冒険者よかったよ。ありがとう」
「またしたいと言ってましたよ」
ラスボラは笑った。
「そうか。俺も今度行く時は彼らに頼もうと思っている。それで魔物はどうだ」
「ちょっとずつ減ってるかな。最近は探索場所を増やしてはいますが、数自体が減ってる気がする」
アカヒレは目を細める。
「今日も三匹だけだからな」
ラスボラは頭をかく。
「身体が鈍るか?」
俺は尋ねた。
「まぁな。熱くたぎるものがない」
ラスボラは笑った。
日常は過ぎていく。
また三か月が過ぎ、大佐が残りの金を持ってきた。
「待たせたな」
「いえ。性能は?」
「申し分ないよ。それより前線がまた進んだ。君の働きによるものが大きい」
「そうですか」
「それでだ。また集めれるか?」
「どのくらい?」
「できれば百」
「急ぎですか?」
「早い方が助かる」
「探してみます」
「すまん」
俺は再び、皆を集めて報告した。
「はい!お土産を期待しています」
皆はそう言った。
再びヒールをかけ、準備を整える。
そして冒険者に声をかけ、今度は別の神殿に向かう。
一つ目で三十本、二つ目で四十本、三つ目で三十本の短剣を手に入れた。
二週間の予定は、一日ほど過ぎた。
包帯が足りているか心配だった。
でもセンターに戻ると、
包帯はまだ少し余裕があった。
どうも最近怪我人自体が減っているらしい。
皆に酒を配り、
大佐に挨拶をしに行く。
「百揃えてきました」
「おぉ。大変だっただろう。助かる」
「あの最近怪我人が減ったと聞きました」
「あぁ、武器の損耗と怪我人の数は、どうも関係があったようでな。あの武器のお陰で、怪我人まで減ったよ」
大佐は笑った。
その笑みは以前より、穏やかに見えた。
「いえ。私は大佐の指示に従ったまでです。また必要があれば、お声がけください」
「わかった。また頼む」
私は日常に戻る。
地獄のように見えた前線が、私には穏やかに見えた。
毎日怪我人は運ばれる。物資もいまだ乏しい。
それでも地獄というには、ノンビリしている。
そんな風に感じた。
「ヒーラーは不要だから、滅んだのでは?」
そう呟いた。
ヒールを包帯にかけること。
戦場の兵士に短剣を手渡すことで、
以前のようなヒーラーの役割は不要になった。
あちこちに神殿を建てる必要もない。
神殿側が、騎士団を構成し、魔物討伐を行うこともない。
神殿が集金をする必要もない。
そういう事だったのでは……。
神の力はいる。
しかし神の力をそのまま使う必要はない。
人間の利用しやすい形で使えば、
そもそも神の名を穢すことすらなかったのかもしれない。
私は一人で近くの神殿に向かった。
そして神に祈りを捧げる。
「ハマー神様。お話できますでしょうか?」
「あぁ君か。ずいぶん供儀の短剣で力を送ってくれているのだな」
「いろいろ重なりまして」
「信仰が戻ったと?」
「いえ。供儀の短剣が刃こぼれしないようで」
「あぁそうだな」
「軍に採用していただけました」
「そうか。だから膨大な力があるのか。それで減りが少ないんだな。しかし、あまり溜めこむのは拙い」
「どういう事ですか?」
「今はまだ私の力が衰えているゆえ、問題ないが、回復すると力が溜まりすぎになる」
「溜まり過ぎると?」
「暴走するか、力を腐らせる」
「なるほど。それは拙いですね」
「そうだ」
「しかし、困りました」
「何がだ」
「あなたへの力が足りる足りないの判断がつきません」
「ヒールが効かなくなるのはわかるな」
「はい」
「それが限界だよ」
「それはそうでしょうが、人間には予定というのがあります」
「神に予定を押し付けるな」
「それは失礼しました。自分で考えます」
「あぁ。それとたまには酒でも持ってこい」
「お酒がお好きなので?」
「好きではないが、お前は信者だろ」
「そうですね。信者らしくありませんでした」
「もっともワシも神らしくはないかもしれんがな」




